第2話 辞退できないかな
「いっ‥‥‥た」
「お嬢様、またですか」
呆れた侍女の声がした。
指を刺したのは今日はこれで三度目だ。ミアはいっこうに完成しないハンカチの刺繍を見ながら溜め息をつき、小さな声で「もう、嫌だ」と呟いた。
グルヘイト王国では親しい間柄でハンカチに刺繍をして贈る習慣がある。庶民の間で贈られるのは簡単な印のようなものだが、貴族や裕福な家の刺繍は何色もの糸を使い模様も複雑で華やかだ。しかし、それだけに腕と時間が必要でミアも毎日刺繍をするのが日課となっている。
ミアのやる気のない様子を見て侍女が声をかける。
「お嬢様、今日はこれぐらいにして、お茶をお持ちいたしましょうか」
「そうね」と頷いた。
ミアは侍女の淹れたお茶を飲みながら、昨晩の父様との会話を思い出していた。
ミアは学園へ行きたくないと訴えた。それに対して『行ってコネを作ってこい』とすげなく言われて昨晩から怒ってるのだ。
ミアは午前中は刺繍や勉強をして過ごし、午後になってから街にでてきた。
そうそう、家を出るときに机の上に書き置きを残してきた。『お父様なんて嫌い、魔導学園には行かないわ。家出するわ。本気なんだからね』である。
そして街中を歩きながら、どうにかして魔導学園への入学を辞退出来ないかと考えていた。
行きたくない理由は三つある。
ひとつは、従兄弟のジュリアスだ。学園でも意地悪してくるだろう。
もうひとつは魔導学園へ行くと周りは貴族の子息と子女だらけ、身分の低い者に傲慢な態度を取る者もいる。だからそんな所には行きたくない。
そして最後に、鑑定では魔力が高いと確認されているが、ミアは魔法を使えない。それでは授業についていけるはずがない。これが一番の理由だった。
表向き魔導学園への入学は辞退することができる、と言われている。しかし今までに辞退したのは二人だけ、一人は病気で一年後に亡くなり、もう一人は精神を病んで今も病院にいるらしい。
ん~、許可証燃やしても、駄目だろうな‥‥‥どうしよう?
そんなことを考えながら歩いていると前から歩いてきた男の子とぶつかった。
「うわっと、大丈夫?」
よろめいたミアの腕を掴み聞いてきた。
「ごめんなさい、大丈夫です」
慌てて答えると「あれ、君、‥‥‥‥確か」と言われて相手の顔を見る。
金髪、碧眼の同じ年くらいの可愛らしい男の子だが見たことがない。
(こんな綺麗な子、一度見たら絶対忘れないと思うんだけど‥‥‥‥誰?)
しかし「じゃあね」と去ろうとするのを「まって」と腕を掴んで阻止していた。
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