第4話『神が死んだ日』どうしてこうなった?!

ーーーーー空気が変わった。


鋼鉄音を響かせ神の方へ進む幼女から、どす黒い気を感じる。

幼女の目が赤く光る。


「む、むう?!」突然の宣告に困惑する神。


「は?」唖然とする俺。


え?こいつは一体何を言ってるんだ。お前の命とは?!

え?もしかして神を殺そうとしてる?

え?邪神討ちに行くんじゃなかったのか?

いや、そもそも神を殺す必要が全くない。


これには神も動揺を隠せない。まず、自分がなぜ命を狙われているかわからないのだ。しかし、一歩一歩近づく幼女から確かに感じ取れるものがある。


【殺意】


猛獣が獲物を狩るような必殺の臨場感がここにはあった。


「ど、どういうことじゃ!なぜわしを殺そうと?!」

「お前を倒して『神を倒す者』の称号をいただくわ!ふふふっ、見せてあげる、わたしの『テーマ』、≪魔人≫を!!」


そういうと、幼女から得体の知れない紫色のオーラが溢れ出す。大気が震え、空が暗がりだし、儀式島全体が揺れはじめた。


「な、何だこれは、、、と言うより何だお前は!!」


展開がよくわからん、よくわからんが、、、。



ーーーーーこいつ、殺る気だ。



「いくわよ、みんな!!」


幼女は突然こっちにふってきた。いや、そんなバカな。


「そうだなとか言うとでも思っているのか?まず状況がーーー」

「ここでケリをつけてやる!!!」

「は?!えっ?!えぇっ?!!」


鳥の人がノリ出した。お前も何を言ってるんだ?そもそも何のケリをつけるってんだ?「はぁっ!」と、先程の電流を全身に纏いだした。そして何かの構えをとると、野鳥が獲物を狙うかのような眼で狙いを定める。


「おい!おい!ちょっと待て!どうしてこうなった?!とにかく待つんだ!!」

「そうです!待ってください!!」


オレンジは神と幼女達の間に割って入り両手を突き出して制止する。よかった、まだまともなのがいた。

ーーーと思った刹那、左右に伸ばした手を大きく振り上げクロスした。


「んんんっ、、、。ファイッ!!!」


カンッ!


ー今、ゴングが鳴ったー


「『超加速スピードデーモン』!!」


響くソニックブーム。幼女は石畳を破壊しながら飛び出した。石と砂埃が舞い上がった瞬間、神の顔面が歪み、衝突音と共に後方へ吹き飛んだ。


「ぐおぁお!!」


神は地面に何度も身体を擦り着けながら転がっていった。その距離約100メートル、そして神がいた場所にはニヤリと笑う幼女が立ちつくす。その姿勢から見るに右ストレートが決まったのだろう。なんて速さだ、何が起こったのか全くわからなかった。神はよろけながら立ち上がり、幼女の方に向き直る。


「ぐふっ!は、速い!この神の目でも追えぬスピードじゃとぉ?!まさか一度にも打ち込んでくるとは!」

「あははっ!まだ終わりじゃないのよぉ!『乱打ヘヴィーダンス』!!!」


幼女は再び神に急接近して連続で拳や蹴りを食らわす。一撃一撃が重く落雷のような衝撃音が響く。トリッキーな動きから攻撃の予測ができない神は徐々に直撃を食らい始める。神と幼女の所に走って向かう俺達3人。


「推してますね!」興奮するオレンジ。

「お、推してますねじゃねぇよ!お前、止めに入ったんじゃないのか?!」

「え?いや、戦いに掛け声は必須だと思って」

「何を余計なことを!」

「しかし、飛ばすな。オレの分も残しておいてもらいたいところだ」

「だから何でお前ら神を倒すことに肯定的なんだよ!」


休まることなく続く攻撃、しかし幼女は疲れを見せることはなかった。むしろ神の方が疲れてきている。このままではまずいと思ったであろう神は、わざと態勢を崩し幼女の蹴りをまともに受けた。そしてその威力を利用し自ら吹き飛んで距離をとる。


「ぬぐっ!、、、『空色の球体セレストスフィア』!」


一瞬できた隙を利用し神は小さく詠唱を行う。杖が輝き、神自身を中心としてシャボン玉のようなマジックシールドが展開された。追って攻撃を仕掛ける幼女だったが、完全にシールドの中に隠れる神にその打撃は弾かれ通らなかった。


「はあ、はあ、無駄じゃ。これは神の持つ完全防御壁、攻撃は全て通らぬ」

「どうかしら?『多重砲門リボドゥカン』!」


幼女の前に12門の砲身を横2列に重ねた砲身の長い銃が現れた。銃はまるで生き物のように身を揺らすとすべての銃口が神に向いた。


「ぬうっ!」

「バァン」


幼女の一声で銃から一斉にレーザーが放射された。ぶつかる無数のレーザーに完全防御と思われたシャボン玉はあっさりと割れ砕け神の身体をも貫いた。幼女は再びニヤリと笑う。そしてようやく幼女の後ろ数メートルまで近づく俺達。


「うぐぅ、バカな。神のシールドを破り、わしにここまでのダメージを、、、。これほどの実力をもっておるのか、、、」

「何を言っているのかしら、わたしはまだ実力の3分の1も出してないわ」

「な、なにぃ!」

「60%よ!」

「じゃあ、半分は超えてるじゃねぇか!」

「これで4対1ですね!」

「俺、止めに来たんだけど!?」

「辞世の句を読むがいい!なあ!」

「いや、なあ、ってふられてそれどう返したらいい!?」


などとまた盛り上がっていると神は詠唱を行う。杖を掲げると毎回恒例の光が出て、神の全身を輝きが包む。ボロボロだった神の傷が徐々に癒えていくところから回復魔法を唱えたようだ。それに気づいた鳥の人が動き出した。


「回復などさせるものか『鷹狩りホーキング』!」


神に向けてピッチャーの投球のようなモーションをすると、腕から鳥の形をした雷の塊が飛び出した。一直線に神に突進すると、神の持っていた杖をその手から奪い取る。光の鳥は旋回して鳥の人の腕に戻ると、杖を渡して霞のようになって消えた。


「な、なんじゃと!」


鳥の人は奪った杖を神の方に突き出して言う。


「オレのテーマは〈猛禽類〉。技を見せすぎたな、魔法の起点はこの杖だということはお見通しだった!」

「そりゃ戦うなんて思ってないしな!」

「くっくっくっ、小賢しい延命も終わりのようね!」

「お前は本当なんなんだよ!!」

「ここで私の番ですね!」

「番とかそんなもんーーーー」


「おりゃ!!」


話を遮り、オレンジが軽く気合いを込め両腕をあげると頭上に大型バス級の大きさの火球が出現した。これはあの属性の力だというのだろうか、プロミネンスを放って上空に浮かぶ火球はまさに太陽。こんなものを喰らったらさすがの神もただではすまない。


「お前!なんてモノ出しやがるんだ!!」


「まずい!」


どうあっても話は通じないと思ったであろう神は地面を蹴ると空中へ高く舞い上がった。そう、空を飛んだのだった、、、。

普通、ここは驚くところではあると思うのだが、やはりここでも幼女のせいでそれ以上のものを見せられたため、「あ、飛んでる」程度の感動しか得なかった。こちらを振り向くことなく立ち去ろうとする神だったが、鳥の人は次の手を打っていた。


「逃がさん!『猛禽類の爪ネイル・ザ・ラプター』!!」


親指、人差し指、中指で鳥の鉤爪のように指を形取ると手が放電し、雷の塊を生み出した。それを神に向かって投げ放つと、光は鳥の爪のような幻影を作り出して逃げる神の足に食らいついた。


「こ、これは!身動きが取れぬ!」


光の爪はギリギリと神の足に食い込みながら動きを封じる。


「捉えたぞ!!」

「よぉーし!」

「そこまでだ、やめろって!」


火球を放り投げようとする東雲。空中で動けない神に逃げ場はない。これ以上は本当にやばい、俺は急いでオレンジの方に走り寄り、止めに入る。


「あっ!」


ーーーが、幼女が破壊した石畳の割れ目に足を引っかけ、勢い余って倒れそうになる。危ない!転倒を避けるため何か掴まるものはないかと腕を伸ばした。


「ふぅ、、、」


なんとか目の前にいた両腕を上げて反り返っている無防備な東オレンジの胸に掴みかかって転倒を避けた。危なかった、、、。


沈黙。


血の気が引いた。俺は火球持って振りかぶるヤツになんてことしちまったんだ、、、。俺は慌てて離れる。


「ご、ごめ、、、!」


とっさに謝ろうとしたとき、場の温度が急激に上がっていき、周りの赤い輝きが一層強まっていく感覚を覚えた。まさかと思い火球を見上げると、さっきの10倍ほどの大きさに膨れ上がっていた。沈黙していたオレンジが口を開く。


「リーダーのーーー」

「え?ちょっ、まさか!」


振りかぶる、そしてーーーー。


「エッッチィィィィイイイ!!!!!!」


オレンジは俺目掛けてそのド級の火球を投げ放った。


「ばっ、ばかっ!!それ死んじゃうやつだろうが!!!」


火球から逃げる俺、迫り来る死の玉を背に何かが「生きろ」と言っているような感じがした。いや、そもそもこんなことで死にたくない。火球を見る、この高さならまだ間に合う!

「とあっ!」俺は前方へヘッドスライディングをして火球を避けることに成功する。


「よしっ!」

「ちぃっ!」


悔しがるオレンジ。火球は俺の上を通りすぎると、そのまま真っ直ぐ飛んでいく。火球を見送ると、進路上その先に幼女がいた。


「幼女、危ない!!」

「ふっ、これを待っていたのよ!!」


満面の笑み。幼女は火球の方を向いて仁王立ちになると、身体をまとっていた紫色のオーラは徐々に両足に集約していき一層の光を放ち出した。目前にまで迫る火球、幼女とはいえ、、、。


「ニャーッ!!」


奇声を放った幼女はド級火球を頭上高く蹴り上げた。そんな簡単に弾けるものなのか?

そして自らも大地を蹴り、神より高く、火球より高く舞い上がった。


俺の頭の中にアニメの主題歌のような歌が流れ始める。スマートフォンのアラームにセットしてあるこの歌を聞くと、やってやろうって気になるんだ。


「待たせたわね神!!」

「ぬおっ!別に待ってない!!!」

「あははっ!これで終わりよ!!!」


幼女のオーラが火球に移っていく。紫色のド級火球から発せられるフレアが悪魔の顔のようにメラメラと燃え広がり、この世の全てを焼き尽くそうとするかのようだった。


「撃てぇ!!」

「いっけぇ!!!」

「くらえっ!!破邪滅殺はじゃめっさつ天羅烈蹴斬駒てんられっしゅうざんくすめらぎ!!!」

「なんて?!!」


中二っぽい技名と共に、幼女はオーバーヘッドキックで神に向かって火球を蹴り飛ばした。湾曲するほどの勢いで蹴られた悪魔の太陽が神を飲み込む。


「ぐぁあああっ!!おのれ憎き人間どもめぇぇ!!!!!」


神がいよいよおかしな発言をし出した。


「どう!?これがわたし達、4人の結束の力よっ!!!!」


4人の力だった。




「ーーーーーいや、俺、何もしてねぇだろ!!勝手に含んでんじゃねえよ!!!」



「おのれ、、、リーダーのフェブライ、、、!!雪政と言ったな、、、!!!この恨み忘れぬぞ、、、名前は、、、覚えたからなぁ!!!」


消滅しそうな神が俺に対して憎しみの言葉をあげる。


「まてまて違う違う、俺、止めてただろ!!なんで俺だけなんだよ!!!」

「他の奴らは名前を知らん!!!」

「俺も知らん!」

「終わりだ!!」

「爆っ発っ!!!」

「死ねぇぇ!!!!」


「うぐあぁあああぁああっ!!!!!」


火球は神を飲み込んだまま大爆発を起こした。眩い閃光と凄まじい轟音が一帯に響き渡る。その爆風は激しく、暗がりだった空を再び晴天へと変えた。そして神の塵はキラキラと光の粒となって天空島全てに降り注いだ。


周りを見渡すと、そこには澄み切った青空、清々しい空気、鳥のさえずり、幻想的な建物や遺跡や森や湖がある島々があった。

天国と疑った、最初にあった頃の天空島が帰ってきたんだ。


そう戦いは終わったーーー。


俺達はついにーーー。


神を倒したんだーーー。




「おい、まじかよ、、、」



ーーーこうして俺達のRPGは始まりを告げた。

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