第10話 『後日談』サラダ作ろうと思って!

俺はグランベリー王国に向かうことに高揚していた。異世界メルセシアで訪れる初めての街であるということや、こいつら以外でまともに触れ合える人々がいるという理由ではない。


あの時、風神のゆかりから聞いた情報は、この旅の目的である邪神を討伐する以上のものだった。それは俺がレヴァラムゲートを続けていた理由の一つ、、、。


話は一時間ほど前に遡る。


そう、あの時ーーーーー。



今、世界樹の下には応急的に仮設されたステージがあった。その周りをリザードマン達や森の動物達などが囲みステージを見ている。ステージは四方から複数のライトに照らされ、俺達と相手チームがそこに立っていた。広いステージの左は俺達、相手のチームは右に位置している。これから何をするのか、それは、結果発表だ。


このダンス大会の勝利チームを決定するため、中央に蝶ネクタイをした司会のリザードマンが現れた。


「さあ、今季のナンバーワンチームを決めるダンスバトル。五人の審査員により優勝が決定いたします!ついにこの時がやってきましたね!」


そう言い、ステージ端に用意された机に横並びに座っているリザードマンの解説者達に感想を求める。


「いやぁ、今回はどのチームもレベルが高い!決勝戦は、どちらも凄いバトルでした。私はまだドキドキしておりますよ。興奮が収まりません!」

「ゆかりもだよ!」


何故か解説席に座っている風神。


「多種族のチャレンジャーチームが、まさかここまで登ってくるなんて思いませんでしたわ。これは新しい世界の幕開けになるのかもしれませんね」

「それでは審査員の方々!発表をお願いします!!」


解説席から俺達を挟んで反対側に横並びに同じく座っている審査員の方々がいる。そいつらは、いつ作ったのかわからないチーム名の書かれたゴールドの札を、右端にいるリザードマンから順番に上げていった。



「結果はっ!!



ゆかりと愉快な仲間達!!



リザードサバイバー!!



ゆかりと愉快な仲間達!!



リザードサバイバー!!!



そして!!




ーーーーーーゆかりと愉快な仲間達っっ!!!!


優ぅ勝ぉはぁ!!ゆかりと愉快な仲間達ぃぃぃぃぃぃぃ!!!!」


つまり、俺がいるチームだった。


「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!!!!!!!」



咆哮にも似た大歓声と拍手が巻き起こる。舞う紙吹雪、上がる花火、観客のリザードマン達はこの結果に歓喜し、何故か泣いている奴もいる。解説者達もスタンディングオベーションし吼え、勝手にドラを叩き鳴り響かせたりする。相手チームも祝福してくれて、よくわからないウチのメンバーと抱き合っていた。その中、俺は雌型と思われるリザードウーマン達に囲まれキスされまくり、顔面がよだれでビショビショになっていた。この中できっと俺だけだろう、ドン引きしているのは。


明け方が近づいてきている世界樹は今、ものすごくうるさかった。

歓声が落ち着き始めた頃、司会のリザードマンが場を仕切り、笑顔で俺に近づいてきた。



「皆さん今はお静かにお願いします!!!はい、それでは!今回、フェブライさんに感想をいただいきたいと思いますぅ!!おめでとうございます!フェブライさぁん!この喜びを誰に伝えたいですか?」


「この悲しみを全世界に届けたいです」


「さぁ、今回、我々もフェブライさんの活躍に度肝を抜かれました!曲が始まっても、まったく微動だにしませんでしたが、あれは一体どういう技だったんでしょうか?!」


「直立です」


「はぁい、ですがまさかダンスバトルで、最後まで動かないとは誰も想像していなかったでしょう!絶対何かあるだろうと思ったのですが、あれで観客と審査員の注目を集めましたね!」

「わしは最古の審査員なのじゃが、ダンス大会始まって以来、全く動かない選手というのを初めてみたぞい」

「まして、目の前でバトルしている選手はリザードマン史上最高のダンサーとうたわれているテラ様でしたしね。彼を目の前にして動きをみせないなんて驚愕しました。しかも、対戦相手を見ずに目をつむっているとは!!」

「きっと、フェブライさんの中では、戦っているのは目の前の相手じゃない、戦っているのは自分自身なんだということだったのですわ。なんてカッコいいのかしら」

「ゆかりも、いつか場の空気に押されて動くんじゃないかって心配してたんだけど、周りに惑わされず自分の意思を貫き通すところにはグッときたよ!惚れるでしかし!」

「オレ、テラだけどぉ。フェブライ!お前のネームをオレのソウルに刻んだぜ!お前はオレの永遠のライバルだYO!!」


「それではフェブライさん!!最後に何か一言っ!!!」


「まともな人きて」


「はい!!どうもありがとうございましたぁあ!!!皆さん盛大な拍手をお願いしまぁぁす!!!!そして、これにてダンスバトル は終了です!皆さん本当に有り難うございましたぁぁぁ!!!!!」


再びの大歓声と拍手により今大会も大成功のまま終演を迎えるのだった、、、。





ーーーーー違った、、。


この記憶じゃない。この後の会話だ。

思い出そうとしたら、余計な黒歴史を掘り起こしてしまった。黙って立ってただけなのに審査員特別賞ってなんだよ。



俺が思い出したかったのは、そう。あの時ーーーー。




大会が終わった後もステージ付近ではまだリザードマン達が盛り上がっていた。その集団に囲まれた俺は握手をしたり、記念撮影されたり、キスされたりと揉みくちゃにされる。ところでどこを見回しても例の3人がいない。


「おい!ゆかり!ゆかり!あいつらどこいきやがった!!終わったら説明するんじゃねえのか!!」

「どうしたんだい?あいつら?ここには私とゆっきーしかいなかったよ」

「存在自体無かったことにするんじゃねぇよ!とにかく、ここを離れるぞ!」

「よぅし!じゃ世界樹登って上まで行こう!まあ、上っていうか下なんだけどね!!」

「うるせぇ!」


そうして俺達は飛行スキルを使い、リザードマン達の囲みから逃げて反転してしまった世界樹のてっぺんまで登っていった。登りながら俺はゆかりに質問をする。


「ところで、何でダンスバトルになったんだよ」

「そりゃあ、彼らはダンシングリザードマンだからね!戦いっていったらダンスでしょう、いい時に来ちゃったね!」

「よくねえ最悪だ、、、」


世界樹を登りきり、折れてしまった根っこの平たい部分に降り立って景色を見る。世界樹という高所から見る夜明けの山々はとても綺麗だった。


「いやぁ~、改めて見てもひどい光景だぁ!」

「ああ、下は見ないようにしてた」


ゆかりが俺を現実に引き戻す。世界樹は(逆に)立って元に戻った(ってない)けど、天空エリアの残骸、死骸はそのままある。日が差した真下の大地は、あの時の絶望感を再び呼び起こした。


こういう時には少しでも癒しが欲しい。現実的な癒しはあっさり茉莉花によって奪われてしまったが、、、。


俺は何気なくいつもの動作でスマートフォンを開き、レヴァラムゲートを起動していた。


仕様が変わってる、、、。そうか、こっちに来て変わったんだ。もう、舞羅さんは見れないのかな?適当にいじっているとヘルプ画面に舞羅さんがいた。良かったいてくれた。


「おはようございますフェブライさん、何かお困りですか?」


いつもの優しい声、病んだ俺の心を舞羅さんの明るい笑顔が癒やしてくれる。ありがとう聖母。ありがとう俺の光。一心にスマートフォンを見る俺に後ろからゆかりが覗き込んできた。



「何見てんのぉ?あれ、それ舞羅じゃない?なんか時より元気よさげだね」

「、、、、、、え?お前、舞羅さんを知っているのか!?いや、違う、昨日あった?!」

「ここくる前に寄った街にいたよ」

「いた?!メルセシアに舞羅さんは存在しているのか!この、この舞羅さんで間違いないんだな!」

「うん?そだね」


なんていうことだ。レヴァラムゲートのみの存在だと思っていた舞羅さんは、このメルセシアという現実に存在していたなんて。

いや、そもそもゲームのサポート役を務めている人物の舞羅さんが、丸っきり作り物というのもおかしい話だったが。


ゆかりが言う所の、前に寄った街にいるということは、ここからそんなに遠くない場所。俺はそこに行けば舞羅さんに会うことができるんじゃないか?スマートフォンの画面に映る舞羅さんを見ながら、俺は心臓が大きく脈を打っているのを感じる。


「ま、でもこの映像は、



ーーーーーーーーだいぶ盛ってるけどね」


後ろから覗くゆかりがそう呟く。ん?盛ってる?盛ってるとはなんだ?あ、ここまで美人じゃないとか?清楚じゃないって意味か?聞いておこうか、、、。いや、女性のそういうとこには触れない方がいいだろう。ゆかりがこの映像を見て舞羅さんだと言ったんだ。俺は、、、。



ーーーーーーー舞羅さんに会いたい。



「ゆかり、俺は舞羅さんに会ってみたいんだ!教えてくれ、お前はどこからきたんだ?どこに行けば彼女に会える?」


俺がそう聞くと、ゆかりはぷうっと少し頬を膨らましたかと思うと、ちょこちょこと世界樹の端を歩き出し山々を見渡す。遠くを見つめたゆかりは「うん」と頷くと、とある方向を指差した。


「あの山を抜けた先にお城と街があるんだぁ。私が来た方角だよ。名前は『グランベリー王国』って言うの。最後に別れた感じだとどこかに行くようじゃなかったから、行けばまだ会えると思うよ!」

「そうか、ありがとう ゆかり!」

「あ、ちょっと待って、、、。【グランベリー王国】!!ほいっ!」


ゆかりは俺の背後に周りこみ、急に大声で国名を叫ぶと、尻の辺りに何かくっつけた。「な、なんだ?!」俺は慌てて自分の後ろの方を見る。すると、俺の尻には黒くて長くウネウネした槍のような先端を持つ何かが付いていた。


「え?お前!これ何だよ!動いてるけど、何付けたんだ?!」


焦る俺に、ゆかりはニヤニヤしながら答える。


「それは、今回のダンス大会の景品で貰ったんだぁ。『導きの黒い尾』って言ってね、行き先言って身体に付けるとそこまでの道を案内してくれるんだよ!便利でしょ、あげるっ!」

「おう、なんて良い物をくれるんだ、ありがとう」

「ただし、到着するまで取れぬ」

「おお、なんて酷い事しやがるんだ、このやろう」


尻尾はまるで生きているように動いているが、俺とこの尻尾は同化してはいないようだ。どちらかというと吸盤で貼り付いているというのが正しい。俺が手をかざすとまるで猫ように槍の先端を俺の手に擦り付けてきた。懐かれた?意思があるのか、これは、、、。


「じゃ、ゆっきーとはここでお別れだねぇ。楽しかったよ、また会えると良いね!」


そう言い、ゆかりは両手をぶんぶん横にふる。世界樹に用があったゆかりと世界樹を立てたいという俺の目的は終わったんだ。少し余計に時間がかかってしまったが、、、。


「ああ。そういえば、世界樹に用って何だったんだ?」

「うん。この世界樹の葉っぱはね、薬にも使われてて、人の身体に活力を与えてくれるそんな力があるんだぁ。病に倒れてる人とか怪我をした人とか治してくれる貴重な葉っぱなんだよ」


ゆかりは虚空を見上げてしみじみと話しだす。


「世界樹だもんな、で?」

「うん!サラダ作ろうと思って!」

「そうか、じゃあな ゆかり」


俺はもう何もツッコまずにそのまま世界樹から崩れ落ちるようにダイブした。空に慣れてきた俺にはもう何も怖くなかった。ゆかりから離れ、数十メートル落ちた辺りの空中で飛行スキルを発動しその場を飛び立つ、地上のリザードマン達が俺を見つけて歓声をあげ手をふる。まるで何かを成し遂げたマントのヒーローみたいな感じだった。


最後までツッコミどころ作るのやめろ!

俺はもうよくわからない感情と、このウネウネ動く尻尾と共に、ようやく仲間の元へと戻るのだった。



そう。


俺はあの場所で知ったんだ、舞羅さんがこの世界に存在することを。

そして、それが目と鼻の先ほどに近い所にいるということを。

王国への道、尻尾に導かれて、小高い山を登る俺は疲れとは違う動悸で心を踊らせていた。


「あ、みんな!見てください!」


何故か先頭を歩いて先に山の頂上に到着した茉莉花が後ろを振り返り俺達を呼ぶ。駆け出す俺を見てとびことカタリも走り出した。

木々を抜け、頂上に着いた俺達はそこに広い平野とそびえ立つ真新しいカラフルな城を目にした。


「見えたな」

「あれか?!」

「ああ、あの奇抜なデザイン、間違いなかろう。あれがグランベリー王国だ」

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