第17話 『同盟結成』首をはねたら死んでしまうじゃないですか

手錠をかけられ、俺は牢屋から出された。



場所を変えて話をしたいとのことで、陛下、俺、ユスラさんの順に一列になり牢獄の階段を上がっていく。一階に上がり、歩きながら城の中を見渡すと外同様に洋式で、様々な色で彩られていた内装をしていた。

通りすがりに陛下に会釈する城内の人達だったが、彼らも俺が神殺しフェブライであること知っているのだろう。恐怖したり警戒するような目で俺を見ていることがわかった。


(尚、一部 俺がまた何かやらかすんじゃないかとほくそ笑みながら身構えている衛兵もいる。さっきの奴らだろう、期待するの本当にやめてくれ、何もしないわ)


舞羅さんとカマさん達はどこ行ったんだろうと周りをよく見ていると、地下牢から上がっていった直線状の壁に真新しい穴が空いて煙が上がっていた。

ああ、、、あそこから外に逃げたのか。いやいや、舞羅さん破壊することに躊躇なさすぎだろ。

坊勢と穴を眺める俺に陛下が質問する。


「フェブライ、あの穴に心当たりがあるようね」

「ねぇっすよ、やめてくれませんか」


2階に上がり廊下に出ると壁には窓がついていた。地下にいて解らなかったが、もう外は日が落ちているようだ。グランベリー城は街の外門のようにぐるりと城門で囲われているので、ここからでは外の景色は見えない。あいつらは泊まるところをちゃんと見つけれたのだろうか。どうか今晩は何もしないでいてくれと願わんばかりだ。




階段をさらに上へと登って3階にきた。廊下を歩き3番目の扉の前で陛下は足を止め扉を開けた。中は応接室のようだった。綺麗な装飾品が辺りを彩り落ち着きのある部屋となっている。


「どうぞ座って」


陛下に促され俺は二人掛けのソファーに腰掛けた。テーブルを挟み向こう側に陛下が座る。背中のグレートソードは肩から降ろしたが陛下の右側にある刀掛け台のようなものに立て掛けられた。この距離だと陛下の剣の間合いの内である。何か良からぬ行動でもとったら、いつでも斬りかかれるということか。陛下は俺から目を離さなかった。


「その剣と鎧を着ているのってやっぱり俺を警戒してってことなんですか?」

「いいえ、私はいつもこの格好しているのよ。好きで着ているのもそうなのだけど、グランベリー王国の陛下は常に国民を守る剣であると思われていたいからね」

「立派ですね。でも、重くないですか?」

「普段着みたいなものだから、もうすっかり重量なんて気にしなくなったわ」

「鎧が普段着って、、、。すごいな」


扉が開いた。するとユスラさんがティーセットを持って入ってきた。いつの間にか俺の後ろからいなくなり、お茶を煎れていたらしい。紅茶を俺の前にそっと置いてくれた。


「温かいもの、どうぞ」

「どうも。いいんですか?こんな待遇で」

「取引を持ちかけたのは一応こちらだしね。ユスラの紅茶は格別よ」


一口飲む、旨い。身体全体に命が吹き込まれるかのような感じだ。これが紅茶なのかと疑うほどの味。


「おいしいです。これはなんていう紅茶なんですか?」

「ホーギー茶です!」


ドヤ顔のユスラさん。いや、何だホーギー茶って、全く聞いたことがないぞ。この世界ではメジャーなのだろうか。


「あら、まだ残っていたのねホーギー茶、またの名をハイパー・デス・ライフ・ティー」

「うん、とっておきをとっておいたのさ」

「俺、何飲まされたんですか?」

「そんなことより、まず貴方のポケットの中にある物を全部出してもらいましょうか?とくにパンツ!」


俺は引きつった笑いで、複数あるポケットから一つ一つ出していった。スマートフォン、小さな革袋、木の手裏剣、水筒、お金、尻尾、パンツ、パンツ。


「ちょっとまって、こっちのは町娘のナナのだとして、そっちのは誰のなの?」

「、、、俺のです」

「今、履いてないの?」

「、、、はい」

「何がしたいの?変態なの?頭おかしいの貴方」

「上手く弁解できないのですが、履く時間がなかったんです」

「へぇ、どっちのパンツを履こうとしたのかしらねぇ」

「やめてください」

「それでこの先端の尖った太くて黒くて長いモノを、どう使う気だったのかしら?」

「下品だよラズベリー」

「あの、もう勘弁してください」


陛下は導きの黒い尾を指差しながら、まるでゴミを見るような目で俺を見てくる。盗賊レベルがクソ高くて犯罪者扱いの俺は状況が状況であるに何も言い返すことができなかった。

本物の女王陛下に蔑まれるなんてグランベリー兵士かカタリなら喜びそうなところだけど、、、。というか本来、このポジションはカタリのはずじゃないか?俺は何でこんな目にあってんだ。


「とりあえずナナのパンツとその投擲用の武器だけはこちらで預からせてもらうわ、あとは持っていても別にいいでしょう閉まっていいわよ。というか閉まってくれるかしら」


俺は特に急いで自分のパンツを閉まった。




「さて、本題に入りましょうか、、、。貴方は、ホスゲって奴を知っているかしら?」

「はい。あ、いえ、名前だけ、今日 門番の人から聞きました。グランベリーで悪事を働いている魔法使いで、外門もその為に閉めてあるのだとか、、、」

「そうなの。ここグランベリー王国は戦争のない平和な国を目指して私が建国したのだけど。最近、自称魔賢者を名乗るそいつがこの国と近くの街に悪さをするようになったのよ」

「どんな悪さを?」

「魔物を引き連れて街を攻撃することもあるけれど、目的は人攫いね。あいつの居城に連れ去られて未だに帰ってこれない人がわかっているだけでも15人いるわ」

「けっこうやばいヤツですね、ホスゲは何故そんなことを」

「攫われていったのはどれも若い女ばかりなのよ、私も言い寄られたこともあるけれど、嫁探しをしているらしいわ」


「嫁探し?」


「まったく!ハゲでヒゲのジジイのくせに分をわきまえることもできないのかしら、何が魔賢者よ!」

「ラズベリー、言葉がきたないよ。それで僕とラズベリーも現場に駆けつけて何度か止めに入ったんだけど、魔賢者だけあって妙な魔術を使ってきていつも取り逃がしているんだ」

「妙なというと」

「閃光を放ったり消えたり飛んだりね、幻術なども使うわ」

「それでいつも取り逃がしちゃうんだ、この剣で首をはねてと思ってるんだけど、流石に届かなくてね」

「?、、、捕まえようとしているのに、首をはねたら死んでしまうじゃないですか」

「え?でも動けなくはなるよね」

「あれ?この人怖い」


俺はユスラさんに茉莉花(サイコパス)にも似た恐怖を抱きつつ、話を続ける。


「それで、俺にホスゲを捕まえろと?」

「そうしてもらいたい所だけど、あの魔術をはじめて見る貴方はきっとホスゲを止めることができないわ。そこで策があるの」

「策?」


陛下はユスラさんに目配せをすると、彼は巻き物のようなものを取り出して開きテーブルに広げた。それは地図だった。陛下は伸縮する細い棒を取り出して地図の上を叩く。


「ここがグランベリー城よ。そしてここから南に行くと『迷いの森』と呼ばれている広大な森があって、そこにホスゲと魔術幻術で双璧をなしていたという『マネキ』という名前の魔導士が住んでいるらしいわ。そいつを捕まえてきてホスゲと戦わせるって作戦よ、魔術には魔術をぶつけるのよ!」


ふふんっ、と自信ありげな陛下。


「でもそいつも魔術を使うって言うんなら、捕まえられないんじゃ?魔術を使われて困ってるんでしょう?」

「問題なのは魔術ではなく対策よ。ホスゲは私達の事をもう知っているから、どうすれば安全に逃れるかの対策ができているの、それがホスゲを捕まえられない理由ね。でもマネキは私達が魔術に対抗する知識があるという事を知らないから対策が一歩遅れるはず、その隙をついて捕まえるのよ」

「同じ魔術を使うっていうのならそれなりに警戒もできるしね」

「なるほど。あ、でもそこまで計画を立てられているんでしたら、わざわざ俺なんかを頼らなくてもいいんじゃないですか?ユスラさんも剣の達人ですごい強いって聞きましたし」

「マネキもホスゲも私が直接捕まえたいって思っているわ。でも、私はこの国の女王、執政のハスカップ大臣がそれを許してくれないのよ。つまり、やるとしたらバレないよう秘密裏に行う必要があるの」

「マネキを捕まえに行くなら、できるだけ少人数で行動したい、そして君ならグランベリーの兵士でもないし適任だと思ったんだ」

「こちらは戦力が欲しい、貴方は罪を軽くできる。これは双方にとってプラスだと思うわ。どう?マネキとホスゲを捕まえるために協力してくれないかしら?フェブライ」


全く悪い条件ではない。が、それは俺が本当に罪人だったらばの話だ。




「陛下、協力します。ただ、こちらからも一つ条件を出したいのですが、聞いていただけませんか?」

「それは真犯人がどうとか言ってたあれ?」

「はい、絶対信じてもらえないでしょうが、俺についている罪は俺がやったものではないんです。やった奴らをなんとかしなければまた被害がでます、その為に陛下やグランベリーの人達の力をお借りしたいんです」

「そいつらを知っているって言ってたかしら?それはどういう人達なの?」

「邪神を倒すために異世界から呼ばれて手を組んだ仲間です」

「異世界の、、、つまり貴方はそのメンバーと協力して天空島の神を殺したってことね」

「そ、それについてはそうとしか言えませんが、、、。詳しく話をさせてくれますか?」

「今はいいわ。神殺しの仲間、グランベリー王国に被害がでるかもしれないということならば捨て置くこともできないでしょうし、力を貸しましょう」

「ありがとうございます陛下!」


陛下は手を差し出した。俺はその手を手錠のかかった両手を持ち上げて力強く握手をした。今ここに、マネキとホスゲの捕獲と俺の仲間達を捕獲するための同盟が結ばれたのだった。この世界で俺がする本来の目的って何だったっけ。


「ところで、その魔導士のマネキを捕まえに行くのはいつなんですか?」

「明日よ」

「、、、え?」

「明日よ」

「明日?」

「明日よ、聞こえないのかしら?」

「ちょっ、急すぎませんか?」

「ごめんねぇ、実は地方に訪問に行っているハスカップ大臣が明日の夜に帰って来ちゃうんだ。そうなるとしばらく城を抜け出すことが厳しくなる、タイミング的にはもう明日の朝方しかないんだよ」

「ディナーまでには戻るわよ」

「何ですかそのピクニック行ってくるみたいなノリ」

「ふん、話は終わりよ。ユスラ、フェブライを牢屋に連れて行って食事を提供してあげて」

「わかったよ」

「ああ、結局あそこには戻るんですね」

「安心して、牢屋はほとんど使ったことがないんだ。ベッドもトイレもすごく綺麗なんだよ。ーーー壊れちゃってるけど」



舞羅さん、、、。



陛下を応接室に残し、俺はユスラさんに連れられて牢獄へと戻った。

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