第19話 婚約式 1

 ミアは家族と一緒に婚約式のためにジュリアスの父、マシュー男爵の屋敷にて来ていた。そして屋敷の中の一室を控えの間として用意され、朝からドレスに着替えて髪を結ったり化粧をされたりと慌ただしい。昨晩はローズから渡された指輪をつけて、魔石に魔力を流す練習をして疲れていたことも加わり、支度が終わった時にはぐったりとなっていた。


「‥‥‥‥疲れたわ」

「お嬢様、式はこれからですよ」

「‥‥‥‥」

「さすが奥様ですね、このドレス、ミア様によくお似合いです」


 屋敷には全身の映る姿見が用意されていた。鏡には今日のために母様が用意してくれた淡いピンク色のレースがふんだんにあしらわれた膝下までのドレスを着て、左右の髪をねじってハーフアップにしたミアが映っている。ドレスとお揃いの淡いピンク色のレースのリボンを後髪につけて鏡に映る姿は可憐な少女という他なかった。


 母様とおば様がミアの支度が整った頃合いを見計らい様子をみにきた。


「ミアちゃん、綺麗よ、よく似合ってるわ」

「ふふ、当然よ、私が選んだんですもの」

「やっぱり女の子はいいわねえ‥‥‥‥男の子はつまんないのよ」


 おば様は大袈裟に嘆いて見せてミアをみて嬉しそうに目を細めた。


「これからは一緒に買い物にいって、ケーキを食べに行きましょう。観劇もいいわね」

「私も誘ってくれるんでしょうね」

「しょうがないわねぇ」


 そんな会話をしながら楽しそうな二人をみて、そう言えば二人は結婚する前から親友どうしだと父様が言っていたことを思い出した。仲が良いのを微笑ましくみていたが、おば様はここにいていいのかと疑問に思う。


「おば様、ここにいていいの? 忙しいでしょう?」

「いいのよ‥‥‥‥招待客の相手は主人がするから」

「そうなの? 一緒にいなくていいの?」

「いいのよ」


 ミアはどこか投げやりな感じのおば様に引っ掛かりを覚えながらも口をつぐみ、二人が会話するのを聞いていた。

 暫くすると式が始まると侍女が呼びにきた。


「いってらっしゃい、ミア」

「え」

「私達は式にはいけないのよ」

「‥‥‥‥何で?」

「一家で一人しか出席できない決まりなのよ」

「‥‥‥‥そうなの?」


 そんな決まりがあったのかと不思議に思い、また母様たちがいないのを不安に思ったが、決まりなら仕方がないので「いってきます」と侍女の後についていった。


 式の会場である大広間へと移動すると、招待客たちが大勢集まっているが殆どが男性で女性の姿はごくわずかだった。扉を入って左側に長いテーブルがあり、料理が何種類ものっていて、数人の招待客が料理を片手に談笑している。

 正面に顔を向ければ、あちらこちらで会話をしている招待客がいて、手には飲み物の入ったグラスを持っている。そして招待客の間を飲み物の入ったグラスを配って歩いている侍女達がいる。


 招待客は大人ばかりで自分のような子供はいないし、優雅な所作から殆どが貴族だろうと思われる。貴族の中では一番身分が低い男爵といえども、その息子の婚約だから当然なのだが、ミアは緊張で胃が痛くなりそうだった。


 立ち話をしていた父様に呼ばれて傍にいくと、おじ様とジュリアスもいて、婚約式の始まりが告げられた。


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