第15話 『運命の巡りあい』そうです、私が舞羅さんです。

グランベリー城。

真新しくカラフルなその城は間近で見ると壮観だった。おもちゃの国を想像させるその色合いは一代で国を作ったというラズベリー陛下の趣向なのだろう、雄々しさの中に可愛らしさがある。


グランベリー城に連れて来られた俺は、早速 地下牢獄に投獄された。


「入ってろフェブライ!」

「はい」

「いいか、後ほど陛下がお前にお会いになられる。それまで何もせずにいるんだ、わかったな!」

「はい」

「絶対、絶対何もするんじゃないぞ!絶対だ!わかったな!」

「わかったから、それやめて」


牢屋内で手錠を外される。そしてその場に俺を残し衛兵達は意味深長なセリフを残して階段を登って去っていった。周りに目を向ける。

そこは牢というよりも部屋だった、石の机と木の椅子、綺麗な寝床とトイレまであり、不自由なく過ごせそうな感じだ。

城が真新しいということもあるが、囚人に対する扱いが良すぎではないだろうか。

まあ、俺は何もしてないんだけど、神を倒したのだって誤解なんだし。あいつら、早く俺を助けに来ないかなぁ。


「、、、、、、、、、いや、来ねぇな!!」


そもそもあいつらが助けに来る訳がない。俺が捕まった時だってフォローせずに、他人のフリして見放してたじゃないか。そんな奴らにどう期待できるっていうんだ。俺がいなくなって好きに遊びまわっているに違いない!いや、暴れ回っている可能性があるな、そっちの方がやばい。


「くそっ、この街で舞羅さんに会えるかもって楽しみにしていたのに、捕まってる場合じゃなくなっちまったぜ!」



「今、私を呼びましたか?」



「えっ?!!」


声が聞こえた。聞いたことのある優しい声。一体、今のはどこから?

ふと前を見ると、道を挟んだ向こうの牢屋の中に誰かいた。



「あなた、私を呼びましたね?」

それは赤く長い髪を後ろに結んでいた。



「え?、、、あなたは、、、」

それはタートルネックのセーターに赤いロングスカートを履いていた。



「嘘だろ、、、。まさか、、、」

それは燃えるような赤い瞳をしていた。



「ま、、、」

ぺたん座りでこちらを見る女性。



「ま、、、」

それはレヴァラムゲートで出会った俺の癒し。



「舞羅さん!?」

ーーーーーーーそれは俺の聖母だった。




「何を見てるんですか?気安いですよ。もしかして私に撃ち落とされたいんですか?でしたらどうぞ私の前にきてください。瞬く間に綺麗な花火にして差し上げましょう」


「、、、、、、、、、」


な、なんて?


えっと、、、。


丁寧な言い方になっているが、つまり「何見てんだコラ、ケンカ売ってんのか、死にてぇならかかってこいや」ということかな。、、、あれ?なんだろう、この人が俺の聖母だっけ?なんかこれじゃない感が酷い。目に光がないし、何だあの逆三角形みたいな口は、、、。あ、じゃあ、人違いか。


「すみません、間違えました」

「は?今、舞羅さんと呼びましたね。そうです、私が舞羅さんです」

「、、、、、、、、、」


そこには舞羅さんの姿をした何かがいた。顔や髪の色や声や服装からみるに、まさにレヴァラムゲートのあのサポート役の舞羅さんで間違いないのだが。いや、なんていうか唯一違うところがあるとすれば胸の大きさなんだけど。俺の聖母はけっこう大きい胸をしていたが、なんていうか目の前の舞羅さんは、、、。

ーーーーー平らだ。


まてよ。レヴァラムはメルセシアを忠実に再現したもの、だが違いはある。とはいえ、容姿的に胸だけ変化があるとかありえるのか?(あ、性格もか)


まさか、この舞羅さんは舞羅さんをかたる偽物なんじゃないか?!



「あなたは、、、本当の舞羅さんじゃないですね」

「は?言っている意味がわかりません」

「俺の知っている舞羅さんは、もう少し優しく清楚で聖母のような暖かさを持った人なはず」

「面白い冗談を言いますね、私のどこが優しく清楚で暖かくないと言うんです?」

「、、、あ、ちょっとなさそうですが」

「ふっふっふっ、、。初めてですよ私をここまで滑稽にしてくれたおバカさんは、じわじわとなぶり殺しにしてあげます、あの酒場の人達のように」


何やら宇宙の帝王のようなこと言い出した。


「、、、じゃあ、本当に舞羅さんなんですか?」

「その通りです。確かに私のバッタもんが存在していて私の方がバッタもんと呼ばれることもありますが、とんでもない。私が真の舞羅さんなのです」


ここまで自信たっぷりに言われると疑いが晴れてくるな。だけど、容姿が、、、。

その時、俺は世界樹で言っていた ゆかりの言葉を思い出した。


『ま、でもこの映像は、

ーーーーーーーーだいぶ盛ってるけどね』


そっか。盛ってるって、そこか。(いや、性格も合わせてかも)

つまりこの人が俺の会いたかったこの世界の舞羅さんってことで間違い無いわけだ。



「そうですか、すいません。えっと、はじめまして俺はみやび 雪政ゆきまさって言います」

「はぁ、そうですか」

「あの、何で舞羅さんはこんなところに?」

「それは、、、。

ーーーーーーーーーーうっ!!」


急に舞羅さんが苦しみだし、頭を抱えてうずくまって震えている。


「え?!どうしたんですか舞羅さん!大丈夫ですか?!」

「くっ、ぐうぅ。わかりませんが、頭が痛い、吐き気もする、これは一体!まさか呪いの類では、、、」


俺は思い出した。酒場が酔った赤い髪の貧乳の女に壊されたということを。そしてその女はグランベリーの地下牢獄に行ったんじゃないかと。貧乳の女が舞羅さんだとしたら、、、つまり。


「あの、、、二日酔いじゃないですか、、、?」


舞羅さんが、え?といった顔でこっちをみる。




「ほほぅ、これが二日酔いですか」

「飲み過ぎたんですね」

「3日ぶりに味わいました」

「ほほぅじゃねぇ、最近あったんじゃねぇか」

「店員さんがあんなことを言うからです」

「何を言われたんですか?」

「いや~、姉ちゃん、いい飲みっぷりだねぇ~。と」

「調子乗ってんじゃねぇよ」

「すみませんが、何か飲み物など持ってないですか?」

「あ、、、小川の水なんですけど、これでいいのなら」

「いただきます」


俺はポケットの一つから、ドラちゃんの墓標のある小川で汲んだ水筒を一本取り出して、舞羅さんがいる牢屋の側へと転がして渡した。

舞羅さんは「ありがとうございます」と言ってそれを受け取ると、フタを開けて一気に飲み干した。


「ふふぁー!生き返りました、五臓六腑に染み渡りま、うっ!

ーーーーーーーオロロロロロロォ!!!」


そして舞羅さんは備え付けのトイレに身体から込み上げてくるものを解き放った。

死んだ目で見つめているだろう俺。

神様、あれ、俺の聖母なんですけど、、、。

頼むからイメージをこれ以上踏みにじらないでくれないかな。

すっきりした舞羅さんが俺の方へ振り向く。


「ふぃぃぃ。ところで、雪政さん」

「え?あ、はい!」


レヴァラムではフェブライって呼ばれてたからなぁ、舞羅さんの生声で名前を言われるのは結構ドキッとする。


「あなたは私をご存知なんですね」

「俺は異世界からきたんですが、レヴァラムゲートというゲームにあなたそっくりの人が出てくるんです名前もそのままで」

「ゲームに?」

「はい、それを森であった風神のゆかりが見て、この街に舞羅さんがいるって教えてくれたんです」

「彼女は私の親友ですからね」

。それで会いたいなって、会えるかなって思ってました」

「なぜ、偉大なるグレートな私に?」

「ゲームで見た人が現実にいるから会ってみたいっていうのもそうなんですが、、、。

舞羅さんは俺の、向こうの世界での癒しだったんです。色々教えてくれたし、相談に乗ってくれたこともありました。いつも明るく優しい声で俺に話しかけてくれてそれがすごく嬉しかった、お礼が言えたらなって」

「殊勝な心がけですね」

「あの、こんなことあなたには関係ないかもしれないんですけど、一言だけ聞いてもらってもいいですか?」

「懺悔ですね、聞いてあげましょう」

「舞羅さん、ここまでで色々あったけど、あなたは俺の支えでした。本当に、ありがとうございます」

「あなたの罪を許します、悔い改めなさい!」

「ちょいちょい水をさすのやめてもらえます?牢屋挟んでるから本当に懺悔室にいるみたいになってんですけど行ったことないけど。あと、悔い改めなさいとか言われたの人生で2回目なんだけど、俺が何したってんだよ」


そうして舞羅さんはくすりと笑った。

ふてぶてしい猫みたいな舞羅さんだったけど、ときおり嘲笑にも似た笑顔を見せるようになってくれた。

ーーーーーー舞羅さんの皮を被ってなかったら俺は殴りかかっていたかもしれない。


しかし、話をするうちにだいぶ打ち解けあうことができたことは確かだ。


「して、そんなにそっくりなんですか?ゲームの中の私は」

「あ、はい、今お見せしますよ」


俺はスマートフォンを取るため目線を落とす。


「楽しみです」

「いやほんと、胸が大きい以外はまさにそのもーーー」



突然、俺の右側の牢が爆破した。



「え、、、?」



もくもくと砂埃を巻き上げる右側の牢、一体何が起こったのだろう。答えを探して舞羅さんの方を見ると彼女の牢屋の鉄格子がない上に、手から煙が上がっている。


「あ」

「胸が、なんですって」


凄い怒っていらっしゃる。そういえば町娘さんも貧乳と言われた赤髪の女が酒場を爆破と言っていた。どうやら胸のことは地雷らしい。

っていうか今飲んでないよね?シラフでこれなの?

俺は言葉に詰まる。


「いや、その、、、。小さいのも好きだなぁってーーー」



俺の左側の牢が爆破した。



もくもくと砂埃を巻き上げる左側の牢と舞羅さんの手から上がる煙。



沸点が低い!!!



「小っさくないです」

「そうですね舞羅さんの胸は小さくないです。あの、これ、、、」


俺はスマートフォンの画面を見せようと持ち上げる。


「見たくないです、そげな如何わしいもの」

「あ、はい」


舞羅さんはプイッと顔を大きくそむける、当然の反応だな。むしろ見たら今度こそ撃ち殺されそうだ。


「牢が開いていますね。ここにはとくに用はないですし、よし、出ましょう」


舞羅さんは自分でぶち抜いた牢を出る。そして衛兵達が登っていった階段まで歩いて行った。何、そのベンチに座っててそろそろ移動しようみたいな軽いノリ。


「ダメですよ脱獄は!罪が深まります!爆破した時点で罪は深まってるんですがね!」

「私の運命からくる罪は、もっと重いんですよ、、、」

「、、、だから何ですか?!酒場を壊してここに収監されちゃったんでしょう?捕まっててくださいよ」

「ちょっとお酒のせいで覚えてないです」

「酒場の人達のようにって言ってただろ!しっかり記憶あんだろうが!」

「あなたは出ないのですか?捕まっている場合ではないのでは?」


舞羅さんが俺の左右の牢屋を爆破したおかげで俺も出ようと思えば出れる状態になっていた。


「あ、俺は、、、」


確かに仲間が暴れてないか気になってしょうがない、ここで舞羅さんと一緒に脱獄するのも手かもしれない。だけどそれは大きな罪になってしまうし、今度こそ本当に俺があいつらに迷惑をかけちまう事になる。邪神を倒そうとしてる人間がここで逃げ出すわけにはいかないんだ。


「俺は捕まるようなことはしてないんです。この後この城の陛下と会うことになってて、そこで俺は自分が無実だってことを話したいんです。俺はここに残ります」

「ーーーーでは、ここでお別れですね。お水をいただいた借りはいずれお返しします。お達者で」


そういって階段を登って去っていく舞羅さん。正面突破で行くのかな?どこまで怖いもの知らずなんだ。

しかし、この牢もめちゃくちゃ壊されちゃってるんだけど、これまた俺に疑いがかかるんじゃ、、、?





あれ?俺もしかして逃げた方が良い?

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