第7話 馬車での移動

 建物の外に出たミア達は二台の馬車に別れて乗せられた。男達も二台の馬車に別れて乗り込み、一人が御者をして二人が中に入って出発する。

 結局その日は夜遅くまで走り続けて森に入る手前で野宿だった。


 ミア達の拘束と猿ぐつわは、街を出るとすぐに解かれたが、手首に擦れた跡ができていて痛みがある。ミアが手首を擦っていると、獣の遠吠えが聞こえてきて、ビクっと身体が跳ねる。


 今まで野宿の経験もなく、獣の遠吠えを聞くような機会もなかった。ましてや拐われるという経験などある筈もなく、精神的にも肉体的にも疲弊していた。


 ミアは食事として手渡されたパンと水を、無理やり胃に流し込もうとするが、


「うっ‥‥‥‥気持ち悪い」

「ちっ、吐くなら、外で吐け」


 ミアは外に連れ出されて、男に監視されながら食べた物を戻した。そして馬車に戻って来くるとフラフラとアルバートの隣に座る。


「大丈夫?」


 アルバートが残っていた水を手渡してくる。不味い水でも口に含むと口中の気持ち悪さが緩和された。


「ありがとう‥‥‥‥もう、大丈夫」


 本当に気持ち悪さが少し、ましになった気がする。


 アルバートを見ると顔色が悪い。彼も不安や恐怖を抱いているのに、気遣ってくれていることに今更ながらに気づき、申し訳ないと思う。

 もう一度感謝を込めて「ありがとう」と言うと、アルバートは疲れた顔にほんの少しだけれど笑みを浮かべてくれた。



 その後は馬車の中で全員で身を寄せあって眠れない夜を過ごし、明け方に再び出発する。


 馬車は森の中を進み、昼前には山の麓にある村に水や食料を調達するために立ち寄ると、髭面の男が馬車から降りて、ひとりの村人と話し出した。

 暫くすると交渉が終わったようで、髭面の男の指示で馬車の中に見張り役を一人残して男達は村の中へと入っていく。そして髭面の男は指示を出した後も村人と熱心に話していた。


 ミアは熱心に何を話しているのかと聞き耳をたてるが何も聞こえてこない。がっかりしていると一人、二人と男達が戻ってくる。


 暫くすると男達が全員戻ってきて出発の準備が整うが、すぐには出発せずに、髭面の男が年嵩の男を手招きする。何の話をしているのか、年嵩の男が難しい顔をして聞いている。


 やっぱり、何かあるのかしら?


 もしかしてお父様達が私たちを捜してるのかも知れない、とミアは男達の様子を眺めながら淡い期待を抱いた。


 話が終わると御者の隣に年嵩の男が乗り込み、男達は警戒しながら山へと馬車を走らせる。


 山道は馬車がすれ違っても問題なく通れるくらいの道幅はあるようだが、進むほどにガタガタと揺れが酷くなっていき、ここまで他の旅人とすれ違うこともなかった。そして無駄口を叩く者もおらず、張りつめた空気が漂い、男達が緊張しているのが伝わってくる。

 それに触発されるようにミア達も緊張して身を固くしていた。


 山の中腹辺りに差し掛かったとき急に馬車が止まり、御者の隣に座っていた年嵩の男が前方で止まっているもう一台の馬車へと歩いて行く。


 どうやら前を走っていた馬車の車輪の調子が悪いようだ。その様子を眺めていると、横の巨大な岩影から大地を震わすような咆哮が聞こえてきた。

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