第9話 『目指せグランベリー王国』何を言っているのか、さっぱりわからん!

「遅かったな、雪政」


明け方の帰還となり、空から降りてきた俺にカタリは声をかけてきた。彼は河原で捕まえた魚を火で焼き朝食の準備をしているようだった。俺の疲れた様子を見て、微笑みながら続ける。


「ふっ、朝帰りとは、お楽しみだったんだな」

「そうはならんだろ」


疲れていた俺は素っ気なくそう返す。俺の身体を見回すカタリは心身ともにボロボロのところを見てそれ以上ボケたりはしなかった。何か言いたそうだったが、一緒に向かったゆかりのことについて尋ねてくる。


「一人か、風神はどうした?一緒じゃないのか」

「あいつは世界樹に用があるって言ってただろ、だからあそこで別れてきた。それに、ウチにはゴッドキラーもいるしな」

「そうか。で、どうだった、遠くで大きな音がしていたから世界樹は立てれたんだろうと思ったが」

「、、、ああ、世界樹は立った。こっからでも見えるから見てみるといい」


あれは、言葉で言うより実際見てもらった方がいい。

俺は世界樹のある方向を指差すと「そうか」とカタリは鳥の翼バードウイングスのスキルで腕を鳥の羽根に変化させ、高く舞い上がり世界樹を見に行った。


1人になり、ようやく落ち着くことができた。河原を見回すと、そこにはカタリによって綺麗に埋葬されているドラちゃんの頭蓋骨があった。「くっ、ドラちゃん、、、」


ゆかりに骨まで食われてしまって、もうここしか残ってないんだよな。俺はドラちゃんの墓の前にしゃがみ、手を添え目を瞑る。ドラちゃん、仇はいつか打ってやるからな、いつかどこかで必ずあの茉莉花に報復するから。あと、ごめん、ちょっと食べちゃって。おいしかったです。




目を開き立ち上がると、ちょうどカタリが空から降りてきた。

そして俺の方に近づいてくると、訝しげに当然の疑問を投げかけてきた。


「逆じゃないか?あれは」

「逆だよ、、、ああなっちまったんだよ」

「そうだよな。色々あったみたいだが、ここまで何があったのか聞かせてくれないか」


俺はカタリと別れてからの世界樹でのことを簡潔に話す。


「風神の力で世界樹を浮かび上がらせて立てようとしたんだけど、俺が、、、。ゆかりに力を貸す時に驚かせてしまってひっくり返って刺さっちまったんだ、で、もう戻せないらしい。だが何故か復活はした」

「なるほど、まあ、復活したのなら良かったじゃないか」

「良くはないけど。そしたら、世界樹を根城にしていたリザードマン達が中から出てきたんだ」

「ほう、リザードマンか、よくあんなことがあって生きていたな」

「世界樹の力で中は無事だったらしい。樹を折ったりした俺達に怒って戦いを挑んできた」

「仕方がないな、それは避けられん戦いだ」

「向こうから5体、こっちから5人で向かい合う形になった」

「3人どうした?」

「そしてダンスバトルが始まった」


「雪政?!」


「海水服がソーラン節を踊ったり、妖狐が盆踊りを始めたりして俺達は会場を味方につけ、青髪の飛来ウインドミルと風神のエンドレス・フィギュアスケート・スピンで勝利することができた」

「猛者揃いじゃないか」

「そして俺達はで優勝したんだ」

「長く険しい戦いだったな、おめでとう」

「優勝商品が俺の尻についてる悪魔の尻尾だ」

「さっきから動いてて気になってたんだが、生えたわけじゃなかったんだな」

「以上だ」

「雪政、、、」


カタリは深く深呼吸する。




「何を言っているのか、さっぱりわからん」



「俺だっってわかんねぇよ!お前、自分だけわかんねぇと思ったら大間違いだからな!!俺だってわかんねぇし、わかんなかったから聞いたよ!あいつら誰も答えねぇんだよ!!ゆかりも知らないっていうし、説明は後でって言って、こっちもトカゲも普通にダンスしてんだよ!!で、ダンス終わったら3人どっかにいなくなったわ!!結局謎のままじゃねぇか!!なんだあいつらは説明しろぉぉ!!!」


はあはあ、と息を荒げる俺。とにかく吐き捨てたかったことをぶちまけて少し落ち着く。


「ピンクのレースじゃねぇか、、、」

「ピンクのレース?」

「何でもない忘れろ!俺も忘れる!」

「まあ、ここはオープンワールドだからな。旅の中、すれ違う冒険者もいるんだろう。あれだ、レヴァラムゲートをやってて救援を呼んだらどこからか助太刀にくるプレーヤーがいただろう、あんな感じなんじゃないのか」

「それで終わったらいなくなったってのか?ゲームじゃないんだから。あと、向こうでお前の声もしたんだけどあれはどういうことなんだ?」

「そこまでオレのことを想っていてくれていたのか、よし抱きしめてやろう」

「この話はやめだ、埒が明かん。、、、ところで、その目どうしたんだ?傷だらけだぞ」


俺はカタリの目の付近にある無数の引っ掻き傷を見ていう。


「ああ、寝ているとびこのスカートの中を覗こうとテントに第4ほふく前進で忍び込んだのだが、横にいた茉莉くんのパンツが見えそうになっていたので、とっさに両目を潰したんだ」


「どこからツッコんでいいかわからないけど、とにかく捕まってしまえ!」




少しすると、魚の焼ける匂いを嗅ぎつけ、テントからカラーアフロを十倍にしたような爆発的なヘアーが存在感を際立たせているオレンジ色の羊が首だけのそりと這い出して来た。


「ふぁぁ〜、あ、おはようございますぅ!ゆっきー、無事で良かったです」


茉莉花だった。彼女は起き出しテントから出て俺達のいる河原に近づいてくる。


「ああ、お前のその髪の膨張って、寝癖だったんだな、、、爆発したんだと思ってた」

「ふふっ、爆発で髪がこうなるわけないじゃないですか。アニメやゲームや小説じゃないんですから。あれ?ゆっきー、後ろに何を付けてるんですか?ふんっ!」


そう言ってオレンジの羊は毛玉が飛び散るほどのスピードで一瞬の間に俺の背後に回りこむと、尻についている悪魔の尻尾を強く握りしめた。尻尾は苦しいのか、のたうち回っている。


「あはっ!何ですかこれ?!すごいビクンビクンしてますね!可愛いぃ!」


「やめろ、苦しんでるだろ!可愛いものへの扱いじゃねぇぞそれ!あとお前の体毛がモサモサして邪、魔、、体毛が、体毛をどけろ!!」


しゃがみながら尻尾をいじり出すので、俺の上半身が頭部の体毛に呑みこまれていく。体毛を掻き分けようともがくが、綿あめのような手応えでふり払うことができない。体毛は徐々に俺の身体を侵食し、顔面が埋もれて呼吸ができなくなってきた。「やられる!」俺は死を覚悟した。


「あ」と、羊は何かを思い出したかのように尻尾を離す。俺は今だ!と、その隙をつき後方へとジャンプしてオレンジブラックホールから脱出することができた。一体、奴に何が起こったのだ。にんまり笑いながらこちらを見る。


「どうした?」

「ゆっきー」

「あん?」

「おはようの゛ちゅー゛がまだですよ」


そう言うと俺に顔を近づけ口をすぼませ目を瞑った。俺は寒気で石のように固まった。何で羊とキスせなならんのだ。俺は真剣白刃取りのように羊の顔面を挟み取ると一度コキリと首を折り、小声で話しかける。


「茉莉花さん?それは俺じゃなくてカタリの方にやるべきじゃないのか?」

「ふふ、ここでゆっきーといちゃいちゃしてるところを見せて、カタリさんを嫉妬させる作戦です」

「いちゃいちゃ?グルーミングってことか」

「グルーミングとは?」

「茉莉くん!!」

「きました!」

「オレの雪政から離れてもらおうか!!」

「気色悪いわ!」

「くそっ、正気を疑うぜ!」

「お前が言うな!俺を巻き込むのやめろ!そして髪を直してこい!」


俺は河の方を指差す「はぁい」と、羊はその場を後にした。カタリは顔を押さえる。


「くっ、古傷が痛む」

「それ割と最近のやつだけどな」

「その尻尾、だいぶ引っ張られていたようだが取れないのか?」

「この悪魔の尻尾は特殊アイテムなんだ。目的地を言って付けると、そこまでの道を案内してくれるらしい。しかし一度付けるとそこに辿り着くまで取れないそうだ。呪いではなく落とさないための親切設計らしいけど、余計な機能だよな」

「ん?と言うことは、どこか目的地を告げているということか」

「そうなんだ、ゆかりから教えてもらってね。この森を抜けた所にあって一番近くにある都市『グランベリー王国』を目的地にセットしてある」

「おう、ここはグランベリー王国に近いところにあったのか、それはいい。あの国は平和ないい国だ、まあ、レヴァラムのゲームでの話だがな。そこに行くんだな?」

「ああ、これで邪神についての情報も掴めるな」

「風神は邪神について何か言ってたか?」

「、、、、あ」


しまった。別にわざわざ街に行って聞き込みしなくとも、ゆかりに聞けば何かと情報を得れたんじゃないか?しかも世界を飛び回る風来坊。世界樹の事とか色々あって肝心なことを忘れていた。


「ふっ、忘れてたな」

「い、言ってくれよ、世界樹に向かう前にさ。じゃあ、今から行って聞いてくるよ!」

「かまわん。行ったところでまだそこにいるとは限らんだろ?世界樹を立てなおし、グランベリーへの道を指し示してくれただけで十分活躍してくれた。それよりいい感じに魚が焼けてきたから食おうじゃないか。、、オレは、お寝坊な幼女を起こしに行ってくる」

「いいや、俺が起こしてくる。だから今すぐ第4ほふく前進をやめろ、立て」




俺はカタリの行動を制してテントへ向かう。よくこんな布があったな、とよく見てみるとそれは飛竜のウロコで作られていた。とことんドラちゃんを利用しているな、うちの連中はハンターか何かなのか?顔を覗かせとびこに声をかける。


「おい、とびこ。起きろ、朝だぞ」


とびこはまだぐっすりと寝ていた。あどけない寝顔がそこにあった。


寝ていると可愛いんだがな、世界樹でのこともあって疲れがあるし気持よく寝ているとびこを見ていると、こっちも眠くなってくる。


「うーん、お兄ちゃん、、、」


寝言か?お兄ちゃん、、、?兄弟がいるんだな。


「お兄ちゃん、、、どこ行くの、、、?行かないで、お兄ちゃん、、、」

「とびこ、、、」


そうだな、こいつもまだ小さいんだもんな。本当は寂しがりやなのかもしれない。兄思いの妹か。兄の後をついて回ってて、うっとおしがられて置いて行かれるみたいな夢とかでも見てるんだな。


「お兄ちゃん、、、」



少しの沈黙、

そしてとびこはさっきとは違う無感情の声でつぶやく。



「マタアノ女ノ所ヘ行クノネお兄ちゃん」

「それだと話変わってくるだろ」


展開が変わった。いや、というより兄思いの妹の設定が通常とは異なる形式になっていることに気づいた。

これは、可愛くないやつだ。


「でも残念ね、お兄ちゃんはもう、あの女とはお話できないのよ、見て」


寝ながら地面にぶん投げるモーションをする。


「首よ、、、」

「、、、、、、」


その寝言を聞きながらテントに入り、とびこの真横に回りこむ。


「どう?これでお兄ちゃんは、わたしだけのお兄ちゃんね、、、。何か、言ってみて、お兄ちゃん、、、。あ、そうね、、、」

「、、、、、」



「お兄ちゃんも喋れないんだった」



「怖いわ!!」


俺はとびこの肩と太ももの辺りを掴んでテントの外へと転がし出した。河原にゴロゴロと投げ出され、目を覚ますとびこ。


「う、、、ん、、、。ん?お兄ちゃん?」

「お兄ちゃんじゃねぇよ!だとしたら全力で逃げるわ!!何だ今の寝言は!お前、お兄ちゃんに何をした!」

「いきなり何のことを言っているのかしら?わたしのお兄ちゃんなら元気よ」

「ああ、無事ならいいんだ」

「わたしの心の中で」

「さては無事じゃないな!」

「起きたか?朝食にするぞ、こっちにくるがいい」

「朝食、お魚ね。お肉はどうしたのかしら?」

「そこに埋葬してある」


頭部だけになったドラちゃんの墓を見てこちらを振り返り、にやりと笑うとびこ。


「違うぞ、「ほらやっぱり食べたかったんじゃない」みたいな顔してるけど、違うからな」



河原の方には既に髪を整えた茉莉花がいた。そこで俺達は全員集合して朝食を摂ることに。カタリに魚を2匹手渡され、俺は近くに座れそうな石を見つけてあぐらをかいて座った。ようやく食べれるまともな飯に俺は安堵する。




ここからはとくに問題なく、繰り返しの話になるので会話は省略する。


食べながら俺は世界樹でのことを改めてみんなに話した。『風神に会った』と言うと、とびこはゆかりを倒そうと世界樹に向かおうとしそうなのでそこは上手く伏せ、いい人が現れて世界樹を不完全ではあったが立てれたと話をした。


その際にカタリがゆかりの胸の話を持ち出すと、茉莉花が服をはだけ、自分の身体を強調し始めたので、俺達は河に向かって石を投げて跳ねさせる遊びに興じて対抗した。



グランベリー王国に向かうことにはみんな賛成だった。まあ、この森を抜けた先のことを考えると道はそこしかないんだけど。


夜間にカタリがそこらへんにあったもので、旅に便利なアイテムをスキルで作っておいてくれたのは助かった。武器としての木刀や、投擲用の手裏剣のようなものがあるほか、旅に役立ちそうなマントや袋や水筒などもある。

すぐに移動できるよう準備してくれているなんてできた奴だ。、、、変態でなければな。



そして軽い食事をすませた俺達は、身支度を整え、グランベリー王国を目指すのだった。




ーーーーその頃。


ここは遥か彼方にある桃源郷。この美しい楽園に、フランスの世界遺産シャンボール城のような形をした建物があった。中では複数の神々しい姿をした男女が円卓を囲むように座っていた。召喚世界メルセシアの神々である。神々は今回起きた事件について話し合うため緊急招集していたのだった。


「集まったな、メルセシアの神々よ」

「ん?風神と雷神はいないのか、あいつら、いつも勝手しおって」

「やつらのことはもういい。して、聞いているな?シヴァークがやられ、天空島エリア『ガーデ』が落ちたらしい」

「ああ、しかし、ガーデはメルセシアの大地の遥か上空にある都市。一番狙われにくい場所と思ったが、あの邪神め、まさかそこを突くとは」

「いいや、どうやらこれは邪神の仕業ではないらしい。ヤツの足跡はあの時あの場所にはなかった」

「何ですって?!では、一体何にやられたというんです?」

「最後の声が我々に届いていた。シヴァークはこう言っていたのだ『おのれ、フェブライ』」


「『おのれ、フェブライ』、、、」


「それはまさか人の名か?」

「うむ、シヴァークは召喚の儀を行うと言っていた。その時に召喚した何者かによって、逆に倒されてしまったのではないかと思っておる」

「それは無念だったでしょうに、天空島にいた人々も全て落ちてしまったのね」

「それなのだが、、。実はガーデはあの時閉鎖されていたのだ」

「何?!」

「実はガーデに住む精霊達の百年に一度のメルセシアの聖地巡礼の日だったらしく、数日前より天空エリアから人を完全に出払っていたらしい」

「では、あの時あそこにいたのは?」

「シヴァークと、ガーデに巣食う魔物達、そして伝説の大蛇だけですな」

「つまり、あそこの厄介な部分だけ排除できた、と」


「、、、、、」


「シヴァーク倒れて良かったんじゃね?」

「いやいや、それだけではあるまい。あそこには貴重な神器の数々が眠っていたはずだろう?ガーデを破壊されたのも痛手ではあるはずだ」

「その通り。兎にも角にも我々は邪神の他にまた一つ厄介な存在を抱えてしまったということは事実」

「そうね。じゃあ、可能な限り全世界にお触れを出しましょう」




《フェブライに気をつけろ》




そして神々は一人、また一人とその場から姿を消していった。世界にこの事実を告げるために、、、。



尚、この神々はこの先、二度と出ることはない。

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