第14話 『冒険者ギルドへ登録』めちゃくちゃブチ切れてるじゃねぇか
喫茶店を出た俺達は、統一された町並みとは一見違った風貌の大きさの真新しい建物の前に来ていた。入り口の上には大きな看板があり、そこにはこの世界の文字で『ガロン・ダ・ロート』と書いてあった。カマさんから聞いていた名前だ、どうやらここがその冒険者ギルドのようだ。
「ガロン・ダ・ロート、ここだな」
「そうですね」
「ところで俺達なんでこの世界の文字読めるんだろうな」
「レヴァラムのゲームで言語を日本語にしているからではないですか?」
「、、、あ、え?そういうことなの?」
「レヴァラムゲートって、このメルセシアの世界と私達の世界を繋ぐ扉だって神言ってましたよね。ゆっきーのスキルもゲームいぢって覚えれたし、つまりそういうことなんですよ」
たしかに俺達はレヴァラムゲートを通して能力を得たけど。つまり、俺がリザードマンやこの街の人たちと話ができるのはレヴァラムゲートで行った設定が反映されているってことなのか。
「そっか、、、。え、じゃあさ、このスマートフォン壊れたら俺達は死ぬ、とかないよな」
「それは大丈夫じゃないか?繋がっているのはあくまでレヴァラムとメルセシアだ、スマホが電池切れしてもレヴァラムのデータは消えないだろ。ただ、作ったキャラデータを消去した場合はどうなるかわからんがな」
「じゃあ、ゆっきー。ちょっと消してみてくれるかしら」
「何でだよ!最悪消滅するかもしれねぇんだぞ、誰がやるかってんだ!って、とびこ、それまだつけてるのか?」
ふと見ると、とびこは頭にカマさんと同じくハチマキして左目を覆う形の布の眼帯をつけていた。見せびらかすように振る舞っているが、金髪にピンクのワンピース、これに布の眼帯。だいぶミスマッチな組み合わせになっている。
「これなんだか気に入ったわ、強キャラ感あるわよね」
「ああ、そう。まあ、お前が気に入ったんならいいんじゃないか。とにかく中に入ろう」
冒険者ギルドの中に入ると、そこは体育館のように広々とした吹き抜けの三階建てになっていた。街とはまた違った活気があり、武器や防具を着た屈強な男達が至るとこるにいる。
かたや俺達は素手で好き好きの服を着ている。俺はコンバット服だしカタリはミリタリー服だし、女子も私服みたいなもの(とびこの鋼鉄靴以外)。どうみても場違いな感じである。
施設内の入り口より左端にバーがあり、そこで酒を飲んでいた一部のガラの悪そうな男達が入ってきた俺達を見つけて茶化してきた。
「へっ、ずいぶんひょろひょろした奴らがきたもんだな」
「おいおい、ここは託児所じゃねぇんだぜ。幼児は帰んなぁ」
「おいおい、ここは戦場じゃねぇんだぜ。ミリタリーは帰んなぁ」
「よぉ、ねぇちゃん!こっちきて酒でも、、、あぁ、やっぱいいわ」
「なんでですか?!」
やめてくれ、こいつら気分で神殺す連中なんだぞ。こんなこと言われて黙っているとは思えない、すかさずとびこの止めに入る。
「とびこ暴れるんじゃないぞ。俺達が何のためにここにきたかわかってるだろう?騒ぎを起こすのはまずい」
「ふっ、ちょっとわたしを過小評価しすぎじゃないかしら?あの程度の挑発でブチギレるほどチキンじゃないわよ」
「今、オレをチキンと言ったな!」
「お前じゃねぇよ、鳥に反応すんなっつってんだろ!」
「でも、せっかくだから、これくらいは返しておこうかしら」
とびこは人差し指の先に力をため、ビー玉のような紫色の光の塊を指先に作った。クイッと指を傾けるとその玉はゆっくりとバーめがけて垂直に進んでいき、中央で止まると。
「
爆発した。
「うおぉあ!!」「ぎゃぁあ!!」「ぐああっ!!」
超新星爆発、イメージはそんな感じだろうか。玉は炸裂し、半径十メートル内にある酒、テーブル、人など全てのものを吹き飛ばした。爆風が辺りに巻き起こる。
「あはははっ!これがわたし流のあいさつよ!ナメた口を聞いたことを後悔するがいいわ!!」
「おぅい、うそだろお前!!めちゃくちゃブチ切れてるじゃねぇか!!」
そこには悲惨な光景が広がっていた。均等に整えられていたテーブルやイスは折れ曲がって原型をとどめてなく、酒や食べ物は粉々となって散らばっている。衝撃で吹っ飛んだワインがバーカウンターの壁を赤黒く染め、真新しい建物の一部が廃墟のように変わってしまった。
「まずいって言ったよなぁ!鳥頭か!!」
「今、オレをチキンと言ったか!」
「うるせぇな お前は!」
転がるガラの悪い男達、周りにいたギルドの人達は何事かとこちらに目を向け集まりざわつきだした。
「ほらぁ、もう。そろそろこうなるんじゃねぇかと思ってたんだよ!」
「私にまかせてください」
茉莉花がギルドの人達の方を向く。
「心配ありません皆さん!これは、ジョークでぇす!!」
茉莉花がギルドの皆さんに向かって発した。
いや、無理があるだろう何だジョークって、どんな言い訳だよ。
見ろよ、この衝撃的な光景を。今、施設の一部が崩壊したんだぞ。
「何だ、ジョークか」「脅かしやがって」「行こうぜ」
皆さんは何事もなかったようにそれぞれの場所に戻っていき、ギルドはさっきまでの雰囲気を取り戻した。
「、、、、、」俺はこのギルドの連中の正気も疑い出した。
その間、とびこは鋼鉄音を響かせながらバーの方へと歩いていく。
「な、なん、、だ、、テメェは、、、っぐ!!」
かろうじて意識のあった男がうつ伏せの状態から上体をおこそうとしたが、とびこは腕組みしながら鋼鉄の靴でその顔を踏み下ろした。
「はじめまして、ここのギルドの人ね?登録に来たんだけど、受付はどこかしら?」
「う、ぐぅぅ、、。誰、、が、、、」
「勘違いしているわね、質問ではなく拷問しているのよ。コレを直接喰らいたいのかしら」
とびこは隻眼の目を赤く光らせ、さっきの紫色の光の塊を指先に出し男に突きつけた。
「ひぃ、、、」地面に顔をねじ伏せられた男は苦しみと恐怖の表情を浮かべながらふるふるとギルドの奥を指さした。
「ありがとう、これから長い付き合いになりそうね、また会いましょう。ヘイ、マスター!」
奥のバーカウンターにいて直撃を避けたマスターは肘を付きながらよろよろと起き上がっていた。とびこはピンッと手持ちの宝石をはじくと、それはマスターの前に落ちた。
「それで店を立て直すのね、お釣りはいらないわ」
「足りんっ!!」
マスターはショックでバーの奥へ崩れ落ちた。
指先から玉を消して男の顔から足を上げると、くるりと踵を返し俺達の方に戻ってきた。
「あっちだって☆」
「いや、可愛く言ったってダメだぞ。関係ない人まで大勢巻き込みやがって」
「致命傷で抑えたわよ」
「致命傷だと死んじゃうんですよ」
「相手を選ばず喧嘩を売るからよ、止めなかったやつらも悪いわ。情状酌量の余地なし、行くわよ」
そう言ってとびこはギルドの奥の方へと歩いて行った。カタリと茉莉花が普通についていく、この2人も何も思わなすぎだろう。置いていかれる俺。
しかし、すげえ言葉知っていやがるな、幼女が情状とかなかなか言わねえよ。というより言い訳によく使ってんだろうな。
俺はそう思いながらバーの方に向かい、カウンターに置かれた宝石の横に俺の持っている宝石を全部置いた。これで何とかなるとは思わないが。
周りに転がっている男達を見たが、どうやらみんな意識を失っているだけで死にそうにないようだ。
「ごめん男達、そしてマスター。ほっとくとまたやらかしそうだから行く。後で謝りに来るから!」
俺はそう言い とびこ達の後を追ってギルドの奥へ向かう。
奥には大きな扉があって、その入り口は開放されていた。
この一つ扉を挟んだ場所で契約など行うのだろう。
中もどんな依頼が来ているかなどを見たり、仕事を受けたりする人達でいっぱいだった。
銀行窓口のような形になっていていくつか受付があり、登録や依頼など個々に看板が貼られている。
ギルドへの参加はどこで受けれるのだろうか。
「ゆっきー!ここですよぉ!ここぉ!」
「おう」
茉莉花が俺を見つけて手をふる。3人は一つの受付前にいた。どうやら先に見つけていてくれたらしい。俺は3人と合流する。
「いいか、今度こそ何もするなよ」
「場合によるわね」
「お前ら耳と目を塞いどけ」
「じゃあ、オレが耳」
「私が目ですね、眼帯してるから片手が余りました」
「やれやれ、これじゃあ誹謗中傷を言うことしかできないわね」
「口も塞いどけ!
ーーーーーすみません、お姉さん」
俺は登録コーナーの受付のお姉さんに話しかける。
「いらっしゃいませ、冒険者登録でよろしいですか?」
「あ、はい、4人です。あのこれ紹介状なんですが」
「ああ、カマさんの知り合いの方なのですか。はい、ではそうですね、登録の際に登録料がかかるのですが、これを免除いたします」
「ありがとうございます」
「それでは登録を行います。皆さん、異世界の方でよろしいですか?」
「はい、わかります?」
「カマさんからの紹介状に書いてありますし、それにやはり服装が特徴的なところがあります。あなたの服装はとくにわかりやすいです」
俺はタクティカルベストでスワットが着ているような服装だからな。このファンタジー世界でこんなの着て戦う奴なんてそうはいない、そりゃあわかりやすいか。
「でも異世界の方ならば登録は簡単なんです。本来はこちらの聖結晶に手を当てていただき、個人の能力などを探らせていただくのですが。このギルドには異世界の方用に、こちらの読み取る機械にあなたの持つこの世界との繋がりのあるものを翳していただくだけでほぼ完了します」
受付のお姉さんは電子リーダーのようなものを置いた。
「つまり、ピッてやればシャランラって感じにできるんですね!便利ですね、これ」
「電子マネー使うみたいだな。しかし、異世界の方用ってことは相当こっちに来ているってことなんだな」
「ええ、召喚世界ですので」
「この世界との繋がりならスマートフォンで触れればいいってことですね」
俺はレヴァラムゲートを起動して電子リーダーの近くにスマートフォンを翳した。
ピッ。シャランラ~♪
「本当にそう鳴るんかい」
「面白いわね、次はわたしがやるわ」
「とびこの呪縛が解けてるぞ」
「お待ちください、今読み取っております。、、、はい、ありがとうございます。
えーと、お名前は、フェブライさんですね、、、。
ーーーーーーえ?!」
「え?」「あ?」「なっ!」「何っ?」「ん?」「は?」
その場にいたみんなが俺を見る。辺りは急に静まり返った。
「はい。え?な、何ですか?」
受付のお姉さんは俺を見て何故か震えている。それだけではない、みんなが俺から距離をとり始めた。ついでに仲間達も距離をとり始めた。一体、どうしたっていうんだ?そして、受付のお姉さんは小さな声で呟く。
「フェブライ、、、神殺しの、、、?」
「、、、、、、、あっ!!」
俺は流れで登録しようとしたが忘れていた。レヴァラムのデータが読み取られるってことは俺の名前もバレるってことじゃないか!そう、『神殺し フェブライ』の名前が。
ここは冒険者ギルド、情報量は喫茶店の比ではない。俺が神殺しの汚名を受けていることは当然知れ渡っているはずだし、フェブライという特殊な名前が他人の空似であるということないだろう。
やらかしてしまった。俺は自分で秘密にしとけと言った名前を公表してしまったのだ。ギルド内がざわめきだす。
「フェブライだと?!あいつが?!!」
「何っ、フェブライ?!神殺しの異世界人か!」
「天空島を落としたっていう、あのフェブライ?!」
「だと思ったぞフェブライ!」
「マジ怖いですフェブライ!」
「化けの皮が剥がれたわねフェブライ!」
「ストップ!衛兵だ!!ここにフェブライがいるそうだな!!!」
ざわめきの中に仲間の声が聞こえてきてすごく腹が立った、、、が、そんなことよりまずいことになった。一瞬で俺は突如入ってきた衛兵に剣を抜かれ囲まれてしまった。
「ちょっ、ちょっとまって!」
「えぇい!動くなフェブライ!」
やばい、説明もできそうにない。何かこの場をおさえる方法はないのか?そうだ!俺は茉莉花に目配せをする。
ーー茉莉花、あれだ!さっきのやつをもう一回やるんだ!!ーー
通じた。
「落ち着いてください皆さん!これはジョークですぅ!!」
茉莉花が大声で言う。
「そんなわけないだろ」「ふざけているのか」「なにがジョークだ」
通じなかった。
ーーいやいや、無理ですよーー
茉莉花は、やれやれといった感じのアクションをして俺に半笑いで目配せをしてくる。待て、何でとびこのはセーフで俺のはアウトなんだよ。どっちかというと俺の方がジョークの可能性あるだろ。
「こいつだな」衛兵の一人が受付のお姉さんに聞く。
「はい、レヴァラムゲートからの情報ではそう出ています。しかも、すごいレベルです。どうしてこんな。これが神殺しの力、、、」
ああ、違うんです、俺は何もしてないんです。その経験値はそこにいる幼女のせいなんです。大体とびこのせいです。
ーーっていうか、とびこ!今、人集まってるんだから、自分が神殺しであることを言うチャンスだろ!ーー
とびこを見ると手を上げて発言権を求めていた。「喋ってもいいかしら?ねぇ、喋ってもいいかしら?」と言ってはいるようが、ギルドの人達と衛兵達が俺を見ている中、とびこの身長では手を上げても視界には入らないようだった。
ーー声をはれよっ!!何、クール気取ってんだ!!ーー
そのうちとびこは発言するのをやめ、微小を浮かべながらゆっくりと手をおろした。
ーーまたにするわーー
ーー諦めんなっ!!そういうところだぞ!!ーー
「武器は、、、持ってないのか。よし、お前達、剣をしまえ」
衛兵達は俺を取り囲んだままだったが衛兵のリーダーっぽい人の号令により剣を鞘に納めた。
ーーカタリ、あとはお前だけだ、なんとかしてくれ!ーー
カタリは衛兵から金を盗んでいた。
何やってんだお前はぁ!!
「え、衛兵さーんッ!!後ろ後ろ!!!」
「は?うしお?」
「後ろだって!!何で気づかねぇんだよ!!」
「えぇい!静かにしろ!!」
「やはり危険です、こいつは!」
「抜剣!」「抜剣!!」
衛兵は剣を抜いた。カタリは俺に向かって衛兵達の金袋を抱えながら、グッと親指を立てる。
ーー気をそらしてくれてありがとうーー
ーー違ぇだろ!!何やってんだよ!助けろよ俺をっ!!!ーー
ダメだ!!これ、もうどうしようもねぇ!!!
衛兵は俺に手錠をかけた。
「抵抗するなよ、大人しく城まで同行してもらう、いいなフェブライ!」
「、、、、、、はい」
俺は考えるのをやめた。もう御用となっておこう。
「あの、これはカマさんからの紹介状なのですが、もしかしてカマさんも何か関係が?」
「神を殺すほどのやつと知り合いなのか、カマがいる国の九狼も何か関わりがあるかもしれん!近辺にいるはずだ!カマを探せ!!」
「いや、違う!あの人は何もしてないんだ!」
「かばうつもりか?!怪しいな!!」
ああ、なぜか優しくしてくれたカマさんにも疑いが、、、。
「それに、確か登録は4人と聞きましたが、、、」
衛兵が俺と同じく異世界の人間であることを彷彿とさせる服装をしているカタリ達を見た。
「いいや、知らんなそんな奴」
「初めてみます」
「名前も知らないわ」
「名前言ってたろ嘘つくんじゃねぇ。衛兵さん、あいつらも捕まえてください」
「そこのチビ助、その眼帯、カマがしてたやつと同じものか?」
そう聞くととびこは眼帯をほどき、地面におもいきり叩きつけた。
「カマ!!信じてたのにっ!!!」
「こいつ、うぜぇ」
「ふん、どうやらカマの信者だったようだが、お前達は関係ないようだな」
「そこの髪逆立ってる奴、衛兵さんの金抱えてますよ」
「いや、もう閉まったからポケットの中だ」
「衛兵さんっ!聞きましたか?!あいつです!!」
「さっきからうるさいぞ!抵抗するなと言ってるんだフェブライ、いいからこい!」
俺の言うことだけ何も聞いてくれなかった。意気消沈して複数の衛兵に囲まれて連行される俺。
ふと茉莉花を見ると、今にも吹き出さんばかりの顔をして肩を震わせていた。
ーーーーーーーーーシバいたろか、あいつ。
そして俺はそのままグランベリー城に連行され、地下牢獄へと投獄されるのだった。
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