第6話 いつか私も暴走してみたい。
<前原陽菜(まえはら ひな)視点>
「しーん!一緒に弁当を食べようよ」
教室の入り口で木崎初音(きざき はつね)ちゃんが手を振っている。
「あっ、あいつ。金松堂のいちご大福の意味が全然分かってない」
弥島心(やじま しん)くんはボソボソと独り言。
「いいねー。僕も混ぜてよ」
遠藤和樹(えんどう かずき)くん!えっ。そうなの?私も混ぜて欲しい。
「一緒にどう?」
心くんに誘われた。
「うん。行く!お弁当を準備するから待って」
何だかすごい展開。心くんは私のキューピッドかも知れない。恋を運んでくる。私は心くんの後ろにくっつくようにして教室の出口に向かった。和樹くんと初音ちゃんが待っている。
「陽菜(ひな)さんも一緒なんだけどいいかな」
「もちろん構わないけど」
和樹くんがあっさり同意してくれる。初音ちゃんは私の体を下から上に値踏みするかのようにジロっと眺めた。緊張が走る。
「昨日はども。邪魔しちゃったね。ヨロシク」
初音ちゃんは笑顔で手を差し出してきた。ふふっ。握手なんて何年ぶりだろう。
「よろしくね」
私は深々と頭を下げた。奇妙な展開に教室中の女子も男子も聞き耳を立てている。学校内で気の合う仲間たちとグループ交際。男女混合って言うのは見たことないけど、問題ないですよね。
「せっかくだから外で食べよっか!グラウンドの桜の木の下とか。ちょうど満開みたいだし」
和樹くんの提案で盛り上がる。こんなことなら、お花見弁当を作ってくるんだった。和樹くんとお花見できるなんて夢みたいだ。
いざ外に出てみると風がちょっと冷たい。私たちは一番大きな桜の木の下に陣取って、風よけのために距離をつめて芝生の上に座った。ドキドキしちゃう距離。みんなの息まで感じ取れる。
廊下を通る間、幾つかの会話をした。心くんといる時は和樹くんの前でも普通に喋れてる。大発見だ。
「せーのでお弁当を開くよ。準備はいい?」
初音ちゃんの提案に従って、みんなが自分のお弁当箱のふたに手をかける。
「じゃあ、いい。いち、にー、さーん。せーの!」
色とりどりのおかず達が一斉に並ぶ。どれも美味しそう。桜の花びらがひとかけ、ヒラヒラと舞い降りる。思わずみんなが、その様子を目で追った。花弁は私のお弁当の唐揚げの上にちょこんとのった。
誰からともなく笑いがこぼれる。幸せってきっとこういうことを言うんだ。
「唐揚げゲット!」
和樹くんのお箸が私のお弁当の唐揚げに突き刺さる。
「へへ。箸に唾つけといたから、もう僕のもんな」
和樹くん!小学生みたい。
「残念!間接キスなんて全然気にしないから」
「えっ!」
初音ちゃんのお箸が横取りにかかる。ちょこまかとした素早い動きで初音ちゃんの勝ち!唐揚げは一口で彼女の口の中へと消えた。彼女は腕を腰に当てて胸を反らしてポーズをとる。
「あはははは!和樹くんの、初、間接キスは私のものになったのだ」
初音ちゃんって実は天然?でも、うらやましい。てか、初音ちゃん!心くん狙いじゃなかったの。誘いに来たのは心くんなんだし。
あれっ。あれれ。これって私の大きな勘違い?初音ちゃんの目的は私と同じ?
「はっ、初音ちゃん。僕の大切な間接キスを・・・。許すまじ、木崎初音。貴様のお弁当はもう俺様のものだ。ア、タタタタタタタタ!」
和樹くんは、初音ちゃんのお弁当のおかずに、箸で連続攻撃を加えた。悪乗りしすぎ。繰り広げられる小学生レベルの会話。私は心くんと顔を見合わせて大爆笑してしまった。
「次の標的は心くんだー」
えっ。心くんが食べようと箸を刺したウインナーを目にもとまらぬ速さで横取りしたかと思うと、自分の口に放り込んだ。
「ぐあっはっはっ。セカンド間接キスは心なのだ」
口を半開きにして茫然とする心くん。初音ちゃんの瞳が私を見てキラリと光った。
「男子二人は我がしもべに落ちた。残るはお姫様のみ。必殺、妖怪ペロリンチョ」
えっー。えー。初音ちゃんの長い舌が私のほほベロリとなめた。ザラリとしたした初音ちゃんの舌の感覚。さすがに、これには和樹くんも心くんもフリーズする。
「ご、ごめん。陽菜ちゃん。やり過ぎました」
ペコリと頭を下げて謝る初音ちゃん!かわいい顔して暴走したら止まらないんだ。でも、いつか私も暴走してみたい。
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