第7話『風神との出会い』マジで怖ぇな!!!

天空エリア落下から1時間は経っただろうか。いまだ、被害による影響は収まらず空を砂埃が覆う。一緒に空を飛んでいて、この森林地帯を覆っている山々はそんなに大きくはないことは知ってはいたが、それ以上先の景色は全く見えなかった。


俺の目で見えなかったこの河原を探せたのだから、カタリの鷹の目ホークアイのスキルは相当によく見えるのだと思う。その人間の視力でもダメということなら、現状、街の方に向かうのは無理と言いたいのだろう。


「確かに空から見るあの視界じゃ、街を目指して進むのは難しいかもしれないな。だけど行こうと思えばどの方向でも行けそうじゃないか?結局この森の先に出れればいいんだし」


それをカタリは即座に否定する。


「と、思うだろう?しかし、運良くどこかの街周辺や平野に辿りつけばいいが、行った先がグランドキャニオンみたいな断崖絶壁の所だったらどうする?または、魔物の巣窟、戦争中、呪われた土地などなど。この森林地帯を抜けたとしてもその先に何が待ち受けているかわからん。また、歩いて抜けるも空を飛んでいくも体力は消耗する。逃げる引き返すも相当に辛いぞ」


なるほど、確かにそうだ。現在地がわからないという迷子状態で迂闊に歩き回るものじゃないな。ましてここは異世界なんだし、常識は通じないんだ。俺の考えの甘さが露呈されちまったな。これはもう少し慎重に考えた方がいい、、、。しかし。



鳥の着ぐるみ着ていたヤツが一番まともだったっていうのは何か腑に落ちねぇ。



「わたしはどこに出ようと構わないわよ、立ち塞がるものは全て撃ち貫くのみ」


幼女は常に好戦的だった。こいつをほっとくと、それこそ世界大戦の引き金とかになりそうだ。


「待てとびこ、また何か大変なことになるかもしれないだろ。とにかく、今は砂埃が収まるのを待つことにしよう。やっぱりある程度見通してから動かないと。誰かここらを通りすがってくれれば道を聞けるんだけどな」

「大体潰れているでしょうけどね」

「やめろ」


現状待機しかないか。一つ話を終えて俺は今いる河原を見渡す。よく見つけてくれたと言うほどの良い場所だ。ここならば水は確保できるし、そこらにあるものを利用すれば、野営用のアイテムも作れそうだな。あとは、食糧の確保か、、。


そう思っていると、何やら近くから自然ではない匂いが漂ってきた。


「あれ?何だろう、この美味そうな匂いは、、、」


「あ!」それに茉莉花が思い出したかのように反応する。


「ふふっ、どうやら良い感じに焼き上がってきたようですね。実は、みんなが疲れてお腹を減らしてるんじゃないかなってと思って、向こうで隠れてお食事を作っていたのですよ!」

「いつのまに」

「やるじゃない」


ここに到着したとき少し姿を見ない時間があったが、裏でそんなことをやっていたのか。ぶっ飛んだ二面性があるヤツだと思っていたけど、そんな気配りもできるんだな。無駄に精神と体力を使って腹が減っていたし、ここはその食事をいただいておこう。


「こっちにきてください」と茉莉花は軽快に誘導し、俺達はそのあとをついて行く。

香ばしい香りが一層強くなってきた。


「でも、隠れる必要はなかったんじゃないか」

「うふっ。みんなを驚かそうと思いまして、私の調理スキルで作っておいたのです!」

「ふっ、言ってはなんだが、茉莉くんの料理はスキル無しでも美味しいぞ」

「ははっ!なんだよ、ここにきて惚気のろけか? ん。なあ、この匂いは肉だよな?」

「あはっ!バレちゃいました?もう、はやいですよぅ」

「わたしは肉には目がないのよね、楽しみだわ」


楽しい雰囲気で俺達は河原を歩く。ときにふと疑問がよぎった。


「しかし、肉の食材なんて、よく見つけれたな」

「えへへへ。いや〜、見つけたといいますかぁ」





「ーーーーーー『あった』ので」





ざっ、ざっ、ざっ、ざっ、ざっ。



急に沈黙が訪れた。


辺りは静まりかえり、聞こえるのは俺達の河原の砂利を踏み締め歩く音だけだった。茉莉花は俺達の方を振り向くことなく『あった』とそう言い、身体を大きく左右に揺らしながら進んでいく。

生き物の焼ける匂いは徐々に強くなってきた。後、数十歩で行き着く河原の曲がり角を曲がれば、それはきっとそこにあるのだろう。


後ろを振り向く。


「茉莉くんの料理は美味いぞ」「わたし、肉には目がないのよね」「茉莉くんの料理は美味いぞ」「わたし、肉には目がないのよね」カタリととびこは俺と目が合うと、何故か壊れた人形のように笑顔のまま同じ言葉を呟き、俺の歩くスピードに合わせ距離を詰めることも離すこともなくついて来る。じわりと汗ばむのを感じる。


「茉莉花、、、さん。『あった』というのは、何だい?」

「え?そのままの意味ですよ?肉はそこにあったんです、、、。あぁ、違いますね。正確に言うと、、、」





「『いた』ので」




カナカナカナカナカナカナカナカナカナカナカナカナカナ

カナカナカナカナカナカナカナカナカナカナカナカナカナ



突然、ひぐらしのような虫の鳴き声が響き、突風が吹き上げて笹のような葉を揺らす。俺はこの異常な事態に何事かと周りを見渡す。ふと、目線を落とし、茉莉花の両腕を見ると、その手は赤紫色の血痕のようなものが付着していた。それは記憶のどこかで見たことのある色をしていた。


いったい、、、。いったい、何の肉を使っているというんだ?少なくともそれは俺達のよく口にしている生き物の類ではないだろう。極度の緊張と恐怖から汗が滴り始め、俺は顔の汗を拭った。降ろした手についてある汗を見た俺は驚愕する。それは彼女の手に着いていたものと同じ色をしていた。


「ひぃっ!!」


何故、俺の顔からこんなものが。これは俺の?血?いいや、そんなはずはない。思い出すんだ、これは何で俺の顔についた?俺の頬に触れたものは何だった?天空島、火球、飛行、転倒、そして、、、。



俺は思い出してしまった。



ーーーーーー俺達にはまだ仲間がいたと言うことを。



身体が震え始める。まさか、まさか。茉莉花を全力で追い抜き俺はその河原の曲がり角へ向かう、「はあ、はあ、はあ、はあ」呼吸が乱れる。お願いだ、違うといってくれ。お願いだ、違うといってくれ。曲がり角を強引に曲がり、目を伏せる。



そして、顔をあげ、俺は正面に目を向けた、、、。



「ぅあ、、、、、、、、、」


俺は息を飲んだ。


そして、いつの間にか



その女は俺の真後ろに立っていた。



「大丈夫ですよ、、、そんなに焦らなくても、、、、もう逃げませんから、、、、その、、、、」






「飛竜の丸焼きは」



「ドラちゃぁあああああああああああああああんっっ!!!」




ドラちゃんは豚の丸焼きのように綺麗にこんがり焼かれていた。肉の臭みはハーブなどの香草を使って消してあり、鱗もしっかりと剥がされ、パチパチと燃える炎を浴びて脂がキラキラと滴っていた。どこかで手に入れたであろうシャキシャキの野菜が彩りとなり、とても美味しそうに火葬されていた。そう心優しいドラちゃんはお肉になったのだ。



「お前は悪魔か!!!何、ドラちゃん調理してやがる!!ずっと一緒だよとか言ってただろ!!!」

「え?いや、あれはそのですね、、、。やっちゃえばもう離れないよねっていうやつで」

「怖ぇぇ!!お前、そうじゃないかな?って思ってたけど、マジで怖ぇな!!!」

「大丈夫です、私達もズッ友だよ、ゆっきー」

「それ、俺もお前のキルリストに入ってるってことじゃねぇか!!全然大丈夫じゃねぇ!!!」

「いいから食べたらどうだ、ドラゴンの肉というのもなかなかに美味いぞ」


カタリととびこはいつの間にかステーキのようにカットされたドラちゃんの肩ロースを口いっぱいに頬張り、モキュモキュしていた。


「何、食ってんだよ!食ってんじゃねぇよ!!一心同体はどうしたんだ?!!」

「ああ、つまり、血となり肉となり、まさに一心同体という、、、」

「発想がそこの頭のおかしい奴と一緒じゃねぇか!!」

「ドラちゃんはね、ただ死んだわけじゃないの、立派にわたし達の生きる糧となったのよ!さあ、命に感謝して頂くといいわ!」


「感謝する命が重すぎるわっ!!!」


パラララッ、テテーン!


次のレベルまでもう少しだったのだろう、連帯責任で入った経験値で、俺だけレベルが上がった。


「俺がやったみたいになっただろうがっっ!!!!!!!」

「うるさいわね、お腹が減っているせいかしら?ゆっきーもお食べなさい!はい、あーん」


そう言ってとびこは強引に自分の持っていたドラちゃんの片鱗を俺の口の中にねじ込んできた。


「やめろ!!仲間の肉食わされるなんて、どんな拷問だよ!!俺は食いたくねぇ!!やめてくれぇ!!やめぇおぅおああぁぁあんっ!!」



ああ、くそ、すげぇ美味い。



「あっ、もう、やだっ!!間接キスじゃない!!!」


とびこは自分のかじっていた肉だということに気付くと、照れて俺の顔面を叩きぬいた。数メートル吹き飛び木に衝突する俺。「がはっ!」全身を強く強打し、俺は身動きが取れず崩れ落ちる。てか、お前の感情揺らぐとこ、そこかよ。



「ゆっきー!!」



呼吸がうまくできず、意識が薄れていく。遠くで誰かが呼ぶ声が聞こえたのを最後に、



ーーーーー俺は気を失った。







目を覚ますと、あたりは暗闇に満ちていた。ああ、寝過ぎたかな?そろそろ夜勤に行かないと、、、。身体がだるい、昨日何してたっけ。俺は目を閉じたまま仕事の準備をしようと体を起こし、手探りでスマートフォンを探す。いやぁ、我ながら凄い夢を見たな。まさかレヴァラムゲートの世界に行くなんてハマり過ぎだっつうの。はははっ。




「目が覚めたか、雪政」



目を開く。夜の薪の炎の光に照らされて、逆立った髪をした男が飛竜の丸焼きを背に、座ってこっちを見ていた。ああ、そうか。



「夢であって欲しかったぁ」



俺は心からそう思った。


「何だ、怖い夢でも見たのか?」

「怖い現実を見ていてな、、、。キラーマシーンとサイコパスはどこだ?あと、俺はどのくらい気を失ってた」

「そこにテントを張って寝てる。時間はそうだな、二、三時間といったところか。日本時間とはだいぶ離れているようだ」

「そういえば、こっちにきたのは深夜だったもんな。カタリは寝ないのか?」

「あっちで起きた時間が遅かったんでな、このまま起きて時間の調整でもしようと思っていたところだ。小説のネタも仕入れたし、、、というか、茉莉くんがいるところで寝たら、何されるかわからんのでな」

「ああ、そうだな。俺、今になって、お前がアイツ警戒してた意味がわかってきたよ」

「変な子だろう」

「お前が言うな。さて、俺も本来は夜勤だったし、このまま朝まで起きているかな」

「ふっ、それは助かる。実は最近、同年代の同性に欲情を禁じ得なくてな」

見つめられる俺。

「、、、言っておくけど、俺にソッチの趣味はないからな」

「構わんぞ、ノン気の男だって喰っちまえる人間になりたいと思っていた所だ。まあ、押し倒したのち、実は女だったという展開が一番燃えるのだが」

「どういう奇跡のシチュエーションだよ」

「寒くなってきたな、そっちへ行っていいか?」

「来んな来んな!ってか、お前はどのタイプの変態でいたいんだよ」


立ち上がろうとしたカタリを全力で押さえこむ。ふと落ち着いた所で辺りを見渡すと、カタリを挟んで反対側に簡易ながら、しっかりとしたテントが作られていた。寝床はあそこか。そして周りにある木々には触ると鳴る木片の板のようなものが付いていて、その下に先端を尖らせた木材が立てかけられていた。サバイバル術に長けているのか防衛に抜かりがない。しかし、起きていたのがコイツで良かった。あの二人とは会話ができそうにないからな。


「カタリ達はレヴァラムゲートをどこまでやっていたんだ?あの強さは相当の経験者ってんだろう」

「オレはゲームの実績を集めるのが好きでね。レヴァラムゲートの実績を全てコンプリートしたレベルと言っておこう。茉莉くんはまだまだだが」

「実績?あのチュートリアルをクリアしたときに手に入れた称号みたいなやつだよな。全てって、ゲームを攻略したみたいなもんじゃないか、すごいな。とびこもそうなんだろうか」

「いや、実績にはあまり興味がないそうだ。【とびこ】の名前を聞いて分かったが、彼女はレヴァラムのイベントの一つである大戦争の中で、時間内で何人倒したかを競う、一騎当千イベントのランカーだった」

「ランカー?あのゲームをどこまでも極めた奴みたいなことだよな」


「まあ、そうだな。【ひじり 刃徒離はとり】【フラガラッハ】【璃々りり】【AKIRA(アキラ)】そして【とびこ】、イベントでのトップランカー5人の名前だ。一度動画を参考にさせてもらったこともある。彼らはゲームの進行より自分を鍛えることを目的にしているところがあるからな。開始早々300人は倒すといったほどだ」


「はは、、、。そりゃ神もやられるよな、、、」

「ん?」



カタリが突然立ち上がり、俺の後ろの森の奥を凝視し出す。俺は振り返りながら森から離れる。


「何だ?どうした?」

「わからん人ではない」


カラカラと木に取り付けていた木片が鳴り出す。風で揺れていて鳴っているのもあるが、カタリの見る先の木片だけ何かに触れているように大きく響き、こちらに近づいてきているのがわかる。


「おい、二人を起こした方がいいんじゃないか?!」

「いや、囮に使って逃げるという手も」

「ひどいヤツだな貴様」



そして、それは姿を現した。



「、、、ヒト、、、?」


深緑色のマントを頭から被った小柄なそれは、ヨロヨロとこちらに近づいてきた。この世界で見る始めての人間のようだが、だいぶ弱っているようだった。


「おい、大丈夫か?話通じるか?」

「お、、、お、、、お、、、」

「お?」

「おな、、か、、、」

「おなか?」

「お腹、、、すいた、、、」

「ああ、腹が減っていたのか」

「それ、、、食べて、、、いい?」


伸ばした指の先には、ドラちゃんの亡骸があった。カタリの方を見ると「いいんじゃないか?」と、言ってくる。できれば食べて欲しくはないんだけど。飢えてそうだし、この場合は仕方ない、、、のか?気が進まないが。


「い、いいぞ」


そう俺が言った途端、それは突風のようなスピードで俺達の横を通り過ぎて丸焼きに飛びかかると、口を大きく開け【吸引】し始めた。


「吸う、、、だと、、、?」


何故か対比から絶対に入らないはずの口の中に丸焼きは吸い込まれていく。どんどん膨らむ頬、そして一飲みで丸焼きを口の中に収めるとゴリゴリと噛み砕き始めた。


「馬鹿な、ドラちゃん一匹分を全て口の中に入れたっていうのか?」


呆然とする俺達。


そしてその口は徐々に元の大きさに近くなるまで縮小していき、動きを止めると、最後にぷっと何かを吐き出した。それは頭部の骨だけになったドラちゃんだった。満足したようで、軽い感じでこちらに話しかけてくる。


「ふう、あのね。頭はちょっと骨密度が高くてね。あ、でも脳まで食べたから」

「黙れ妖怪め」

「妖怪じゃないよ、私は神だもん」

「は?神?!」



妖怪は森を抜けてきた際に付いたであろう葉っぱや砂を払い落とすと、こちらを振り向きマントを脱いだ。


「女、、、?」


そして腰をくねらせ何かセクシーっぽいポージングで親指を自分に突き立て名乗った。


「私は【風神】のゆかりだよ!ゆかりんって呼んでね!!」




「、、、、、、、やだ」

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