第6話『他愛ない会話』自己紹介してないじゃないか

荒涼たる大地を空から眺める俺達、目を覆いたくなる光景に俺は半ば放心状態だった。もう、色々どうしてこんなことに、、、。

再び幼女がつぶやく。


「どうしてこんなことに」

「だから元凶お前だって、お前が何も考えずに神倒すからだって」


幼女は腕組みをしながらこの悲惨な光景を見ている。言葉とは裏腹になんとも思ってないことが態度からわかる。何をすればこの機械のような幼女の気持ちが揺らぐのか知りたいところだ。


「取り返しのつかない事しちまったな、、、。俺達はどう償えばいいってんだ」

「生きるのよ」

「おう、お前、本当に黙っててくれ」


幼女の言う、生きることが償いだみたいな言葉は解る。確かに死んでいった者たちのためにできることと言ったらそうなんだろうけど、それを大量殺戮の元凶に言われるのは全く腑に落ちない。


空では家を失い行き場を失った鳥や飛行種の生き物達が突然の事態にどうすることもできなくてただただ旋回している。このまま死んでしまうヤツもいるんじゃないかと悲観するが、今の俺にはどうすることもできない。


そして、下を見ると、運良く天空島の落下を避けて生き残った生物達が俺達を見上げていた。あいつらには俺達が例の邪神にでも見えてるんじゃないかと思ってしまう。


「とりあえず、ここを離れたいんだが。もう、いたたまれない、、、」

「いたたまれないってどういう意味かしら?」

「お前が失っている感情だよ」

「そうだな、じゃあ、落ち着けるところを探そう。『鷹の目ホークアイ』」


鳥の人の目が黄色く光る。スキルの名前から考えるに、遠くまで見る事ができる力なのだろう。キョロキョロと辺りを見回すと、いい場所が見つかったのか俺達の方を向き、ついて来いと首を振って先行する。


鳥の翼を使って空を飛んでるだけあって空中での動きが速い。幼女とドラゴンライダーは余裕でついていくが、さっき飛空スキルを覚えた俺は見失わないようについて行くのがやっとだった。


しばらく飛んでいると再び鳥の人が俺達に目配せをする。下を見ると、そこにはキャンプが出来そうな河原があった。みんなが降り始める。


遅れて俺も降りるが、上手く着地できずに転倒する。これは飛空スキルが不慣れなせいじゃないな、多分、心が疲れてるんだろう。はじめて踏みしめる異世界の大地だってのに、とくに感動はないのがその証拠か?


「コォアア」


そんな俺をドラちゃんが心配そうに見つめ、顔を擦り付けてきた。ドラちゃん、なんて心優しい飛竜だ。癒しはここにあったんだな。


「ドラちゃん逃げないな」

「そうですとも、この子と私達は同じ境遇を乗りこえてきたフレンズなのですから。ズッ友だよドラちゃん!」

「そう、オレ達はもう一心同体だ!」

「コアァア!」


オレンジが頭をなでてドラちゃんが小さく吠えて応える。しかし、家失って、捕まって、ボコボコにされて、飼いならされて、何が同じ境遇なんだ、と、疑問に思う。ドラちゃんはエサを探しにオレンジと河原の向こうへと移動していった。


しばらくしてオレンジだけ帰ってくる。ドラちゃんは一匹でエサを取っているのかな。俺も少し落ち着いてきたし、話をするにはいいタイミングだ。


「ふぅ。さて、とりあえず全員に聞きたいことがある」

「はい、上から88ーーー」


オレンジが自分の身体に指を這わせ、スリーサイズを語ろうとし出したのを全力の嫌悪の顔で拒否する。


「違う違う、外見をとりあえず聞こうとしねぇわ。なあ、ちょっと突っ込み所作るのやめてくれ、今散々なんだよ」

「私だって、リーダーにおっぱい揉まれてパンツ見られて散々ですよ!」

「いや、あれはお前が勝手にスカート降ろしたんだろ」

「まて、聞き捨てならんな、乳を揉んだだと?!」

「先生!何か言ってやってください!!」

「こんなくだらんものを掴んで何が楽しい!!!」


その言葉に引きつった笑顔でプッツンしたオレンジは特大火球を頭部に出現させ、鳥の人に躊躇なく投げ放った。この間わずか3秒。


「くだらんくないわぁあああ!!!!!」

「火球投げんなっ!ていうか沸点低すぎだろ!!」

「当たるか跳躍!」


鳥の人は、天空島脱出の時の腕を鳥の翼に変えるスキルを使い上空へ飛んで回避した。まるでこうなることがわかっていたかのような鮮やかな対応だ。標的を失った火球はまっすぐ森の中へと吸い込まれるように消えていった。


「ギャアアァ!!」すると爆発音や振動と共に森の中で悲鳴があがった。声から察するに魔物の類に当たったようだ。森の中で黒煙が上がる、俺の中で天空島のあのときの光景がフラッシュバックした。


「くそっ、外したか」

「外したけど何かに当たったわ」

「被害を出さんと気が済まないのかお前ら!」


悔しがるオレンジ。いや、当たったら普通にヤバいレベルだっていうことに気づいてくれ。そのパワーアップ版で神死んでんだぞ。ジャンプした鳥の人が空から平然と帰ってきて着地した。


「酷いですよ先生!」

「付き合い長いんだろ?わざわざ怒るようなこと言うなよ」

「あれだ、可愛い子にはついイタズラをしてしまうというやつだ」

「先生っ、、、」


オレンジは頬を赤く染め、照れながら鳥の人に歩み寄って組みつこうとする。


「触るな」


鳥の人はその手を払いのけた。一転、2人の睨み合いが始まる。オレンジは「シャーッ!」とか吠えている。互いに必殺の一撃を入れれる間合いの中で一触即発の状況になる。


「いやいや、何か違うじゃんその感じは、、、」


猫のケンカが終わった時みたいに相手を見つつゆっくりと距離をとる2人。緊張が解かれて会話が再開する。


「日常こんなだが」

「どんな日常だよ、、。2人はどういう関係なんだ、付き合ってるのか?」

「はい、そうです」

「違う」

「違いました」


文章を書いて消して、消しゴムのカスを払い除けるかのようなやりとりがここにあった。鳥の人が続けて説明をする。


「彼女は俺の小説のファンだったんだが、知り合ってからアシスタントとしてサポートしてくれているんだ。と言っても要は、お手伝いさんだがな。いつも何か差し入れをくれる」

「そうか、それで食事を作ったりってことに繋がるのか、ここ来たときに着てたあのメイド服は指定だったりするのか?」

「馬鹿を言うな、ふざけているのか!あれは彼女の趣味だ。俺のことを少し誤解しているんじゃないか?」

「そうだな、すまん」

「俺は競泳水着の方が好きだ」

「知らんわ」


鳥の人のどうでもいいフェティシズムを知ってしまったところで、オレンジが懐かしむように思い出を語り出した。


「あれは私が荒れて廃れていた頃の話です。毎日をつまらなく過ごしていたとき、書店をうろついてたら一冊の本と出会ったんです、、、。どこか寂しげなその本を何気なく手に取って見ると、私はその本の世界に取り込まれました。今まで本なんて読まなかった私が、誰かの書いたもので、文章で感動したんです。そこから、私は清く正しく美しく生きようと決めたのです!」


「そんな出会いがあったんだな」

「ふっ、いい話だわね」

「その後、先生の本を読みました」

「ああ。まだ、先生は関係なかったのか」

「くそつまんねぇ本だなと思い、文句言ってやろうと会いに行ったのがきっかけでした」

「ファンって話はどこ行ったんだ?」

「ファンって話はどこ行ったんだ!」

「おい、先生がびっくりしてるぞ」

「ふっ、いい話だわね」

「いい話じゃねぇんだよ聞いてないだろお前っ。あと、ちょっと待ってくれ、みんな、、、。重要なことがまだ話されてないんだよ。まず、俺達はまだ自己紹介をしていないじゃないか。今更だけど名前を教えてくれないか?」


そう、俺達はパーティを組んだり、リーダーを決めたりしてきたが、互いの名前を知らないのだった。逆にもう知らなくてもいい感じだが、今後も一緒に行動して行く以上は、ここで名前を聞いておきたい。


「果たしてそれが重要なことかしら?」幼女が邪魔をする。

「一番重要だと思うんだが」

「人に名前を聞く前に自分から名乗るべきじゃないかしら!」


「俺は何度か名乗ってんだよ恨まれるほどにな!、、、まあいいよ、名前はみやび 雪政ゆきまさだ。レヴァラムゲートでのプレイヤー名は、『フェブライ』って登録している。名前の由来は誕生日の2月フェブラリーからの造語で考えた。後は、、、。今は、こんなところでいいか?えっと、、、よろしく?」


幼女との押し問答を続けてても何の進展もしないことをいい加減悟った俺は、自分から折れて名乗る。しかし、自分で決めた名前でよろしくというのも気恥ずかしいものがある。少し照れながら自己紹介する俺を見て、鳥の人が続けて口を開く。


「挨拶には挨拶で返さないと失礼にあたるからな。オレは神成かみなり 鷹輝たかき。レヴァラムでは『カタリ』というペンネームを使用している。ヨロシク」


鳥の先生の名前がついに判明した。そして彼を先生と呼んでいたオレンジの髪の女の子がじゃあ私も、と名乗り出した。


「私は綾取あやとり 茉莉まつり。こっちでは『茉莉花(まつりか)』です。ちなみに茉莉花は別名ジャスミンという花の名前です。名前だけでも覚えて帰ってくださいね!夜露死苦(よろしく)!」


どこへ帰れというのか知らないがこれで2人の名前はわかった。後はこの金髪幼女だが、一向に黙して語らぬ幼女がそこにいた。おぉお、面倒くさい。相変わらず、なんて協調性のないヤツだ。


「なぁ」

「人に名前を聞く前にーーー!」

「もう名乗ったんだよ全員!スムーズに会話させてくれよ!」


そう言うと、「しょうがないわね」と。一言告げてようやく名乗り出した。いや、しょうがないとはこっちのセリフだ。


「ふっ、、、。わたしは水沢みずさわ 鳶子とびこ、プレイヤー名は名前のまま平仮名で『とびこ』よ。呼ぶときは【神を倒す者 とびこ】と呼ぶがいいわ。よしなに」


自分の名前をそのまま登録していたのか。コイツの場合、サタンとか大魔王とか付けてそうなイメージだったが、意外と普通に名前を付けていたんだな。


「カタリ、茉莉花、とびこ!だな。じゃあ、俺は今度からみんなをキャラクター名で呼ぶことにする。頑なにみんなが名前を出すの拒んでるから、永遠に謎のままかと思ったよ」

「何を言っている、それは聞かなかったから答えなかっただけだ。なぁ、茉莉くん」

「そのとおりですね、カタリさん!」

「さっきそんな呼び方してなかったろ」

「とびこも別に隠してなかったわよ」

「お前は一人称とびこじゃなかっただろうが!」

「で。名前を知ったところで『ゆっきー』、この後はどうしたいのかしら?」


急に幼女のとびこは俺の方を向いて聞いてくる。しかし、『ゆっきー』とは何だ、、、。一瞬考える。


「ちょっと待て。まさか、『ゆっきー』とは雪政おれのことか?」

「フェブライとか呼びづらいのよ、卑猥だし。で?どうするの?」

「卑猥じゃねぇよ、2月だって言ってるだろ。だけど、そうだな。目的として邪神を倒すとした以上は、邪神について情報収集をしないといけないよな。まあ、一番の情報源はとびこが倒した以上、展開としては街とかに行って聞き込みをするとかしかないが。誰か、ここらの地理に詳しい人はいるか?」


「それなんだが」


カタリがポケットから自分のスマートフォンを取り出す。


「少し前にレヴァラムのマップを見てみた。ゲームとこの世界はほぼ違いはないと言っていたが、現在地がよくわからないのだ。ならば誘導機能をと試してみたが、情報のリセットがあるみたいでこの世界で行ったことのない場所にはいけなくなってしまっている。そして現状、空から見た景色は森、山、砂塵のみ」



「、、、つまり?」



「ああ、どん詰まりだ」



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