第6話 移動の時間
ミアとアルバートは窓枠にしがみついてハンカチの行方を呆然と見つめていた。
暫くしてアルバートがボソッと呟く。
「木箱戻さないと‥‥‥‥」
「‥‥‥‥そうね」
ミアとアルバートは緩慢な動作で木箱を元の場所に戻す。
「ちゃんと届くかしら?」
「‥‥‥‥きっと届くよ‥‥‥‥信じよう」
‥‥‥‥きっと大丈夫よね?
ハンカチにはマグナス家とマルティネス伯爵家の家紋が刺繍されている。マルティネス家は貴族なので、ハンカチを拾った者は役人に届けるだろう。マグナス家も家紋入りの馬車が街中を頻繁に走っているから知らない者はいないだろう。
大丈夫、届けてくれるわ‥‥‥‥褒美が貰えるもの
そう思ってミアは挫けそうになるのを堪えた。
窓から差し込む光が弱くなり徐々に暗くなってくる。いまだに来ない助けに、ミアとアルバートの間には次第に会話もなくなってくる。
そして月の光だけが頼りになってきた頃、扉の鍵を開ける音がした。ミアとアルバートが青い顔で扉を凝視していると、灯りを持った若い男と年嵩の男が部屋に入ってくる。そして若い男はニヤニヤと嗤いながら愉しそうに二人に近づいてきた。
「移動の時間だぜ」
「家に帰して!」
「そうだ、帰してくれ」
「それは、できねえな」
思わず叫んだミアとアルバートの必死の訴えは、年嵩の男によってすげなく却下された。
「‥‥‥‥帰りたい」とミアは情けない声をだした。
そしてミアとアルバートが力で敵う筈もなく、抵抗空しく二人に手際よく拘束されて猿ぐつわを噛まされる。そして部屋から連れ出され、階段を降りたところで更に麻袋に入れられて担ぎ出される。
ふたりを荷馬車に乗せるとゆっくりと動きだし、三十分くらい経ってから止まり、麻袋から解放されて荷馬車から降ろされた。
ここは街外れ?
ミアが周りの様子を伺っていると、男達は目の前にある倉庫に入っていく。ミアとアルバートも若い男に背中を押されて倉庫に入る。
中には六人の男達と拘束されて猿ぐつわを噛まされた八人の子供達がいた。男達は十代から四十歳代くらいで全員剣や短剣などの武器を持っている。子供達は四歳くらいから十三歳くらいで、殆どの子供は貧民街から連れてこられたのだろう、ボロボロの服に痩せて棒のような手足で生気のない目をした子供もいる。中には仕立ての良い服を着た子供も混じっているが、皆一様に怯えていて、中には泣いている子供もいた。
ミアとアルバートは倉庫の奥へと歩かされて子供達のそばに座らされる。
髭面の男が指示を出し、男達が倉庫の外へと出ていくのが見えた。
暫くすると男が二人戻ってきて、髭面の男と話してからミア達の方へ歩いてくる。
「おい、お前ら全員、立て」
「さっさとしろ」
男達の低くて冷たい声に怯えて、ミア達は周りの様子を伺いながらビクビクと立ち上がる。
全員が立ち上がったのを確認してから、二人のうち中年の男が「ついてこい」と言って、背中を向けて歩き出した。
ミア達は男の後について行くのを躊躇い、他の子供達の様子を伺うが、若い方の男に急かされ怖々と男の後について歩きだした。
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