第12話 家に帰る

 黒髪の男はエイベル男爵の六男でクリストファー、赤毛の男にクリスと呼ばれていた。赤毛の方は宿屋の息子でセス、二人は魔導学園の卒業生だった。


 皆で麓の村へ戻ってから二人がギルドへ魔獣の討伐完了の報告と一緒に男達のことを伝えると、連絡を受けた役人が山へ向かっていった。


 ミアとアルバートは子供達と山の麓の村で別れて、クリスとセスに護衛依頼をだして街まで送ってもらう。そして気にはなったが、役人達が帰ってくるより前に村を出発したので、ミア達を拐った男達と前の馬車に乗っていた子供達がどうなったのか知ることは出来なかった。


 街に無事にたどり着くと、知らせを受けて迎えにきた母様に泣きながら抱き締められた。

 ミアも帰ってきたのだと実感がわいてきて、母様にぎゅっと抱きついた。暫く抱きついていると横から兄様の声がする。


「母様、僕にも代わってくださいよ」

「あ、ごめんなさい‥‥‥‥嬉しくて」


 母様が涙を拭いながらミアを離すと兄様が近づいてきて抱きしめられた。


「おかえりミア、無事で良かった」

「ただいま、兄様」


 すぐに離れていったけど無事を喜んでくれているのは伝わってくる。そして侍女のリリーからも「ご無事で良かったです」と声をかけられた。


 落ち着いてくると兄様がアルバートたちのことを聞いてきた。


「ミア、こちらの方たちは?」

「アルバート様と冒険者のクリストファーさんとセスさん、二人には危ない所を助けてもらったのよ」

「そうなのか! 妹を助けて頂き、ありがとうございました」


 そう言うと兄様と母様、侍女のリリーが二人に深々と頭を下げた。


「ああ、間に合って良かった」

「うん、そうだよね~」


 クリスとセスが本心からいってくれているのだと分かる。短い付き合いだがミアは二人を信頼していた。兄様は頭を上げると訝しげな顔をして疑問を口にした。


「このお礼は後日改めてさせて頂くとして‥‥‥‥アルバート様は‥‥‥‥マルティネス伯爵のご子息ですよね、どこで知り合ったんだ?」

「一緒に拐われてたのよ」


 兄様と母様、リリーが大きく目を開いてアルバートを見る。


「! それは、ご無事でなによりでした」

「ありがとう‥‥‥‥僕が誘拐されていたことは?」

「‥‥‥‥いいえ、聞いておりません」

「そうですか」


 そう言うとアルバートは何か思案しているようだったが「僕も帰るよ。ミア‥‥‥‥会いにいくよ」といって二人に護衛されて帰っていった。

 その背中を見送ると「私たちも帰りましょう」という母様に頷いてミアたちも家に向かって歩きだした。


「お父様は?」

「マルティネス伯爵に呼ばれて、出かけてるんだよ」

「アルバートの!?」

「ああ、‥‥‥‥父様も知らせを聞いたら喜ぶよ」

「うん」


 兄様に事件のあった日のことを聞くと、置き手紙を見つけた父様は初めは笑っていたらしい。

 しかし日が暮れて暗くなってもミアが戻らないので、使用人達を使って友人宅や心当たりを捜したが見つからず、皆で心配して眠れない夜を過ごした。

 そして翌日になるとミアのハンカチがマグナス家へ持ち込まれて、捜索隊が組まれたり、個人的にギルドへも捜索の依頼をだしたりと大騒ぎになっていたらしい。


「あんな父様の取り乱した姿、初めて見たよ。内緒だぞ」と兄様がこっそりと教えてくれた。

 大変な目には遭ったが家族から愛されていると実感できる出来事となった。








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