第20話 『【風神】ゆかりとの再会』はぁ?!これを食うの?!!

陛下は再びまっすぐ道を進み始めた。慌てて追いかける。



「待ってください、どこに行くっていうんですか?マネキの居場所わかんないんでしょう?あとこの『死体の死体』はどうするんです?」

「黙っていても意味ないでしょう?とにかく前進よ!『死体の死体』はほっとけば土に還えるわ!」

「ゾンビ化した生き物が土に還ったら逆に森が汚染されたりしませんか?」

「そんなこと、私が知るか!山に聞きなさい」

「森ですここ」

「まって2人共!あの茂みから何かくる!」


と、恒例になってきた陛下との問答をしていると、再びユスラさんが何かの気配を感じ取った。

再び身構える俺達。陣形を整え、ユスラさんの近くに移動する。


「まだ来る?何かってなんですか?!」

「わからないけど、人ではない」


ゆっくりとそれは茂みの中から姿を現した。そう、それは緑色のとても長い髪の女性だった。髪を頭部で結んでいるのに膝のあたりまで伸びている。耳も長く綺麗な顔立ちから見た目はエルフに近いだろう。そして、やはり露出度の高い服を着ていた。そう、風神のゆかりだ。


「、、、、、、あぁ、まだここら辺にいたのか」


「う、、、うぅぅ、、、」

「君は、どうしたんだい?」

「気にしなくていいと思います」

「おな、、か、、、」

「おなか?」

「お腹すいた」

「お腹すいた」

「だろうね」

「お腹が減っているのね」

「可哀想に」

「どのあたりがですか?」

「さっきから何なのフェブライ」


虚な目をしたゆかりはきょろきょろと辺りを見回すと目に入ったドラゴンゾンビを指差す。


「それ、、、食べて、、、いい?」

「、、、はぁ?!これを食うの?!!」

「いいんじゃないかな」

「いいわよ」

「いや、駄目でしょう!!」


「よっしゃあ!いただきまぁす!!」


突風のようなスピードでドラゴンゾンビに飛びつくと口を大きく広げて吸引し始めた。


「す、吸うだって!?」

「お前、腹壊すぞ!!」


分離した首や前足まで口の中に突っ込むと、ごりごりと噛み始めた。さっきまでの巨大な化け物が小さな化け物に丸呑みにされるという異様な光景に兵士達は恐怖していた。徐々に小さな化け物の口が小さくなっていき、そして口の動きは止まった。


「ご馳走様でしたっ!」


満足げな化け物。しかしその体系は肥大化することはなく見事なプロポーションを保っていた。一体、ドラゴンゾンビはどこの異空間に飲み込まれたっていうんだ。


「ん?まて、頭部の骨は?!」

「いい感じに発酵していたので、美味しくいただきました」

「発酵じゃねぇ腐ってるっていうんだよ、あれは!」

「うーん?あるぇー、ゆっきーじゃん!えー、こんなところで何してんのぉ?舞羅に会いに行ったんじゃないのぉ?あ、そっかー!私に会いに来たんだねぇ!ヤッター!」

「一言もそんなこと言ってねぇだろ!ちょっ、寄るな!」


俺の存在に気づいたゆかりが過度なスキンシップを図ろうと近づいてきたのでさっと身を躱す。異臭を放つゾンビに張り付いて食いやがった奴に触られるなんていうのは御免だ。


「あらフェブライ、やっぱり知り合いなの?こちらの化け物は?」

「やっぱり、とは俺の知り合いは全部化け物って思ってるんですか?」

「違うの?」

「ま、まぁ、そうですけどね。陛下、えっと、こいつは、食いしん坊のゆかり」

「そう、私は食いしん坊のゆかりん!風来坊って呼んでね!」


腰をくねらせ何かセクシーっぽいポージングで親指を自分に突き立て名乗った。俺とカタリに初めて会ったときと一緒じゃないか、自己紹介のときはいつもこうなのか?


「風来坊?」

「風神らしいです、一応」

「風神のゆかりさん?ああ、お名前だけは存じています。九狼の1人よね」

「え?!お前もしかして、カマさんや御真坂さんと同じギルドなの?!」

「うぬ?ま、そだね。カマ達に会ったことあるの?」

「ああ、グランベリーの街で偶然会ったんだけど。え?何で風神がギルドに属してるの?」

「神々の、、、遊び」

「はあ、、、」

「ちなみにうちのギルドのボスは雷神だ」

「何で雷神までギルドにいてボスやってんだよ?」

「神々の、、、戯れ」

「お前何でもかんでも神々のーーで説明つくと思ったら大間違いだかんな」

「ふぅ、そろそろ行くわよ」


話が通じない奴だと思ったのか、ゆかりに興味を無くした陛下は再び先に進もうとする。


「ですから陛下、居場所が、、、。あ、そうだ。ゆかり、ここら辺彷徨ってたんだろう?この森にマネキっていう魔導士が住んでいるらしいんだけど、知らないか?」


陛下は足を止める。


「ふっふーん!私はそこまで全能ではないのだよ、残念だったねぇ!」

「ほう、神のくせに」

「あ、でもゆっきーにアレあげたよね?優勝商品の『導きの黒い尾』。アレでもわからないの?」

「、、、、、、あ!え?いや、だってこれ、そんな個人の場所とかもわかるのか?!」


俺は慌ててポケットから尻尾を取り出し眺める。そしてみんなも俺の周りに集まってきた。


「持ってんじゃ〜ん。レアアイテムの導きさんだからね、きっと大丈夫っしょ、貸して!

ーーーーーマネキん家ぃ!!」


そう叫び、ゆかりは俺の手から奪った導きの尾を俺の左肩にスタンプを押すように強引にくっつけた。


「ああああああああっっ!!だから何でいきなり人の身体にとりつけるってんだ!!!」


ゆかりはベェーっと舌を出して俺から2、3歩離れた。かわいい行動なのだろうか?今は怒りしか起きない。

すると今までへなりとしていた導きの尾は水を得た魚のようにバタバタと動きだし、先端の顔みたいな部分が俺に気づくと、嬉しそうに先端を擦り付けたり叩いたり巻き付いたりしてきた。


「だっ!おい、やめやめぇ!ちょっと痛ぇんだよ!!」

「ふふっ、飼い主がわかるみたいだね!」


まさに久々に家族と再会したペットみたいな反応だった。俺は手錠のついた両手で何とか尻尾を引き離す、だが残念なことに、この尻尾は目的地に到着するまで取れないのだ。息せき切って押さえ込む俺と陛下の目があった。


「うるさいわよフェブライ、5点追加ね」


一人芝居でもしていると思ったのだろうか、事情を知らない陛下の優しい一言が、大体、俺の胸を抉るのだ。

そしてまた、俺に何らかのポイントが入った。これ以上ポイントを得るわけにはいかない、俺は尻尾に話しかける。(そもそも、尻尾と会話できるんだろうか)



「尻尾、尻尾さん!もうわかったから!マネキの居場所へ導けるのかどうか聞きたいのだけど、、、」


すると、俺の左肩に寄生した導きの黒い尾さんは、キリッとした表情?で周辺を嗅ぎまわると、本来の役目である導き行動に移り、目的地であるマネキの居場所を指し示した。


「おおっ、本当にわかるのか!すごいぞ!(言語も通じた)」


尻尾はとても誇らしげだった。


「陛下、ついて来てください!こっちです!こっちの方向にマネキがいると思います!!」


尻尾の指し示す道を進む俺も誇らしげだった。


「どういうこと?その肩の、貴方が盗んだ町娘のパンツを回収した時あった物だったわね。今、動いてるけど何なの?」

「はい。あ、いいえ、俺はパンツを盗んではないです。これは導きの尾といって、目的地を告げるとそこまで案内してくれるアイテムなんです」

「それは本当なの?」

「こいつはグランベリーまで俺達を連れてきてくれましたし、そこの風神も『そうだ』と言っています」

「そうだそうだ!」

「やめろ、バカみたいな発言するの」

「誰がバカよ!」


一定の方向を指差しクネクネと身を踊らす尻尾を見て、面白そうなオモチャを見つけた子供のようにキラキラした眼をしたユスラさんがいた。


「すごいよフェブライさん!これでマネキを捕まえられるし、ディナーまでに帰れそうだね!」

「まあ、別にゆっきーの力じゃないけどね!」

「おい、ちょっとその一言余計じゃね?」

「面白いアイテムを持っているのね。道案内お願いするわ」

「まかせてください陛下!」


ようやく見せ場がきたので意気揚々とみんなを先導する俺(正確には尻尾の方向へ進む俺)。導きの尾が指し示す方角は今まで陛下が進んでいた方向とは真逆で、より入り組んだ道へと誘導していっていた。確かに森に住むという魔導士が平坦な道の先に居るというのもおかしな話だ。それも幻術を使う魔導士というのなら尚更で、俺達はあのままだったら森の奥へと誘われて彷徨い続けていたかもしれない。あそこでゆかりと再会し尻尾の存在に気づけたことは僥倖だった。あれから数十分はこの道なき道を歩いただろうか。


「ところでゆっきー、何で手錠してんの?歩くの邪魔でない?」

「あ!近っ!お前、まだいたんだ」


振り向くとゆかりがいた。すごい近い。俺の右肩あたりから前で組んでいる両手についた手錠を覗き込んでいて危うく顔面がぶつかるところだった。こいつはぬかるんだ道を歩かないために風神の力で1メートルほど浮かんでいて、音もなくついてきていたから気づかなかった。


「いるよぉ、まだグッバイしてないでしょ。で、その手錠は?オシャレ?」

「シャレでもこんなのつけねぇよ、ちょっと訳ありなんだ。何でついてきてるんだ?今回のことはお前には関係ないだろ?」

「ま、世界樹サラダも作ったし。次の予定なかったから、その魔導士っていうのを見てみよって思って」

「世界樹サラダ作ったのに、何で森の中で飢えてたんだよ」

「え?あの程度の葉っぱで私が満足すると思って?」

「葉っぱ残ってるよな?」


そんな会話をしていると道幅が広く落ち着いた足場の道に出た。後ろからテコテコ走り寄り、ゆかりを挟んで俺の右側に来て並んで歩きだすユスラさん。


「2人は仲良しなんだね!」

「ラブラブっすよ!ねぇ ゆっきー!」

「そうでもねぇよ」

「冷たいなぁ、ゆっきー私のこと嫌いなの?一緒に世界樹を立て直した仲じゃん」

「あ、バカ!ここでそんな事をっ!」

「え?じゃあ2人が世界樹を?」

「ふーん、そう、神聖な世界樹をひっくり返したのは貴方達か。これは世界の代わりに、私が断罪した方がいいのかしら」


「はっ!」


後方にいたはずの陛下がいつの間にか導きの尾を挟んで俺の左側にいた。地獄耳にしてこの俊敏性、そして左手にはいつ解き放ったのかグレートソードが光っていた。やばい、ポイントが溜まりすぎたのか。陛下は剣を持ち上げ、捕食者のような視線を向ける。ドラゴンゾンビの首を一瞬で吹き飛ばした剛腕の女王の射程内。「やられる」俺は慌てて弁解する。


「き、聞いてください陛下、違うんです!不可抗力だったんです!」

「そうだよ、世界樹が折れちゃってて、生き返らせようとしたの。本当はちゃんと立てようとしたんだもん」

「そうなんです!風神もこう言っています!説明してくれ ゆかり」

「ゆっきーが私の腰を掴んでいっぱい出してきたせいでーーー」

「それだと俺がお前に何か悪い事して仕向けたみたいに聞こえんだろぉが!!」

「何でよ!私、何か間違ったこと言った?」

「違うわ!重要なことを言ってねぇんだよ!後、その言い方やめろって言っただろ!」

「私が悪いっていうの?」

「フェブライが悪いってことでいい?」

「いいよ!」

「何でだよぉ!!!」

「両手を出しなさいフェブライ、そんな悪い手はぶった斬ってあげるわ」

「良かったね ゆっきー、手錠が取れるよ!」

「あ、俺、お前のこと嫌いだわ!!!」


「ん?待ってみんな!あれ見て」


話を遮りユスラさんが歩いている道の先を指さした。その方向に俺達は目を向ける。

50メートルほど先だろうか、平坦な道となったその先に人工的に木々を切り取ったような景色があった。


「明らかにあの辺りだけ木々が少ない、それに何か大きな物が見えない?」

「はい。何か小屋のようなものが、、、。まさか!」

「ふっ、どうやらたどり着いたようね。あそこに魔導士マネキがいるんだわ」

「おう、やったね!ゴールだよ!」

「行きましょう!」

「あ、待ってよラズベリー!」

「遅いわよ、ユスラ!」


グレートソードを鞘に納め、うきうきしながら駆け出す陛下。それを追う俺達、後ろにいた兵士達も突然のダッシュに驚き慌ててついてきた。ていうか、俺、手錠してるから走りづらいんだけど、、、。


導きの尾もその小屋のようなものに近づくにつれ、興奮しているように動きが速くなってきた。グランベリー王国に到着したときと同じ反応、俺はあれが魔導士マネキのいる根城なんだと確信した。マネキを捕らえてホスゲ討伐の糧にする。これで契約の一つが完了だ。


マネキの所まで後少しと迫った。



その時ーーーーーーーー。



「あ!」

「え?」


横にある木々の間から。





ビキニ姿の茉莉花があらわれた。

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自由過ぎる奴らが多すぎてツッコミが追いつかないRPG 【レヴァラムゲート】 ~メルセシアの歩き方~ 神奈守 暁月 @rubiks-gg

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