第21話 婚約式 3

 冷たく言い捨てて行ったジュリアスの後ろ姿を見送ると溜め息をつく。ミアが扉を開けて部屋に入ると、侍女のリリーが着替えを用意して待っていた。


「疲れたわ」

「着替えたらお茶をお持ちしますね」


 ミアは婚約式では何も食べれなくて小腹がすいていたので、お茶と一緒に何かつまむものが欲しくなった。


「何か‥‥‥‥そうね、甘いものが食べたいわ」

「それでしたら、クッキーをお持ちしますね」

「ええ、お願いね」


 お菓子が大好きなミアはクッキーと訊いて笑顔になった。


 リリーに手伝ってもらいドレスから着てきた服に着替える。ソファーに座り、リリーがお茶を入れているのをぼんやりと眺めていると、婚約式での様子や先ほどのミアを拒絶するジュリアスの言葉などを思い出し、再び溜め息が出そうになった。


 正直にいうと、ミアはジュリアスのことが嫌いではなかった。今では会えば突っかかって意地悪ばかりしてくるが、小さな頃はよく一緒に遊んだし、どちらかと言うと仲が良かったと思っている。それがジュリアスの八歳の誕生日の辺りから急によそよそしくなり、原因が分からないまま現在に至っている。


 気に障るようなことをしたただろうか?

 自分は知らないうちにジュリアスを傷つけていたのだろうか?

 考えても思い浮かばなかった。


 ぼうっとしていると、ミアの前に紅茶とクッキーが置かれていて、紅茶の甘い匂いが疲れを癒してくれる。


「良い匂い」

「ローズティーでございます」


 香りを楽しんでから紅茶を飲む。クッキーを口に入れると、いつもより甘く感じた。


「式では食べられなかったから‥‥‥‥はぁ‥‥‥‥美味しい」


 緊張が解れていき頬が緩む。そんな様子をリリーにしっかり見られていた。


「クッキーお代わりありますよ」

「‥‥‥‥いただくわ」


 普段からお菓子は大好きだけど、疲れているからなのか、いつも以上に甘くて美味しく感じる。リリーがお皿にクッキーのお代わりを持ってきてくれた。


「ジュリアス様に意地悪されませんでしたか?」

「ええ、誓いでは熱~い愛の言葉を頂いたわ」

「それは、見たかったですね」


 リリーの表情から本当に残念に思っているのが見てとれた。


「別れ際には『お前が婚約者だなんて認めない』って言われたけどね」

「ああ‥‥‥‥それは‥‥‥‥予想通りすぎますね」


 普段のミアへの態度からそれが本心なんだろう。婚約したからといって二人の関係が良くなるとは思えず、婚約したという現実に気が重くなる。それに何事も無ければ、数年後にはジュリアスとの結婚が待っていると思うと未来に対して不安しか感じない。何とかしないといけないと思うのだが、疲れて考えるのが面倒になっていたミアは、なるようにしかならないのだからと、婚約について考えるのは止めることにした。







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