第14話 やるぞ。勝ってやる。気持ちを高めながら。

<木崎初音(きざき はつね)視点>


 中間テストが終わったら体育祭。三年生になった初音にとって、中学校最後の体育祭だ。小学校、中学校と馴染みの顔が揃っている。みんなと一緒に走ったり飛んだりできるのもこれが最後だ。


「初音ちゃん!学年リレーのアンカー、頑張れよ」


 幼なじみの遠藤和樹(えんどう かずき)が声を掛けてくれた。嬉しい。イケメンは存在だけで元気が出てくる。


「和樹くんだって男子の部のアンカーじゃん。気張(きば)ってね」


「まかしとき。初音ちゃんには悪いが、男子の部の優勝はうちのクラスがいただくから」


 和樹のやつ、自信満々じゃんか。爽やかな笑顔に嫌味がまるでない。少しくらいやなやつなら、あきらめもつくのに。そう、和樹は昔からカッコイイ。イケメンでスポーツ万能。頭も切れる。誰にでも優しく振る舞うから学校中がライバルだらけだ。


「和樹くんってさ。好きな女の子とかいないの?」


 うわっ。女子連中の目がこっちに注目している。みんな和樹のことになると興味津々なんだなー。まっ、人のこと言えないけど。


「いきなりの質問だね。初音ちゃんのことは大好きだけど」


 和樹は何時だってそうだ。恥ずかしいことを平気で言ってくる。聞かれれば周り女の子全員に同じことを言うから質(たち)が悪い。小学校の時は本気にした娘(こ)が続出した。


「だからそう言う好きとかじゃなくて」


「じぁあ、どんな好き?」


「あのさー。こ、恋人にしたい人って意味で・・・。この人のためなら頑張れるって人のことを言ってるの。もう、乙女心がわかんないかなー」


「初音ちゃん!恋しているの」


「んーっ。もう、初音の事はどうでもいいから。初音は和樹くんに聞いているんだから」


「そうだなー。良くわかんない。みんな、それぞれ可愛いし、誰かを選ぶなんて僕にはできない」


 きたー。イケメンの模範解答。和樹くん、何時からアイドルみたいなことを言う様になったのだ。


「そう言うのは優しさとは違うんだけどなー。女の子は自分のためだけに一生懸命になってくれる人が好きなんだよ」


 せっかく和樹と話しているのになんで、初音は弥島心(やじま しん)のことなんて思い浮かべてんだろう。心のやつ。前原陽菜(まえはら ひな)ちゃんの為なら、火の中だろうと水の中だろうと何も考えずに飛び込んじゃうんだろうな。


「そっかー。そうだよな。その点、心は偉い。尊敬できるやつだ」


「えっ・・・。和樹くんもそう思う?」


「いやっ、だって、心は人の嫌がることでも進んでやるじゃん。掃除とか、学校の係とか」


「うん」


「あいつさー。誰も見てなくても手を抜いたりしないんだよね」


「うん」


 和樹くんと話しているといつも心の話になる。気が付くと初音も心の話をしている。空気みたいな存在だからイジリやすいのもあるけど。心とは三年生になってクラスが別々になって分かったことがある。心がいないクラスは息苦しい。


「何やってんだー。心のやつ。グラウンドの石とか拾っているし。おーい、心。何やってんの!」


 二人で心の所に駆けていく。


「心!石拾いの係だっけ」


「違うけど、転んで当たったら痛そうだから・・・」


「リレーの選手でもないのに」


「リレーの選手じゃないから暇なんだよね」


 心のやつ。グラウンドの石なんて拾っていたらきりがないだろ。てか、心は何時だって、誰も見ていないところでコツコツと意味のないことに精を出す。呆れると言うか、くそ真面目と言うか。


 だけどほっとけないんだよねー。なんか、かわいいんだもん。


「しょうがねーなー。僕も手伝う」


 和樹くんは屈んでコースにある石を拾い集めだした。二人並んで石拾いをしている姿。微笑ましいって言うか。笑っちゃう。


「初音もやろっかなー」


「初音ちゃんはリレーの代表選手なんだから、そろそろウォーミングアップしといた方がいいんじゃない?」


「初音ー。もう直ぐ女子のリレーが始まるよ」


 遠くで初音のクラスの女の子が手を振っている。


「ちっ。呼ばれたみたい。んじゃあ行ってくる」


「おうっ。活躍、期待してっかんな」


「初音ちゃん。無理して怪我すんなよ」


 和樹くんがハイタッチを求めてきた。初音は和樹くんと、ついでに心とハイタッチしてリレー選手の集まる場所に向かった。やるぞ。勝ってやる。気持ちを高めながら。

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