お嬢様のプチ家出~魔導学園へは行きたくないわ~

7ふぐ神

第1話 入学許可証

 グルヘイト王国一番の豪商と言われるマグナス家の屋敷にミアの可愛らしい声が響きわたる。


「嫌よ、絶対に嫌!」

「お嬢様!」

「魔導学園になんか絶対に行かないんだから」


 ミアは大きな声で肩を震わせて叫んだ。


「魔導学園は皆の憧れですよ。魔法の力があるなんて、名誉なことじゃないですか」


 侍女の声音から彼女の本心からでた言葉だというのが伺い知れる。


 グルヘイト王国では一定以上の魔力があると認められた者だけが魔導学園への入学を許される。魔力が高ければ一般市民でも入学出来るが、魔力は高位の貴族になるほど高い傾向にあるため、生徒のほとんどを貴族が占めている。ミアのように商人の娘が入学することは稀だ。


 そして今日ミア宛に届いた郵便物は魔導学園への入学許可証だ。

 それには確かにミアの名前で、魔導学園への入学を許可する、と書かれていた。


「間違いよ、私、魔法なんて使えないもの」


 首を横に振りながら、これでは入学などとても無理だと訴える。


「鑑定では魔力があると出てるんですから、魔導学園へ行けば魔法が使えるようになりますよ。ですから、」


 侍女は少し悩む素振りをしたが、ミアの目を見て話し出した。


「魔導学園へ行ってください。‥‥‥でないと、旦那様に話しますよ、あのこと」


(あ、あのこと‥‥‥どのことよ?)


 ミアは『あのこと』を思い浮かべる。


 お父様のペンを壊したこと?‥‥‥いや、それとも‥‥‥大切にしている薔薇の花びらを毎日こっそり湯船に浮かべて楽しんでいること?‥‥‥まさか! こっそり屋敷を抜け出していること、とか?


 考えればまだまだ出てきそうだ。

 ミアは恐る恐る聞いてみる。


「あの、あのことって?」

「あのことですよ、色々と心当たりがおありでしょう?」


 優しく微笑んでいるが怖い、怖いですから。

 昔からミアは姉のように慕っているこの侍女に口で勝てたことは一度もない。


「わかったわよ、魔導学園へ行くわ」

「では、さっそく準備しましょう」

「え、入学までまだ一ヶ月はあるわよ」

「準備は早めにするのが良いんですよ」


 弾んだ声から侍女がミアの魔導学園への入学を喜んでいるのがよくわかる。そそくさと部屋を出ていこうとした侍女が扉に手を掛けたまま、今思い出したと話し出す。


「そういえばジュリアス様にも入学許可証が届いたそうですよ」


 そう言われてミアは顔をしかめた。

 ジュリアスはミアと同い年の従兄弟だ。父の姉が男爵様に見初められてできた子で、何かしらと突っかかり意地悪ばかりしてくるのだ。

 ジュリアスも一緒と聞いただけで平穏無事に学園生活が送れるとは思えない。

 ミアはこれから訪れる学園生活を思うと大きな溜め息をつくしかなかった。



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