第16話 『ラズベリー陛下と執事長ユスラ』それ俺がやったことになってるんです?
牢獄に響き渡った爆発音を聞き付けて、上層階にいたグランベリーの衛兵達が階段を駆け降りてきた。
「なんだ!今の爆発音は!!うわぁ!」
「うわぁ!見ろこれ!うわぁ!」
「うわぁ!これはひどい!やったなぁフェブラァイッ!!!」
「違う!俺じゃねぇ!嬉しそうに言うのやめてくれ!」
衛兵達は牢屋の惨状を見るなり、待っていましたと言わんばかりに必要以上に騒ぎ立ててくる。俺は逃げれば良かったという仄かな後悔と、衛兵達に対する激しい苛立ちに苛まれていた。
「どうかしたの?」
階段の後ろから数人の衛兵を引き連れて女性が降りてきた。
薄い桃色の髪のその女性は、白銀のティアラと甲冑にラズベリー色のマントを纏っていて、背中には身の丈ほどもあるグレートソードを斜めがけに背負っていた。
「城の牢屋がズタボロボンボンじゃない、、、あ な た ね」
ギロリと睨まれ、凄い剣幕に気圧されそうになった。わかっていたけど、やはり俺に疑いがかかるのか。
「いやいや、俺はここにいただけです。これは前の牢屋にいた赤髪の人が破壊していったんだよ!」
っていうか舞羅さんは階段を登っていったんだけど、すれ違わなかったのか?
後ろからちょこんと顔を出す藍色の髪の執事服の男性。
「そうだよラズベリー。この人は牢から出てないし、あの赤髪の人がいない、巻き込まれたのさ」
「ふんっ。確認するけど、貴方がやったわけじゃないのね?」
「そうです!俺はやってない」
「全く関係ないってことでいいのね?」
そう言われると、胸の大きさのことを言って舞羅さんを破壊衝動に駆り立ててしまったと言えなくもない。
「えっと、、。ちょっとあるかもしれませんけど」
「つまり、関係者ではあるのね。よし、この者を磔刑にしなさい。国民全員で石打ちの後に火炙りにするのよ」
「毎日恒例の公開処刑ですね」
「今日の生贄は、お前だぁっ!」
「平和な街はどこいったんだよ!
ーーーーーあの、あなたは、、、?」
前に出る衛兵達。
「控え控えぃ!ここにおわす御方を、どなたと心得る!!」
「わかんないから聞いたんだよ、ってか、さっきからテンション高いな衛兵」
「この方は我がグランベリー王国の主、ラズベリー陛下であらせられるぞ!」
ふぁさっとマントを翻す女性。
そうか、この人がラズベリー陛下。グランベリー王国を一代で建てたという。それにしても若い、二十代前半、いや、十代後半にも見える。
「そして、こちらが陛下の右腕である我らが執事長のーーーー!!」
「、、、あ、え?僕は呼んでくれないんだ。あの、ユスラです」
執事長は寂しそうに自分で名乗った。
ユスラ、確か酔った舞羅さんを捕まえた人で、ナナさんいわく、この王国きっての剣の使い手だったかな。この人も若い、陛下と同じ年頃だろうか。しかし、扱いが何か雑だな、イケメンなのに。
「俺はーーー」
「聞いているわ、神殺しのフェブライね」
名乗ろうとしたところを遮られた。やっぱり俺のことはもう広まっているんだな。
しかし、おかしいな、俺が名前バレしてから衛兵がギルドに乗り込んでくるスピードが速かったような。あの時、衛兵は外から入ってきていたし、事前に知ってでもいなければ、あんなに速く包囲されることはなかったんじゃ。
「あの、ひとつお聞きしたいんですが、一体どこで俺がフェブライだって知ったんですか?」
「それはーーー」と、話しだそうとしたところに階段から肩に妖狐の子供を乗せた大柄の男が長髪にマントの男と共に入ってきた。あれは喫茶店であった人達だ。
「おおっ!すげえことになってんなぁズタボロボンボンじゃねぇか。ん?フェブライリーダーか?こんなところで何してんだ」
「カマさん達こそどうして、、。あれ?俺、カマさんにフェブライって名乗りましたっけ?」
俺はあの時はまだフェブライの名前を隠そうとしていたから、自分の本名を名乗ったはずだ。
「ん?あぁ、そうだ雪政リーダーだったな。まあ、それはーーー」
カマさんは肩にいる妖狐の子供、華鈴を見る。
カマさんと華鈴の目が合う。
「?」
俺と華鈴の目が合う。
「あぁ、お前か!俺のこと言いふらしてんのは!!」
「アタシじゃよ」
ドヤ顔の華鈴。
なるほど合点がいった。そういえば世界樹でリザードマン達にフェブライと名乗ったときに、こいつらもいたんだった。
つまりこいつが、冒険者ギルドにフェブライっていう異世界人がいるって衛兵達に言っていたわけか。
「そうだったのか!どうなってんのかわからなすぎて狐につままれた気分だったぜ!妖狐だけにな!」
「ちょっと何言ってるんかわかんない」
「何でちょっと何言ってるかわかんねぇんだよ。お前が世界樹に何の脈絡なくもなくいた事のほうがわかんねぇわ。あと小さくなってるのもわかんねぇわ。カマさんこいつなんなんですか?」
「いや、オレも今日あったばかりでよくわかんねえんだ。こいつ何でオレの肩に乗ってんだ?」
「お前、本当になんなんだよ!謎しか残らねぇぞ!!」
「牢屋では静かに~」
牢屋越しに華鈴とごたついているところを執事長が収める。
「もういい」
とりあえずこいつが広めたってことで納得したし、謎の妖狐のことはもうこれ以上 言及しないようにしよう。多分さらに謎が深まりそうだし意味はなさそうだ。
一息ついた所でカマさんが身を乗り出す。
「ところで陛下よぉ、ゴタゴタのところ悪いが先いいか?オレ達が探してた お嬢はどこの牢屋にいるんだ?」
「お嬢?」
黒髪のマントの男が俺の方に向かって説明する。
「はい、舞羅といいまして、我々 九狼が預かっていた女性なのですが。その、逃げられてしまいましてね。あ、私は
「はい、どうも
「赤髪ならフェブライの前の牢だそうよ」
陛下が目線を送る方にカマさんや衛兵達、全員が顔を同時に向けた。しかしそこには扉を無くした牢屋があるだけだった。
「いないな」
「いないわね」
「扉すらないな」
「ちなみに この惨状は赤髪のせいらしいわよ」
「おう、薄々気づいてた。じゃなければいいなって思ってた、、、。なんていうか、すまん」
「すみません陛下、お時間もいただきましたのに、またこんなことになってしまって」
「いいわ、責任はまとめて全部フェブライに押し付けるから」
「なんでだよ!俺が何したっていうんだ!」
何やらまとめて俺に罪がかかりそうになり、俺は荒々しく声をあげる。
「何したですって?!自分の胸に手を当てて思い出してみなさい」
「誤解なんだよ!それに確かに俺は神を殺したって言われているけど、それがこの国で罪になるっていうのはおかしいでしょう!」
「は?何、言ってるの?!そんなことは今は関係ないのよ!あなたを捕まえた理由はーーーーー。
王国外門への魔物を使った襲撃と、
痴漢行為及び女性衣類の窃盗と、
ギルド施設の破壊そして殺人未遂よ」
「、、、、、、、、」
何か実に親近感のある罪状だった。
「見に覚えがないとは言わせないわよ」
「あの、、。あるんですけど、、、。それ俺がやったことになってるんです?」
「は?!しらを切る気かしら?ちゃんと目撃者がいるわ、ねぇユスラ」
「うん、外門に激しい衝撃音があった後、魔物の子供らしきものを内側から投げたのを見た人がいる。君で間違いないよね」
「、、、はい」
「痴漢行為をされたと報告があり付近を調べると、女性の下着をポケットに入れているのを見た人がいる。これも君で間違いないね」
「、、、はい」
「ギルドのバーが破壊され複数名が負傷したということだったんだけど、バーカウンターの前から立ち去るのを見た人がいる。君でーーー」
「はい、そうなんですけど、もうちょっと前の部分を見た人いないんですかね?!」
「いないね」
「いないんですか?!」
「いないわね」
俺は今、仲間がしでかした全ての罪を被ろうとしていた。
「いや、そこは確かに俺なんですけど、それをやったのは俺じゃないんですよ!!信じてください!!」
「冒険者ギルドから報告があったんだけど、貴方。ーーー盗賊のレベルだけクソ高いらしいわね」
「、、、はい」
「持ってるんでしょう?パンツ」
「、、、はい」
「何を信じろって言うの?」
「俺を追い込む布石が神がかりすぎじゃないですか?」
「何言ってるのよ」
「マジ意味わからんけん草生える」
「俺、そこの狐嫌いなんですけど」
話に割り込んできたニヤケ顔の華鈴を一蹴する。どうやらこの狐耳の種族とは敵対する関係になりそうだ。
ーーーーーしかし。
詰んだ。
事態をなんとかしようとしたアフターケアが全て俺がやったという証拠に繋がってしまっているし、カタリからそのままラーニングした能力のせいで、プロの犯罪者みたいに思われている。やったことないのに。
ダメだこれ、ほんと逃げれば良かった。
っていうか、俺、何回あいつらの罪かぶればいいんだよ。
「はぁ、、、。もういいです犯罪者なんで殺してください」
「ずいぶん卑屈に開き直ったわね」
「大丈夫だよっ、処刑とかしないから!」
ユスラさんが慌ててせめてものフォローをくれる。
「雪政リーダーもやるなぁ。ウチのお嬢といい勝負だぜ」
「カマ、感心している場合ですか」
「信じてもらえないと思うけど本当に俺じゃないんですよ。あれをやらかしたのは俺と一緒にいた3人なんです。俺じゃなくてあいつらを牢屋にぶち込んどかないと、今度こそ国が火の海に包まれてしまいますよ」
『期待に答えたほうがいいかしら?』
『火を放つなら私の出番じゃないですか』
『火事場泥棒ならまかせてもらおうか』
どこからか仲間の声が聞こえた。俺はハッとして辺りを見渡すが奴らの姿はない。
「だから何でいない奴の声聞こえんだよっ!!」
『やっべ、ログアウトしま〜す』
「お前ら何か面白い機能とか見つけたろ!!」
「急に何なの?うるさいわよフェブライ!」
牢屋中に響き渡るオレの怒声に陛下達は訳がわからないようだった。衛兵達が警戒しだす。
「聞こえなかったですか?!幻聴が幻聴じゃなかったんです!」
「は?幻聴じゃないの?何も聞こえなかったわ」
「だとしたらあれはテレパシーか何かに違いない!やっべって言ったしあいつ!くそ奴ら直接 俺の脳内に!!陛下!俺が真犯人を教えます!ですから俺に協力してください!お願いします!」
声を聞いたらあの時のギルドでの事を思い出し、ふつふつと怒りがこみ上げてきた。俺は今ここに、仲間を捕まえて突き出す決心を決めたのだ。
「ん?ちょっと待ってくれるかしら。私が貴方に直接会いに来たのは何も罪状を突きつける為だけじゃないのよ、実は私の方から貴方に協力してもらいたいことがあって取引にきたの」
「、、、え?」
「もし聞いてくれるなら貴方の罪を軽くしてあげてもいいと思っているわ」
「それは、、、。取引って?一体どんなことなんですか」
「聞く気はあるようね」
ラズベリー陛下はユスラさんの方を振り向き目線を送る、うなずくユスラさん。
後ろを振り向くユスラさん、うなずく衛兵達。
振り向く衛兵達、うなずくカマさん。
振り向くカマさん、うなずく舞羅さん。
「いたぞーーー!!!!捕まえろぉおーーーー!!!!」
「そうはいきません!」
「おいこらまて お嬢ぉーー!!」
「待ちなさい!舞羅ぁぁ!!」
全力で逃走する舞羅さんを全力で追うカマさんと衛兵達。どたどたと足音を立て一瞬のうちに階段を登って彼らは消えていった。その場には俺と陛下とユスラさんだけが残った。
何だったんだ。っていうか、いたのか舞羅さん。
そしてラズベリー陛下は静かになった階段の方を見送ると、俺の方を振り替えり力強く言った。
「ホスゲ討伐に力を貸してほしいの!」
「いや、あれ見てそれなんですか、スルースキル強すぎじゃないですか」
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