第11話 『門番と魔物の群れ』もういい、喋るな!出すな!

【グランベリー王国】

若き女王ラズベリーによって一代にして建てられたカラフルな城。グランベリー城はぐるりと囲むように城下町があり、その城下町を守るように高い壁が覆っている。保身で建てられた壁だが、平和で戦争のない中立国だ。



あれから8時間は経っただろうか、俺達は目的地のグランベリーの門まで数メートルといった所まで来ていた。

ようやく辿り着くのか、、、。長かった、、、。


小高い山から見えたグランベリーはそんなに遠くにある訳ではなかった。飛んでいけば一時間、歩いていってもそんなに時間はかからない距離のはずだった。そう、普通に進んで行けば。




平野へと続く坂道を進んでいると大きな横穴が目に入った。近くに何も気配はないが、高さは3メートルほどある穴だ、きっと魔物の巣に違いあるまい。俺は仲間達に離れて通るように目配せをしようとした、が、そのとき既にとびこは魔物の巣に侵入して子供を誘拐してきた。


ウリ坊にユニコーンの角を生やしたような姿のその魔物はとびこの胸にぎゅっとロックされており、目に涙を浮かべながら小さく鳴いていた。


「落ちてたのよ」「違うだろ、離してやれ」「そうね、、、よし、飼うわ」「このっ!!」


子供を取り上げようとする俺から逃げるとびこ。三人で全力で追いかける、さすがのとびこもこの状態でスキルを使えないのか低速気味だ。九死に一生のチャンスと悟った魔物の子は最後の抵抗で暴れ出した。走りづらそうにしているとびこへ俺とカタリが組み付きを仕掛けると幼女のスピードは完全に死んだ。


が、ここで茉莉花にパスが渡った。


魔物の子を小脇に抱え逃走する女。あれは短距離走の走り!じゃない、何故お前が逃げる、憎しみの感情を放ちながら近くに落ちていたバールのようなものを振り回し、追いかける俺。5メートルほどまで近づいた時、茉莉花は「あっ!」と足元に突き出た樹の根に足を引っ掛け転倒しそうになった、そして、、、。



トライ!!!!!



見事なグラウンディングが決まった。魔物の子は頭の角から見事に地面に突き刺さった。「うぅおおおっ!!」吠えながら仲間の元へと向かう茉莉花。「おおおお!!」抱き合い感動を分かちあう3人。


「いや、待て、いつからラグビーになったんだ」と、ツッコもうと思ったが、みんなの視線が魔物の子から離れている隙をつき、気絶する魔物の子を救助して巣穴へと持っていく。


野生の臭いが漂うその中には、数体のイノシシの魔物が眠りについていた。この中から子供さらってきたのか?逆に、よくさらおうと思ったな。起こさないよう気をつけて奥へと進んだ。


俺は母親らしきイノシシの寝床を見つけて多分ここだろうと子供をそっと返す、いつ起き出すかとヒヤヒヤした。そのまま巣穴の入り口まで忍び足で戻った。「良かった、目を覚まさなくて、、、」ほっと一息。


途中、とびことすれ違う。


「こいつ!!」


俺は再びさらい出そうとするとびこを羽交い締めにし、何とか巣穴から抜け出し遠ざかることができた。




ーーーーなどという、いらない寄り道を数回繰り返したため、こんなに時間がかかってしまったのだった。


「ふう、みんな可愛かったのにだわ」

「ああ、みんな可愛そうだったな」


とびこの服はここまでで抱きしめた様々な小動物の毛や羽根で汚れていた。(もちろん全部とびこから引き剥がして逃した)



「すみません、お花を摘みに行ってもいいですか?」

「またか、もういいだろ、着くんだから」


茉莉花の担ぐ飛竜の革袋は道で摘んだ花などで大きく膨れ上がっていた。(花を摘みにって、別の意味なかった?本当に摘んでくるって何なの?)



「雪政、見てくれ、オレの目が完治したようだ」

「お前だけどうでもいい」


カタリの自傷した顔面は完全に治るほどの時間が経っていた。(普通の会話だろうが、お前だけ本当にどうでもいい)



俺達はそのまま真っ直ぐと門へ向かっていく、と、あることに気づく。


「あら?門が閉まってるわね」

「ああ、たしかに」


そうなのだ。本来、グランベリーの街へ入るための外門が完全に閉まっているのだ。時刻もそんなに遅いわけではないし、締め切ったままでは交流の妨げになったりとか影響があるのでは。何かあるのだろうか。


「道は作るもの」


と、何やら恐ろしいことをつぶやくとびこの肩を掴んで静止する。


「おい、バカなことを考えるんじゃないぞ。ほら、前に門番の人が見えるだろ?話して通れるか聞くんだよ」


閉じた外門の前には二人の鎧風のローブをまとった男達が長槍を持って立っていた。正面から向かっている俺達に向こうもどうやら気づいたらしい。


「でも話しても入れてもらえなかったらわよね?」

「その場合はかもしれんな」

「、、、、、」

「わたしがくるわ!」

「オレがこよう!」

「俺が聞いてくるからお前らは何もするな!ここにいろ!」


俺は紫炎と稲妻を纏って進んでいく2人を押さえつけ門番の方に一人で向かう。その時、きっと俺の顔は酷く歪んでいたのだろう、ただならぬ形相に警戒した門番は俺に槍を向けてきた。


「止まれ!お前は何者だ!!」

「お、俺達は旅の者です。この街に入りたいんですが、ダメですか?」

「人間、で、いいんだな?」

「え?俺が人に見えないとでも」

「いや、じゃあ、その尻尾はなんだ」

「あ!」


忘れていたが俺の尻には今、ゆかりによって付けられた導きの尾があったのだった。腰のあたりを見ると尾は到着間近のグランベリー門前に向かって「ココ!ココだよ!目的地ココ!ココ!」と言わんばかりの興奮状態でバタバタ荒ぶっていた。


かわいい。


って、よく考えたら見た目的に俺が一番変なヤツだったんじゃないか。やばい、余計警戒されてしまう。俺は荒ぶる尻尾を押さえつける。


「いや、違うんです!これはアイテムなんです!中に入れれば取れるということなんで!おい、わかった!もういい落ち着け尻尾!」

「、、、ふむ、そうか。ならば良い。疲れたであろう、こちらから通ってよいぞ」


少し訝しげな感じではあったが、門番の人は外門の横にある扉を開けて俺を街の中へと誘導してくれた。ここで入るために色々説明しなければならないかと思ったが、普通に入れてくれるようだ。


「あの、この門は何で閉まってるんですか?」

「うむ、実は最近、『ホスゲ』という自称魔賢者がこのグランベリー王国近辺で悪さを働いていてな。魔物を率いているそうなので緊急事態に備え外門は閉じているのだ」

「ああ、そうなんですか」

「まあしかし、我がグランベリー王国のラズベリー陛下にかかればそんな小悪党などいずれすぐに退治されるだろうがな」

「違いない」

「女王陛下を信頼されているんですね」

「もちろんだ、陛下のお写真は常に胸元にしまってあるし、寝るときは陛下の抱き枕を抱いて寝ている。昨日も夢に現われてくださったものだ」

「ふん、その程度か。オレは寝る時以外はずっと陛下のことを考えているし、陛下の抜けた髪の毛で作った人形の手に毎日キスをしている」


「、、、あの」

「何を言うか!オレだって陛下のお捨てになった衣類は回収して神棚に捧げてあるのだ!匂いもよく嗅ぐ!」

「っく、オレだって陛下が入浴されたお湯は持ち帰り神棚に捧げている!たまに飲む!」

「やめてください」

「こうなったら、オレのとっておきの隠し撮り写真をーーー!!!」

「何を!だったらオレも陛下の指で型をとったこのーーー!!!」

「やめろ!もういい、喋るな!出すな!」


俺は2人の間に体ごと入って会話を止める。これ以上話を聞いていると門番達のフェチというか曲がった忠誠心のようなものを見せられてしまう。ああ、ようやくまともな人達に会えたと思ったんだがな。というより、ここの陛下はこういう部下がいるけど大丈夫なのか。まさか、この上をいったりしてないよな。



「恥ずかしいところを見られたな、とにかく入ってよいぞ」

「このことは陛下には内緒だぞ」

「いや、言えないし言いたくないよ。で。おーい!入っていいそうだぞ、来い!」


俺は後ろを振り向き、遠くに待機させていた3人を大声で呼ぶ。すると、何やら3人は後ろ、つまり俺達がきた方向を眺めているようだった。


ん?何か落としてきたのか?すると、こちらを振り返り走って向かって来た。

いや、そんなに急ぐこともなーーー。


よく見ると、3人の後ろから砂ぼこりが巻き起こっていることに気づいた。

そして、地面が揺れ、徐々に強くなってくる。

これは一体。



「魔物が来たぞー!!」



茉莉花が叫ぶ。なんと後ろから地平線を埋め尽くさんばかりの魔物の群れが突進して来ていた。


「「「な、なにぃ!!!」」」


門番はあせる。俺もあせる。

まさか、これは、今聞いたその魔賢者とかいうやつの仕業か!俺達が来たことで外門が開くと思い大群を差し向けてきたとでもいうのか!


「た、旅の者よ!早く門内に入るのだ!!この場は我々が引き受ける!!」

「急ぐのだ!あの速さ時間はあまりない!!」

「何を言ってるんだ門番の人!あなた達も中に入るんだよ!あんなの2人でどうにかなるわけないだろ!!」

「確かにあの数は我々では無理かもしれん、、。だが!

我々はラズベリー女王陛下より、この東門を任された誇り高きゲートキーパーなのだ!!!」

「そうとも!!例えこの身が引き裂かれようとも一歩たりとてさがる訳にはいかぬ!!!」

「門番の人!!」

「ふっ、泣くな、、、。

旅の者よ、もし、城を訪れることがあったならば、陛下に伝えてくれ、我々はグランベリー王国の門番として、立派に立ちはだかったと」


「さらばだ。Enjoy your stay」



俺達は全員横の扉から街に入ると外から鍵をかけられた。一匹たりとて魔物を中に入れまいとする門番の勇姿を外門越しに感じた。


間も無く門に衝撃音が走る。あの魔物の大群がぶつかってきたのだろう、しかし グランベリー王国の門は、決して揺らぐことはなかった。そう、あの忠義に厚い門番達のように、、、。


「門番の人ぉぉ!!!くっ!」


俺はどうすることもできなかった自分を怨み、伏して地面を拳で殴った。外門の外では大きな魔物達の吠えるような声が聞こえる。



「さすがにあれにはびっくりしたな」

「間一髪です」

「でも街の中には入れたわね」


緊張感のない声が聞こえてくる。


「くそっ!魔賢者ってやつの仕業に間違いない!!あんなに大群を使って魔物を放ってくるなんて!!許せねぇ!」

「そうなんですね!じゃあ私も許せません!あんなをぶっ込んでくるなんて!!絶対に許せません!!!」

「、、、、、、なんつったお前」

「え?」


角の生えたブタ?あれ?何か心当たりがある気がする。


その時、茉莉花の背負っていた革袋が何かに反するかのように動き出ていた。心なしかすすり泣くような声も聞こえてくる。

俺は革袋を凝視しながらゆっくりと立ち上がる。


「、、、なぁ、ちょっとそれ、開けてみ」

「え?中に何もいませんよ」

「いるな?」

「はい」

「開けてみ」

「開ける。開けるとして、怒らないって言ってくれます?」

「怒らんから開けてみ」


そう聞くと、茉莉花は背負っていた革袋を開いて俺の方に突き出した。中を覗くと、何ということでしょう。角の生えたウリ坊のような子供が目に涙を浮かべながらこっちを見ていた。ちょっと考える。



ああ、、、。あんときとびこが魔物の巣穴から誘拐してきて俺が返しにいったやつじゃねぇか、、、。じゃあ、やっぱり外の魔物達はこの子の仲間で、奪われた子供を取り返しにきたってことだな。


「、、、どうしたコレ、、、」

「はい、やはり可愛かったので、再突入してゲッチュしてきました」

「ふ、、、ふふふ」

「えへへ」

「ふふははは」

「へへへへへ」

「はははははははは !!!」

「あひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!!!」



キレた。



「あの大群呼んだのお前じゃねぇかぁああ!!!何やってんだコラァァァ!!!」


怒りの感情を放ちながら俺は地面に落ちていたバールを拾うと茉莉花に向かって振りかぶった。


「怒らないって言ったじゃないですか!なに怒ってるんですか、じゃあ返せばいいんですか?!」

「返せば良かったんだよ!こうなる前になぁ!!!」

「ふふっ、逆に聞きますけど、こうなるって予測できましたか?私はできません」

「オレはできた」

「わたしもできた」

「実は私もできました。OK、私の負けです」

「うっせ!よこせ!門の外に投げる!!」


俺はバールを投げ捨て、革袋から魔物の子を救い上げると門の方へと向きなおり、振りかぶって両手で放るモーションをする。


「動物虐待にならないか」

「可愛そうです!!」

「お前だけには言われたくないわ!!」

「待って、最後に一度抱き締めたいんだけどいいかしら」

「黙ってろ元凶!!」


俺は両手を伸ばし抱っこを要求するとびこを無視し、外門の低い窓の所から魔物の子をせめてやんわりとぶん投げた。


次第に騒がしかった外は、物音一つしないといったほど静まり返ると、重い足音が聞こえ魔物の大群が遠ざかっていくのを感じた。


「行ったようだな」

「終わりよければ全てよしってやつですね」

「じゃ、わたし達も行きましょうか」

「パフェとかありますかね?」

「お肉がいいわ」

「いや、まずは名産品を狙いにいこうじゃないか」

「くぐっ、、、、、」


そう言い、街へ散策に向かう3人。あまりに軽いノリに、俺は始めてこいつらに殺意を覚えた。




ちなみに。外にいた門番の人はさすがに死ぬと思い、コの字型になった門の縁に身を滑らせ助かっていたようだ。俺等が殺そうとしたようなものだからな、生きててくれて本当に良かった。

まあ、その話を聞いたのはーーー。




俺が捕まってグランベリー城の地下牢獄に入れられた後の話だけど。

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