第23話 魔導研究所にて 2

 ミアは箱に入っていた全ての魔石に魔力を込め終えると、ローズが魔導具を作動しているのをぼんやりと眺めていた。


「問題なさそうね」


 ローズの声がミアのぼんやりとしていた意識に届いて、自分は魔導研究所にいるんだった、と霞のかかったような頭で考えていた。


 ふわふわする‥‥‥‥考えようとするが意識が纏まらない。


 纏まらない意識の中でも何かがおかしいと感じ、ローズに体調の変化を訴えようとした。そのとき部屋の扉が前触れもなくガチャっと開いて、白衣をきた三十才くらいの背の高い男が入ってきた。


「例の女の子が来てるんだって?」

「ランバルト、入室の許可はしてませんよ」

「そう堅いこと言うなって」


 ランバルトと呼ばれた男は怒っているローズを気にした様子もなく、ニヤニヤとした笑みを顔に張り付けてミアへと近づいてきた。


「お! この娘だろ? 結構かわいい顔してるじゃん」

「手を出したら所長に殺されますよ」

「しないよ。所長の息子の婚約者になんて手を出せるかよ‥‥‥‥まだ死にたくないからな」

「‥‥‥‥賢明ですね」


 ローズはやれやれといった感じで首を竦めると、魔導具の方へ向き直った。ランバルトはローズに構わずミアを観察していたが、様子がおかしいことに気づいて眉をしかめる。


「なあ‥‥‥‥この娘、様子がおかしいぞ」

「‥‥‥‥おかしい?」


 ローズは魔導具を触っていた手をとめてミアの状態を確認する。


「魔力酔いね」

「‥‥‥‥そんなになるまで、何やってんだ」


 呆れたランバルトの視界に机の上の箱が目に入り、近づいて中の魔石を一つ手に取った。


「もしかして、これ全部この娘が?」

「ええ、そうよ」


 ランバルトは小さな口笛を吹くと、手にしている魔石を箱に戻して、興味深そうに他の魔石も手に取って見ていく。

 ミアは二人の話を黙って訊いていたが聞き慣れない単語があった。


「‥‥‥‥魔力酔いって?」

「ん?‥‥‥‥ああ‥‥‥‥魔力酔いってのは、体内の魔力が急激に減ったり増えたりすることで起こるんだ」


 ランバルトが魔石をいじりながら答えてくれた。ふわふわとする頭で、なんとか言葉の意味を理解する。


「じゃあ、今のこの状態って!」

「急激に身体の中の魔力量が変化したからだな。暫くじっとしてれば治ってくるよ」


 初めての感覚に戸惑い、不安になっていたので自然に治ると言われてホッとする。


「だけどな、魔力は急激に減ると枯渇して死ぬこともある」

「!」

「だから、自分の限界を知ることも必要だ‥‥‥‥おぼえとけよ」


 さらっと怖いことを言われて絶句した。




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