第12話 『街の人との温かな触れ合い』お前なんでパンツ盗んだんだよ

ポロっと俺の尻についていた尻尾が落ちた。



「あ、とれた」そうか、もう着いたからこの導きの尾は役目を果たしたってことなんだもんな。さっきまで元気に動いていた尻尾が全く動かなくなるとなんとなく物悲しいものがある。これ再利用できるんだろうか。俺は複数あるポケットの一つにしまった。



さて、初めての街だ。


外門から少し歩くとグランベリーの城下町の入り口があった。外から見た街は、今までの森や平野といった自然豊かな風景ではなく、戦士や商人や住民達が右往左往する まさにファンタジー世界の街であるといった雰囲気だった。


この世界に来てこれほどの人々を見るのは初めてで(人外は省く)少し気圧される。

街の入り口に着き、さてどうしようかと仲間と周りを見渡していると、ワンピースを着た金髪ポニーテールの町娘と思われる女性が話しかけてきた。


「こんにちは、ここはグランベリーの城下町よ。何かお困りかな?」


笑顔で気さくに話しかけてきたその女性は、よくゲーム世界の街の入り口にいる街案内の人みたいな感じだった。これは助かる、ちょうど何をするか迷っていたところだ。俺が応えるより先に仲間が口を開いた。


「何か食べたいわね」

「しかしオレ達は金を持っていない」

「金を出しなさい」

「4対1です。勝ち目はありまーーーふもっ!」

「うおおおおおっ!!!」


俺は仲間と町娘さんとの間に割って入り、シメの茉莉花の口を塞いだ。大声を出して誤魔化し、なんとか今のは聞かなかったことにしてくれと願った。どういうつもりか助けにきてくれた町娘さんに、いきなり金品をよこせと脅しにかかる3人、そして含まれる俺。


こいつら誰に対してもそのスタイルでいくのか。改めて思う、このパーティはヤバい。


「ど、どうかしたの?」


よし、変人と思われたかもしれんが、俺の奇声で気を反らせたか。


「すみません町娘さん!えっと、そう。ここらへんで何か美味しいお店とか、お金稼ぎや、とにかく情報が一番得やすい場所を知りたいんですが」


あ、今のは、そういう意味だったのね。と、町娘さんはあごに指を当てて考える。


「うーん、そうね。ここはパイやタルトが名産品になっていて、あそこの角を曲がったところで軒並み色々な果実のパイが売っているからそこはどうかな。

あと、、、。お金稼ぎと言った情報も含めて大きな酒場かあるからそこを教えたいところだけど、、、。今、お店が壊れちゃってるから開いてないのよね」

「え?壊れてるって、その酒場に何かあったんですか?」

「うん、これは聞いた話なんだけど、酒に酔った貧乳の赤い髪の女が自分の胸の事を侮辱されてキレて爆破したらしいのよ」

「店を爆破!?正気か」

「怖いです」

「物騒な街ね」

「お前らが言う?あの、聞きづらいんですが、ここって、そんなことがよく起きたりするんですか?話では、、、」


町娘さんは慌てて否定する。


「ううん、そんなことないよ!グランベリーは本来(ここをよく覚えておいて下さい)。地元ってこともあるけど、他の国に比べ交流も盛んだし、自然豊かだし、魔物も少ないと思うの。その人は旅をしている人らしいから、今回の爆破事件もたまたまっていうか偶然よ」


特に嘘をついたり誤魔化したりってわけではなさそうだ。街には笑顔が溢れ、行き交う人達もみんな、休日の公園にいる家族連れのように楽しそうにしている。



「すいません、失礼なこと聞いて」

「まったくだわ、最低ね!」

「デリカシーのない人です!」

「申し訳ない お嬢さん。後でキツく言っておくので」

「ここぞとばかりに俺を一番悪い奴にするのやめてくれる?、、、しかし、貧乳の赤い髪の女だなんて、胸が小さいと心も狭くなるとでもいうのか、そんなことで店を壊すなんて本当、舞羅さんを見習って欲しいぜ、、、」

「ん?」

「舞羅?」

「舞羅って誰?」


聞き慣れない名前なのか、みんな反応する。


「え?いや、知ってるだろ、舞羅さんってのはレヴァラムゲートでいつもログインボーナスくれた女の人だよ。いつもゲームするとき見てたはずだ、今は仕様が変わったから出てこないけど。

ほら、この人」


俺はレヴァラムゲートを起動し、ヘルプコーナーで見つけた舞羅さんを見せる。


「こんにちはフェブライさん。わからないことがあったら私に聞いてください。力になりますよ」


名前を呼んでくれるのは嬉しいがキャラネームを今言われるのは少し恥ずかしい。町娘さんを含めた4人が俺の突き出すスマートフォンの画面を凝視する。


「ああ、この胸のでかい女ね。いつもログインしたら連打してたから意識してなかったわ。

ふんっだ!こういうのが好みなのね!」


とびこは頬を膨らませ、プイッと顔を斜めに上げる。


「いや、お前は俺のなんなんだよ」

「待ってください!胸なら私の方が大きいと思います!」

「町娘さん、それでその女の人はどこに?」


茉莉花を華麗にスルー。


「グランベリー王国の執事長ユスラさんが来てくれて連れていったそうよ。ユスラさんはこの王国きっての剣の使い手なの、暴れまわっていたそうだし、今はお城の地下牢にでも閉じ込めているんじゃないかな」

「そうなんですね、どんな人か見てみたい気はあったけど。情報の件ですが、そこ以外だと他にありますか?詳しい人とか」

「ああ、それならこの近くにある喫茶店のマスターなら情報を多く聞けるかもしれないなぁ、けっこう旅の人が訪れる場所で、夫婦で経営してるアイスコーヒーの美味しいお店なの」

「いいじゃないか、ちょうど喉が渇いていた所だ、そこに行こう」

「そうだな。助かりました、ありがとう えぇと、、、」

「私はナナよ。行ってらっしゃい、また会えるといいね」



特に何を要求するでもなく、ナナさんは笑顔で俺達を見送ってくれる。なんていい人なんだ、この街に住む人はみんなこんな感じなのかな?俺達は教えてもらった喫茶店へと向かう。


「しかし、その喫茶に行くとして、やはり金がないことにはオーダーができんな。何か知らんか?と聞くだけというのも気が引ける」

「そうだな」

「ときにオレのテーマである『猛禽類』は、ベースが飛行とでできている」

「それを早く言いなさい」

「ああ、行ってくる」

「行くんじゃない」


俺は、かがみながら人混みの中に紛れ込もうとするカタリの肩を掴んで静止する。

盗賊と言ったな、金品を盗む気だなこいつ。


「安心しろ、オレは盗賊を極めたスリのプロだ。レヴァラムではNPCとの会話中に衣服を剥ぎ取り全裸にしてきた実績を持つ」

「着ているものを盗んだのか、すげぇけど最低だな。でもそれはレヴァラムでの話だろ現実でそんなことできるわけが」

「まあ、たしかに服はバレるだろう。だが」


そう言うと、カタリは握っていた両手を肩まで持ち上げて俺達に向ける。手に膨らみがあり、指の隙間から何か見えている。


「?」


カタリが手を開くと、指の一本一本を通して穴の開いた布が垂れ下がった。何やらそれは柔らかな布地でできており、むしろどこかで見たことがあるようだった、、、。


「はっ!」

「なっ!」

「くっ!」


「そっ!!」 

ーーーー「くだらねぇんだよ」


それは下着、すなわちパンツだった。


茉莉花ととびこは自分の下腹部に手を当てる。

「あ、ないです」「気づかなかったわ」

それはもはや神業だった。奪う素振りを見せず、奪われたことを全く気づかせずに盗みだすとは。いや、それがスリなんだけど、、。


「すげぇな驚いた」

「そうだろう」

「ところで俺のパンツもあるんだが」

「ああ」

「どうやって奪ったか知らないけど、俺のも盗んで楽しいか?」

「オレは楽しい」

「もういい返せ」

「受け取れ」

「そっちのトランクスは誰のだ」

「オレのだ」

「自分のパンツも盗んだのか、頭おかしいんか貴様」

「オレだけ履いたままでは不平等だろう?」

「何を言っているのかわからない」

「とにかく技を見せたかったのだ、返すぞ茉莉くん」

が、茉莉花は受け取ろうとしない。


「カタリさん、そんなに私のパンツが欲しかったんですか?いいんですよ、欲しければあげます!私だと思っていっぱい愛撫してください」



微小を浮かべる茉莉花を一瞥し、カタリは冷めた表情でパンツを丸め、地面に思い切り叩きつけた。

スーパーボールのようにバウンドし、天高く打ちあがってどこかへ飛んでいくパンツ。追う茉莉花。


「話は終わりだ、行ってくる」

「その前にわたしのパンツを返してくれるかしら」

「ちぃっ!」

「だから行くなって、これ以上罪を重ね、、、って、あれ?そっちがとびこのだとして、もう一つあるじゃないか?誰のだ?」

「ん?はて?みんなが雪政のスマートフォンに目を奪われてるときにやってのけたのだが、これは?」

「、、、、、、あっ!!!」


俺がスマートフォンを見せた時にいた人っていったら、、、。

間違いない、それは町娘のナナさんだ。やべえ、こいつ、もうやらかしてやがった!!


「あの時いた町娘さんのじゃないのか?!おっま、親切に教えてくれた町娘さんになんてことを、、、。さりげなく返してこい!!」

「どう返せというのだ。盗むのと戻すのは全然違うんだぞ、無理を言うな」

「くそぅ、どこかの風来坊みたいなことを言いやがる」

「仕方があるまい、これは頂いておくことにしよう。それにいざとなったらマスクや帽子代わりに使えるだろうしーーー」

「うぅわっ!」


俺はポケットにしまおうとする『町娘のパンツ』をカタリから強奪する。


「何をする」

「発想が怖ぇんだよ!なんでパンツを頭部に使おうとしてんだ!これは、、、これは俺が預かる」

「一体、どんな使い方をするのか見せて貰おうかしら!」

「使わねえよ!!なんとか返す方法を考える。お前らが持ってると何かするだろ」

「、、、しないわよ?」


ニンマリと笑うとびこ、目が笑ってない。


「なんだその顔は」


して。とびこはパンツをそのまま履けるからいいが、俺は一度ズボンを下さなければ履けない。こんな人通りの多い所で下半身を露わにするわけにはいかない。つまり、俺は今、ノーパンで脱ぎたての女性のパンツと俺のパンツを持っていることになる。何か自分が一級の犯罪者になった気分だ。


「うぅ、お前なんでパンツ盗んだんだよ」

「履き物を盗むという不可能を可能にする力があると見せたかったのだ。それに、オレは神からも物を奪える実力があるということを、、、あ」


何かを思い出したカタリはおもむろに自分の持っていた革袋をあさりだした。そして長い棒のようなものを取り出す。


「そうだ、これを売るか」


それは天空島にてとびこが神と戦っている際、カタリが奪い取った杖だった。杖には沢山の宝石が付いていてそのどれもが上玉のように見える。売れば確かに金にはなりそうだ。


「でもそれも盗品っていうか遺品っていうか、、、」

「決めろリーダー、もう昼すぎだ今は実直な仕事をしている時間はないぞ。これを売るか、オレがくすねてくるか。どっちがいい」

「神はきっと極楽で言っているわ、邪神を倒す力になれるなら本望と」

「神は絶対言ってないだろうけどな。わかったよ、それを売る方でいこう」

「待ってください!私のパンツを売るというのはどーーーーー!」


戻ってきた茉莉花と合流した俺達はナナさんを探してみたがどこにもいなかったため保留にし、アクセサリーを売っている商店を見つけたので売却できるか話をしてみた。


神が持っていた宝石だけあって向こうから買い取らせてくれと言われてしまった。旅の人間なんて宝石のことなんてわからないだろうに、細かな宝石の種類や価値の説明をしてくれたり、他の街で売るときはずる賢いやつが多いから気を付けろなどと忠告までしてくれた。


本当にここの人達は良い人ばかりだ。宝石は全て引き取りにはならず数個ほど手元に残ったが、それでもこの先しばらくは余裕を持てるほどの資金を得た。


「山分けだ、均等に分配しよう。余った宝石も渡す、何かの時に役に立つかもしれん」

「いいのか?」

「何を言っている、これは俺達で手に入れたようなものだ遠慮すな」

「ああ、連帯責任だもんな、ありがとう」


俺はその金と宝石を受け取った。神を倒し、天空島を崩壊させて得た経験値とお金か、重みが重い。




そうこうしながら俺達は喫茶店に到着した。喫茶は趣きのある二階建ての建物だ。周囲にコーヒーや、パンの焼ける匂いが漂い食欲をそそられる。この感じは何か好きだ。しかし、向こうの世界だったらハンバーガーや牛丼ばかりで、こういう店とはとくに縁がなかったなぁと振り返る。


洋風なドアを開けると、チリンとベルが鳴り、コーヒーを注ぐマスターと思しき紳士風な男性と目があった。


「いらっしゃい、ん?ここらでは見ない顔だね、旅の方かな?今ちょうど波が引いた所でね。どうぞ空いてるところに座って、注文は席で受けるよ」

「あそこです!あそこに座りましょう!この袋で場所取りしますね!そしてゆっきーは私の隣でとびこちゃんは正面に!カタリさんは私の斜め前に座ってください!水はセルフですね!私が取ってきます!」


元気に俺達を誘導する茉莉花。喫茶店、ああ、ここは女子茉莉花のホームグラウンドということか。まさか座る所まで指示が来るとは、、。


彼女の選んだ席は他の席より三段ほど高く、広く喫茶の中を見渡せるいい位置にあった。波が引いたということもあり店内はまばらに人がいる程度、これなら直接マスターに声をきける機会もありそうだ。


席についてゆっくりしようとすると、突然、大声が響く。


「私の憩いの場を返せ こんにゃろぅ!!」


遠くの席に目をやると、何やら黒いタンクトップの女が店員メイドに掴みかかっていた。何があったかは知らないがすごい剣幕だ。


「こんな場所であんなに騒ぎたてるなんて困った人だな」

「ええ、ゆっきーそっくりだわ」

「、、、え?俺あんな感じなの?」

「安心して。あの程度、ゆっきーの勝ちよ」


勝った。


自重しよう、まさに人のふり見てなんとやらだな。

そこにこの店のマスター夫人がオーダーを取りにやってきた。


「いらっしゃい、旅の人だね、もうグランベリーは見て回ったかい」

「あ、いえ、まだ。ご夫人、向こうの女の人は何かあったんですか?」

「え?ああ、あの子はウチの常連なんだけど、

鼻からコーヒーと紅茶が出るメイドアンドロイドを披露してみたら、気にいらなかったみたいね」

「ああ、あのメイドはアンドロイドなんですか。へぇ」


ご婦人が何を言っているのかわからない、この世界はアンドロイドもいるのか?本当にレヴァラムゲート並みの自由さだな。


「さて、ご注文は?」

「アイスコーヒーが美味しいお店だそうね」

「そうだよ」

「無性にココアが飲みたいわ」

「茶葉の種類を聞こう玉露はあるか?」

「私はグレートアメリカンシェークシングルホワイトソースアルティメットクラッシュチョコチップダークモカチョコレートソースフラペーーーー」

「全員アイスコーヒーでお願いします!」

「「「じゃあそれで」」」

「はぁい、お待ちください」

「鼻からコーヒーが出るアンドロイドが来るんですか?」

「ごめんなさい、あれ、ホット専用なのよ」

「良かったです」


婦人がオーダーを届けにゆく。


「あの流れをいとも簡単に、この喫茶店できるわね」

「鼻からコーヒーと紅茶を出すアンドロイドを導入してる時点で何かあるとは思ったが」

「そういえばわたし水属性だわね。わたしが鼻から水を出してボトルにつめて出したら高く売れるかしら?」

「大道芸かよ!カタリ、どうなんだ需要は?」

「幼女の鼻水か、好き好きだろう」

「ダメだってよ」

「別の穴から出すのはどうだろう」

「おい、お前それ以上しゃべるんじゃねぇぞ」

「え?クチ?」

「マーライオンですね」

「お前らが純粋で良かったよ」

「いや、もっと下の方だ」

「しゃべんなって!!」


「はい、お待ちどう!」



婦人がアイスコーヒーを持ってきた。



「ご婦人、町娘さんから、ここにいけば情報が豊富だと聞いたんですが、邪神について何か知らないですか?」

「ああ、邪神ねぇ、まあよく話には聞くけど。それならここにそれに詳しいギルドの人が寄ってくるから、その人に聞いてみたらどうだい?見かけたら声かけるよ」

「なるほどギルドか。それなら確かにいい情報が転がってそうだな」

「ありがとうございます。他に何かないですか?最近の情報でもいいです」

「うーん、ああそう、これはついさっき聞いた話なんだけどね」

「あ、はい」




「なんでも天界の神様が『フェブライ』って異世界人に殺されたんだって!」




全員が口を開けて俺の方を見る。

というか、、、。



俺も口を開けたまま、思考が止まっていた、、、。

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