第15話 魔導研究所 1

 マシュー男爵の屋敷へ行った二日後、ミアは父様に言われて魔力の検査を受けに魔導研究所へ行くことになった。二階にある自室から玄関へと降りていくと、赤毛の冒険者セスが侍女のリリーと楽しそうに話していた。


「ミアちゃ~ん」


 セスがミアに気づくと手を振ってくる。

 ミアは思いがけない人がいて驚いた。


「セスさん、こんにちは‥‥‥‥どうしてここに?」

「ミアちゃんの護衛だよ~。今日お出かけするでしょ、護衛依頼がきたんだよ」

「そうなんですね」


 正直なところ誘拐されてから、ひとりで出掛けるのは怖かったのでホッとした。


「よろしくお願いします」

「まかせて~、ミアちゃんは俺がしっかり守るからね」


 見た目や態度はいい加減な印象を人に与えるが、セスさんの強さは街まで送ってもらた時に知っているから安心できる。しかしミアは人懐っこく笑顔で接してくるセスが嫌いではなかったが、周りにセスのような男性がいなかったのでどう接したらいいのか戸惑ってもいた。


「‥‥‥‥リリー、行ってくるわね」

「いってらっしゃいませ」


 リリーに見送られて二人は並んで歩いていった。

 セスはお喋りで、酒を飲みすぎて朝起きたらベットにもたれて寝てたとか酒場に看板猫がいるとか、そんな話をずっとしていたが思い出したように聞いてきた。


「そういや、ミアちゃん、今日はどこいくの?」

「魔導研究所よ」

「ええ! 魔導研究所って‥‥‥‥変人ばっかりだよ。そんな場所になにしに行くの?」

「‥‥‥‥変人」

「そうだよ! 俺ちゃんと守れるかなぁ‥‥‥‥はぁ、魔獣の方がまだましだよな」


 セスは顔をしかめてブツブツと呟いていた。

 ミアは父様に変人の集まりと聞いて不安になるが、気がつけば二人は第一区画にある魔導研究所の前まできていた。


 街の中心地区に貴族たちの屋敷があり、円を描くようにその周りに図書館や劇場などの第一区画がある。更にその周りには大店や富豪の屋敷がある第二区画、外壁に近い第三区画には小売店や市民の住居、ギルドがあり、スラムや歓楽街は街の一番外側にある。


 場所は魔導学園の隣なので迷うことはなかったが、建物をじっくりと見たのは今日が初めてだ。

 二階建ての真っ白な外観で特にこれといった特徴がなく、横に長い長方形の建物に同じ大きさの窓が規則正しく並んでいる。

 そして建物の窓は真夏というわけではないが、歩いていると汗ばんでくるくらいには気温が高いのに全て閉まっていた。


 ミアが初めて訪れる場所とセスの変人という話に、緊張しながら建物の中に入ると、暑くないのかという疑問は解消された。


「建物の中は涼しいのね」

「ああ、ここってさ、夏は涼しくて冬は暖かいんだよ」

「そうなの!?」

「そうそう、魔道具でね、学園もそうなんだよ」


 マグナス家は貴族ではないが高級品である魔道具もいくつか所有している。しかし部屋の温度を一定に保つ魔道具は一般には出回っておらず、王宮や図書館などの一部の建物にしか使われていない貴重な魔道具だ。


 ミアはそんな貴重な魔道具が魔導研究所と魔導学園に使われているのかと興味深く聞いていた。



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