第13話 『 新たなスキル』アイスコーヒーを飲んで落ち着くんだ

[神殺し フェブライ]

天空エリアの神シヴァークを一瞬のうちに殺害し、天空島ガーデに存在する全てのものをメルセシアの大地に落としたとされている者。

その者は異世界より召喚された悪魔と噂され、今もこのメルセシアのどこかに身を潜めているらしいーーー。



夫人はアイスコーヒーを置いてカウンターへと戻っていった。

アイスコーヒーを眺めて沈黙する俺達。 カランッとグラスの中の氷が音をたて、全員ほぼ同時にグラスに手をつけ飲みだした。

そして飲み干す俺。大きく音をたてグラスを置いた。


「ーーーもう、広まってんじゃん、神死んだの、、、」

「ああ、早かったな。まあ天空エリアそのものを落としたんだし、そりゃそうなるか」

「しかも俺の名前で殺したことになってるし、、、」

「はい、やりましたね有名人です」

「待って、神を倒す者の称号はわたしのものよ!なんでゆっきーなの?!」

「俺はよくわからないけど、あの時 名乗らなかったからじゃないですかねぇ」

「くっ!許さない!」

「俺もお前を許さねぇ!」

「落ち着けお前達、アイスコーヒーを飲んで落ち着くんだ」

「飲み干したわ!」

「ご夫人!彼にアイスコーヒーをもう一杯!」

「はぁい」


ご夫人がアイスコーヒーを俺の前に置く。飲み干す俺、強く音をたててグラスを置く。


「とにかく、誤解なんだけどフェブライが神をやったということが広まっているんだ。俺がフェブライであることがバレると何かと厄介なことに巻き込まれるかもしれない。これからは俺のキャラネームを伏せていくことにしよう、いいな、みんな」

「いいわ、フェブライ」

「いいぞ、フェブライ」

「いいですよ、フェブライ」

「フリじゃねぇんだよ!」

「フェブライって言ってみると響きがいいわね、これからはあなたのことをフェブライって呼ぶわ」

「お前ふざけるなよ!!」

「アイスコーヒーを飲んで落ち着いてください!」

「飲み干したわ!」

「ご夫人!彼にアイスコーヒーをもう一杯!」

「まいど~」


ご夫人がアイスコーヒーを俺の前に置く。飲み干す俺、再び音を立ててグラスを置く。


「わかるだろ、ちゃんとしてくれ頼む」

「今、何でもするって言いたいですか?」

「何でもしないけど ちゃんとしてくれ」

「ちなみに何回フェブライって名乗ったんだ?」

「え?ああ、神とお前達とリザードマン達にだったかな。ゆかりには何故か本名名乗っちまったから、、、。まあ、あいつも俺がフェブライってことは知っているはずだ」

「ふむ、ゆかりが言い回らない限りは雪政がフェブライってことは広まらないだろう」

「あいつは多分そんなことはしないだろうけどな」

「リザードマンは怪しいわね。よし、今から半分滅しに行きましょう。わたしの魔人のスキルで世界樹ごと半微塵にして、本当の神を倒す者が誰なのかを知らしめてやるのよ」


そう言ってとびこは赤く目を光らせ、紫のオーラを纏って立ち上がる。


「まて!俺が神を倒したってなってんだ、そんなことしたって俺がお前に命じてやらせたってなるかもしれないだろ」

「ふぅん」


やれやれといったふうに掌を上にあげるモーションをして、オーラを消したとびこは席に座りアイスコーヒーを両手で掴んで飲む。


「苦いわねガムシロとミルクはないのかしら?」

「取ってきますね!いくつ欲しいですか?」

「いっぱいちょうだい」

「言いましたね!ふっふっふっ」


カウンターまで取りに行く茉莉花。とびこの狂言に逆に少し落ち着く俺はある疑問を持った。


「そういえばお前達の魔人とか猛禽類とかいう『テーマ』って何なんだ?そんなのレヴァラムゲートの覚えられる技とかにあったっけ?達人クラスになると身につくとか」


カタリが答える。


「いや、ない。これは自分で作って名乗っているのだ」

「自分で作っている?」

「ああ、戦士や魔法使いなどの職種から得られるスキルを他で得たスキルと合成したり追加したりして作っている。それを一つのカテゴリーにまとめたものがテーマ、猛禽類などだ。達人クラスとかでなくとも作ろうと思えば作れるぞ」

「作るのは難しいか?」

「やってみると簡単だ。例えるならそう、仮にテーマをライダーと名付けてフォルダを作るだろ。そのフォルダに、習得した騎士や魔物使いなどのスキルのファイルをそれぞれのフォルダからコピーし、ペーストするだけで大体完成なんだ。必要ならばそこにプログラミングでーーー」

「ちょ、ちょ、ちょっとまて!説明が逆に難しくなってよくわからん。パソコン関係とか詳しくないんだ、もっとこうわかりやすく」

「まず、犬を飼うじゃない。太郎丸と名付けるわね。首輪を選んで付けるのよ。散歩に行くのよ。そういうことよ」

「、、、説明それであってんのか?」

「的確に射抜いているな」

「本当か?」

「犬だけに」

「お、おう」

「ガムシロいっぱい持ってきましたぁ!」

「いいわ、好きにぶっこんで」


戻ってきた茉莉花は大量のポーションをとびこのアイスコーヒーに容赦なく突っ込む。三割ほど飲まれたアイスコーヒーは追加されたミルクやガムシロップなどでフチまで登り溢れそうだ。それを持ち上げ飲みだす とびこ。


「ふはぁ~~」


満面の笑み、とびこはとても幸せそうに飲んでいた。こいつは相当な甘党だな。逆に激甘にして、してやったりだった茉莉花は悔しそうにしていた。



「俺も、飛行スキルに何か付けたいと思ったんだけど、まだよくわからないな、適当に付けていくか」

「ならばオレの鳥の翼バードウイングスの能力をそのまま写してみてはどうだ?」

「え?あれを?いいのか?」

「飛行には色々割り振ってて自信がある、手本にしてくれ。そこから自分のいいように変えていくのが分かりやすかろう。守破離しゅはりというやつだな」


確かにお手本があれば変更するだけでいいからな。それに、この3人の中ならばカタリの飛行スキルのが速そうだし使えそうだ。とびこのは羽根動いてなかったしな。


「サンキュ。じゃあ、ちょっとお前のスキルのルート見せてくれないか沿って覚えていくから」

「ん、それより。このスキルを覚えたほうがいいだろう」


カタリはそう言って俺に自分のスマートフォンを見せる。そこにはスキル名とその効力が書かれているページが開かれていた。


「『ラーニング』?相手の技を覚える技、、、か」

「そう、中級者になるとかなり重宝される技だ。相当なスキルポイントを有するが、今の雪政ならすぐに使えるだろう。これでオレの飛行の能力をラーニングするといい。一度見ているスキルならば取得も簡単にできるはずだ」


俺は言われたとおりレヴァラムゲートのスキルページでラーニングを覚えた。そして指示に従い、カタリに手を向けると覚えれれるスキルというのがなんとなくわかった。この力は深く掘り探っていけばまだ見ていない能力まで覚えることもできそうだ。

飛行スキルに焦点を合わせて念じると俺の手が光りカタリから青い火の玉のようなものが抜き出され、それは俺の中へと浸透した。



俺はーーーー。


【飛行スキル『鳥の翼バードウイングス』をラーニングした】


【職業『盗賊』をマスターした】



「おい、ついでに盗賊をマスターしたんだけど?」

「飛行には盗賊最高クラスのスキルを付けていたから、そのせいだろうな」

「はめたな貴様」

「欲しいと言ったのは雪政だ」

「そうだけど、おかげで俺がマスターした初めての職業が盗賊になってしまったじゃねぇか」

「おめでとう」

「おめでとう」

「おめでとうございます」

「おめでたくないつってんのだよ」

「いいじゃないか、一番はじめに盗賊をマスターする奴はそうはいないだろうし、ちょっとしたネタに、、、。ん?ご夫人を見ろ」


夫人を見ると指で店の入り口を指差していた。横でアンドロイドも鼻からコーヒーを垂れ流しながら指差していた。床がコーヒーブラウンに染まっていく。

それを見送って入り口の方に目をやると、店の前に片目に眼帯をして肩に小さな子供のようなものをくっつけた屈強な男がいた。きっとあの男が夫人のいうギルドの関係者なのだろう。



店のベルが鳴る。


「よお、マスター。待ち合わせですぐ出るかもしれねぇが寄らせてもらったぜ!なんだ?床が大惨事だな」


床に広がるホットコーヒーを拭きながら挨拶を交わすマスター。と、アンドロイドに鼻栓をする夫人。


「カマさん、お疲れ様。どうぞ好きなところに座って、いつものでいいかい?」

「おう、いつものやつを頼む、それとこいつにはミルクを」


そう言い、店の奥の席に腰掛ける男。


「あの人か」

「あれを倒せばいいのね」

「お前、話聞いてた?あの人はギルドの人で情報を持っている人なんだ。俺が聞いてくるから座ってろ」


立ち上がるとびこを制止し、俺は一人でその男の方に向かう。男はいつものと言ってオーダーした生姜の香りがするホットティーを飲みながら何かの資料を見ている。肩には狐耳に着物のような物を羽織る小さな生き物がいて、出されたミルクを夢中で飲んでいた。

何か、どっかで見たことある容姿の人狐だな。


男は近づく俺に気づきこちらを向く。


「なんだ小僧共、オレに何か用か」

「あの、、、。マスター夫人からあなたがギルドの人で情報をお持ちとのことで声をかけさせていただきました。邪神について情報を得たいのですが、何か教えていただけませんでしょうか?」

「タダでな」

「命が惜しくないならね」

「ウチのリーダーを怒らせたら怖いですよ」

「座ってろって言ったんだよ!おどすな!俺を含むんじゃねぇ!」


俺の背後にいる3人を元の席の方へと押し戻し、再度、男の方へと顔を向ける。


「邪神か、悪いがオレは戦士ギルドの人間でね、そんなに詳しくないんだ。オレではなく冒険者ギルドに行ってはどうだ?最近このグランベリーにも新しく設立された冒険者ギルドがある。名前は『ガロン・ダ・ロート』、そこならば冒険者同士で情報も共有できるし登録すりゃ金も稼げるぞ」

「そうですか、冒険者ギルドですね、わかりました」

「なんだ何も知らないのか聞き損だな」

「はっ、役立たずですね、ガッカリしました」

「もうお前に用はないわ、死ぬがいい」

「下がってろ!けなすな!オーラしまえ!!」


再び後ろに近づいてきていた3人を突っ張りで元の席へと押し返し、再度、男の方へと顔を向ける。


「すいません、じゃあ俺達はこれで」

「まあまて、見たところ異世界の人間だな?ここであったのも何かの縁だ。この街のギルドには顔が利くんで、登録するならオレが紹介状を書いてやるぞ。ちったぁ優遇されるだろう」

「え?本当に?いいんですか!?」

「頼りになる漢だ、オレは初めから信じていたぜ」

「よく見たら超イケメンですね」

「見て、わたしも同じ眼帯してみたの似合うかしら」

「手のひら返しすぎだろお前ら!」


3人は俺を飛び越え男の周りを囲み褒めたくっていた。とびこに至ってはいつ用意したのか知らないが男と同じ眼帯を付けている。けなすのが速ければ褒めるのも速い、どういう行動力なんだ。



この屈強な男は『九狼くろう』という名の戦士ギルドの人で、名前をカマというらしい。九狼は別の国に存在するギルドだが、彼はグランベリーの風土やこの喫茶店が好きでよく来るみたいだった。たまたま立ち寄ったというらしいから俺達は相当に運が良かったみたいだ。

ーーーーちなみに肩にいるのは華鈴という妖狐らしい。


「なぁ、盆踊りは得意だったりするか?」

「え?何を言っているんかマジわかんない」

「たしかにそうだな」

「審査員特別賞ぐらいマジわかんない」

「たしかにそうだな、お前じゃないか」


大きさは全然違うけど、この肩の上にいる個体はあの時世界樹で突然現れた妖狐のようだった。また色々謎を残してくれる。


紹介状を書いてもらっていると、喫茶店の入り口からローブ風のマントを羽織った長い黒髪の男が入ってきた。「お、きたか」どうやらその男はカマさんの知り合いらしい、まっすぐこちらに近づいてきた。


「この人は?」

「オレと同じ九狼のやつだよ」

「カマ、おまたせ致しました」

「おう。ほらよ雪政リーダーさん、これを冒険者ギルドに持っていって受付にでも見せな。うまく稼げよ」

「あ、はい。ありがとうございます」


男は紹介状を俺に手渡すと、ホットティーをぐいっと一飲みしてマントの男と喫茶店を出て行った。もう少し聞きたいことがあったけど、(とくに肩の妖狐について)まあ、彼とはギルドにいたらどこかでまた会えるか。


「あの狐、ああいうペットがいてもいいわね」

「ペットだったのかな、あれは」

「私なら頭に乗せるわ」

「ペットはアクセサリーじゃないぞ」


近づいてくる夫人に話しかける。


「ご夫人、この街のギルドというのはどこにあるんだ?」

「近いでしょうか?」

「ああ、この店を出てまっすぐ行って左に行けば見えるよ、よかったね、あんた達、気ぃつけていきな」

「はい、ありがとうございます」


俺達は夫人に礼をいい店を出る。



おかしい。


グランベリーに住む人達がいい人達なのはわかった。

だが、中に入ってまだ死傷者を出していないのはおかしい。

てっきりそろそろ街が燃えるかと思っていたんだが、、、。

(天空島、世界樹、外門で感覚が麻痺している)


お金が手に入り、ギルドへの紹介状ももらった。これで邪神の情報も得られるだろうって、何か上手く行き過ぎてやしないだろうか。むしろ何かに導かれているような。


立ち止まり考えこむ俺に、遠くまで進んでいた3人が気づいた。


「ゆっきー、何してるんですか?置いてっちゃいますよ」

「あ、ああ」

「どうなっても知らないわよ」

「それはダメだ。まて!すぐに行く」


考えすぎだよな。

一抹の不安を抱きながらも少しずつ前進しているんだということに喜び、

俺達は冒険者ギルドへと向かっていった。



一方。


「カマ、すぐ出てしまいましたが良かったのですか?あの人たちは」

「ああ、いいんだ。さっき会ったばかりのやつらで、邪神の情報が欲しいっていうから冒険者ギルドの紹介状書いてやってただけだ。それより御真坂みまさかは見つかったんだな」

「はい、ゆかりから聞いた通り、この街にいるようです。というか、昨日、酒に酔って暴れてグランベリーの大酒場を破壊して城に連れて行かれたらしいですよ」

「まあ、いつかはやるんじゃねぇかとは思っていた」

「そうですね、ラズベリー陛下とは面会できるよう話はしてあります。行きましょうか」

「あの陛下は苦手なんだがな、なんとか穏やかに解決できればいいんだが」


男達はこうしてグランベリーの城へと向かっていった。


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