第5話『天空島からの脱出』元凶、お前だからな!!
爆煙が収まる頃、あの轟音と悲鳴が無くなった天空島のここら一帯はすごく静かになっていた。
俺達以外に動くものはない、やはり、神はあの火球の爆発によって召されてしまったのだろう。
「やったわ!」
「やったな!」
「やったです!」
「やったか、、、」
「おい、やったかとか言うな」
「やったかとか言うなじゃねえ、何してくれてんだよ」
いくらファンタジー世界の神だからといって、人一人殺害しておいてよくもそんなに元気に発言できるものだ。まあ、幼女以外は直接手を加えたわけじゃないから実感ないのだろうが。
そう考えるとあんなにボコボコにできるこの幼女は一体、、、。
「、、、で?この後どうする気なんだよ、邪神の情報源も失ったぞ」
俺は神を倒さなければいけなかった理由を聞く。
『察知するスキルであの神は邪神の仲間だと見抜いて襲いかかった』とか、『未来予知のスキルでいずれ敵になる可能性があったから』とかなら納得できるんだけど。で、その理由とは、、、。
「そうね、特に何も考えてなかったわ」
!
「倒そうとしている奴がいたから」
!!
「考えるより先に体が動く方なんです」
!!!
「え?お、お前ら、本当に何も考えずに神倒したのかよ!」
「すごいでしょう、褒めてくれるかしら」
なぜか自信に満ちている幼女。あまりの短絡的な思考と無計画さに驚いた。こいつらは神を倒す者とかの称号とその場のノリだけであんなことをしたというのか、衝撃告白に俺は目眩がしてふらついて尻もちをついた。オレンジが心配そうに近寄って声をかけてくる。
「大丈夫ですか?おっぱい揉みますか?」
発言がおかしい。
「嫌だよ!火球飛んでくるだろが!!」
「羽毛のような柔らかさを持ちながらも程よい弾力があり指全体を優しく包み込む。コットンのような滑らな手触りと色、艶、完成されたデザイン、衣服の上からでもお楽しみいただける質感、通常よりワンランク上の大きさは至高であり、快適な揉み心地を与えてくれるでしょう」
「どういうことなんだよ!嫌だって言ってーーー」
オレンジがまるで布団のコマーシャルのような説明で自慢の胸を讃えだしていると、急に儀式島が揺れ始めた。いや、周りの天空島から騒がしく鳴き飛び立つ鳥達がいる。この天空エリアの全ての島々が揺れているようだ。
「そんなに嫌なんですかっ?!私のおっぱいの何が不満なんですかっ!!」
「お前の胸への不満で天空島が震えるわけねぇだろ!!!」
「そうなんですか?!ではこれは一体、、、」
オレンジが天空島に文句を言うのを黙らせて周りを見返すと、揺れはどんどん強くなってきているようだった。幼女が壊した石畳の亀裂からヒビが広がっていき、足場が砕け始めた。
「何事かしら?」
「そうか、ここはあの神の天空島、神が倒れた今、その存在を維持できなくなったんだ」
「あ!あれを見てください!」
オレンジの指差す方向を見ると、この儀式島より下にある天空島の一つが崩れて雲海の下に落ちていった。それだけではない。周りにある天空島も崩れて次々に落下を始める。
ーーーー天空エリアは今まさに崩壊しようとしていた。
落ちていく世界遺産のような建物。
落ちていく古き時代よりあるだろう遺跡。
落ちていく魔物達。「グォアア!!」「オオオオオッッ!!!」
落ちていく浮遊島の深き森林。
落ちていく天空の清らかな大池。
落ちていく浮遊島の地下迷宮。
落ちていく地下迷宮の伝説の大蛇。「シャァアアア!!!」
「あー、落ちてくわねぇ」
幼女はまるで染み付いた汚れが落ちていくような言い方だった。この状況でこれを見てその感想、邪神ってこいつなんじゃないかと疑う。
「、、、お前すげぇな」
「もっと誉めていいのよ!」
「いい意味でじゃねぇよ!」
パラララッ、テテーン!
突然、短い着信音のようなものが幼女の腰辺りから鳴る。「この音は!?」幼女は腰に手を当てると、スマートフォンを取り出した。
「あ、レベルが上がったわ」
そうこれは、レヴァラムゲートでレベルが上がるときになる効果音だ。敵を倒した後になるこの音はメールの着信音に設定するほど好きだった。それが今、けたたましく鳴る。
パラララッ、テテーン!パラララッ、テテーン!パラララッ、テテーン!
レベルが上がった。レベルが上がった。レベルが上がった。
「大漁だわね。どうかして?」
「ああ、きっと神倒したのと、天空エリアの奴等が下に落ちて倒れていったのと、下のエリアにいる奴等が潰れて倒れていってるから重ねて経験値が入ってるんじゃないか?」
パラララッ、テテーン!
鳥の人が解釈をしていると彼のレベルが上がった。
パラララッ、テテーン!パラララッ、テテーン!パラララッ、テテーン!
そしてオレンジもレベルが上がった。色々な所で効果音が治まることなく鳴り続ける。
「これ、止まりませんね!」
「まあ、
「お前ら、天空に住む人達と下にいる人達が犠牲になってるってのに、よくそんな悠長なこと言ってられーーー!!!」
パラララッ、テテーン!
俺のポケットから効果音が鳴った。
、、、メールが届いたのかな?俺はスマートフォンを取り出す。うん。
俺はレベルが上がった。
パラララッ、テテーン!パラララッ、テテーン!
「ちょっ、違う!!俺は何もしてないぞ!!何で俺もレベルが上がるんだ!!!」
「何を言っているのかしら?
「オレ達
「大丈夫、
みんなが笑顔で語りかけてくる その言葉は決して嬉しくなかった。すなわちこれは。
ー連帯責任ー
パラララッ、テテーン!パラララッ、テテーン!パラララッ、テテーン!
レベルが上がった。レベルが上がった。レベルが上がった。
おのれフェブライ、おのれフェブライ、おのれフェブラァイ
神の最後の言葉がフラッシュバックし、好きだったこの音が倒れていった人達の恨みの言葉にしか聞こえなくなっていた。頼む止まってくれ、もう鳴らないでくれ、俺はこの効果音が嫌いになった。
ここでオレンジがまとめる。
「こんなにいっぱい経験値をもらえて、、、みんなにありがとうだね!」
「ごめんなさいだよ!!!それじゃすまねぇけどな!!!」
そして俺達の足場も崩れ始める。天空にあったものが全て下の世界へと落ちていく、もう逃げ場はない。俺達の旅はここで終わりか、始まってもいなかったけど。
「もう駄目だ、俺達も落ちていくんだな」
「諦めちゃだめよ!神の遺言を忘れたの?!わたし達で邪神を倒すって決めたじゃない!!」
「神の『願い』を『遺言』にしやがったヤツのセリフとは思えねぇ励ましだな!」
「何よ、このチキン野郎っ!」
「今、オレをチキンと言ったか!」
「お前じゃねぇし、鳥に反応してんじゃねぇよ!」
そこで鳥の人が思いつく。
「そう、鳥だ。ならば飛べばいい」
「え?」
「『
鳥の人の腕が鳥の翼のように変化した。そしてその翼を大きく広げると、振り下ろし空高く垂直に飛び上がった。
「そうね、それしかないわ。『
幼女からは背中に6枚のコウモリの翼のようなものが生えてきた。そして幼女は腕組みをし、そのまま空へと浮かんでいった。おい、翼の意味は、、、。
「どうした?そこはもう危ないぞ」
「飛ぶったって、そんなスキル持ってないぞ、大体、飛行のスキルはここ(天空エリア)に行くための力だろ。俺はそこまで強くなってないし」
レヴァラムゲートでは天空エリアは第3エリアと呼ばれている。本来なら中級者クラスが行ける場所に今、俺達はいるわけだ。当然、やり始めて日が浅い俺は来たことがない。そんな俺が飛行のスキルを覚えているわけがない。
「じゃあ、今覚えたらいいじゃないか、スキルポイント入っただろ?」
「、、、、」
そうだった、、、。俺には先ほど何の罪もない人々を(とばっちりで)殺して得た大量のスキルポイントがあるのだった。
「いや、、、これ使って生き延びるのも辛えよ」
「弱肉強食!犠牲なくして人は生きられないのよ!!」
「殺しまくってもいいことにはならねえだろ!!」
「何言ってるの!形ある物はいつか壊れるのよ!!」
「お前、俺に何回突っ込ませる気なんだよ!!楽しくなってんじゃねぇよ!!」
そうは言っても、ここも安全ではない。決断するしかないようだ。レヴァラムゲートで自分のパラメータを操作することによりスキルを得ることができる。俺は最短スキルチャートを通り、飛行スキルを得た。
「すまない、犠牲になった人達」
「悔い改めなさいよ!」
「ははは、お前だけは許さないからな!」
飛行スキルを使うと体が浮いた。最初に神から受けた光の時と同様にスキルは得ただけで使い方がわかる。このスキルでは前にいる二人のようにカスタマイズがされていないため、何かあるわけではないが、充分だろう。
そして、一人いないことに気づく。
「ん?そういえば、オレンジはどこ行った?」
橙色の髪の女の子がいなかった。みんなで辺りを見回す。
「本当だわオレンジいないわね」
「まさか、落ちたのか?おーい!オレンジィィ!!」
いつのまにか全員がオレンジ呼びだった。鳥、お前は名前で呼んでやれよ。落下する島々、残っているのは数えるほどの島と空を飛び交う鳥や飛行種の生物達だけだった。
「ん?」
その中の一体、中型の飛行種がやけに暴れている。よく見ると、背中に何かくっいている。あれは魔物?いや、あの髪の色は、、、。
「オラァ!!観念しやがれ、クソ爬虫類野郎がっ!!!」
オレンジだった。オレンジは飛竜とおぼしき飛行種にロープのようなものを巻き付け、殴る蹴る燃やすの暴行を荒々しくくわえている。
ところでさっきまでのオレンジじゃない。
「先生!!あの子、変なんですけど!!?」
「あれは〈魔物使い〉のスキルだな。彼女も飛行を持ってないから、それでーーー」
「そっちじゃなくて、なんか性格荒れてませんか?!」
「ああ、昔ちょっと
「えぇえ、ここにきてあいつにそんな追加設定いらねぇ」
そして、全ての島々が雲海に消えた頃、観念したボロボロの飛竜を繰り、オレンジは俺達の前まで寄ってきた。顔つきが変わってる、そこには可愛さはなく、誰よりもキリッとしていて男気に溢れていた。
「よぉ、待たせたな!全員生きてて何よりだ」口調はやんちゃのままだった。
「そうね、まあ、あの程度で死ぬほどやわじゃないってことよ」
「イカれた飛竜を紹介するぜ!ドラちゃんだ!」
「よろしくなドラちゃん!」
「ゴ、ゴァア、、、」
弱っていた。
「、、、、、」
「どうしたの?急に静かになって」
「いや、もういろいろ疲れちまったよ」
「大丈夫か寝るんじゃないぞ、寝たら死ぬぞ、しっかりしろ!」
「雪山じゃねぇんだから、お前がしっかりしろ!」
「おいおい、何、気落してんだよ胸貸すぜ!」
「胸は嫌だっつってんだろ!その火球もしまえ!」
「ようやく元気を取り戻したようね、そうでなきゃ面白くないわ!」
「面白がってんじゃねぇよ!ーーーーそれより、下に降りよう、、、飛行スキルを得たのはいいけど足場がないと落ち着かない、、、後、下が気になる」
そして俺達は雲海を抜け、異世界メルセシアへと向かう。
すごい、これがあのレヴァラムゲートの世界、剣と魔法、そして魔物達と幻想的な大自然がある夢のような、なんて、、、なんて、、、
ーーー当然だが、そこには悲惨な光景が広がっていた。
天空にあった島は粉々に砕け、建物や遺跡だったものがただの岩と化して転がっている。数々の魔物の死体がミルフィーユのように重なりあい、迷宮の大きな蛇も苦しみの表情のまま息絶えていた。
下にあったであろう山々はクレーターのように穴が空きまくり、森林は潰れ木々が倒れている。世界樹を思わせる大木は根本から折れ、その葉は中にいたであろう数々の生物の血飛沫で赤く染まっていた。
ここで、幼女がつぶやく。
「、、、ひどい」
「言っとくけどーーーー」
「元凶、お前だからなっ!!!!!」
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