第21話 モノクロの聖夜と軋み始めた歯車

今日は12月24日、クリスマスイブだ。

クリスマス?なにそれおいしいの?と言いたい毎日を送る人もいるだろう。

確かに、クリスマスは人によっては無縁かもしれない。

だけどオレのクリスマスはまさにそんな大事なイベントだ。

何故なら―――


「メリークリスマス!琉輝君!!」

「・・・メリークリスマス。」


新しくオレの彼女?になった、オレの上司の双子の姉であり、上司の職場の同僚だったり部下だったりする人を、一日デートに連れていくからだ。


名前を雛沢赫李。

ちなみに上司の双子の姉とは言ったが、その上司の年齢はサーティンジャスト。即ち30歳というわけで、なんと年の差8歳差。

しかしその割にはどうも幼げが残ったり、見た目から未成年感を感じるというか、どうも危なっかしい。


まあ、アイツもそんな危なっかしい雰囲気だったけども、ちっとも守ってやりたいとは思わなかったけどな!!


今日はエコロさんがテレビで噂になってたが、そんなことは気にしない。

とにかく外の世界を見せてやりたい。その一心で今日のデートは進行していく。


それよりも気になるのが・・・


「その・・・赫李さん。」

「はい?なんですか琉輝君。」

「・・・べったりとくっつかれると地味に恥ずかしいのですが・・・///」

「えーなんでですか!?私とっても楽しみにしてたんですよ!?ただでさえ男の人と一緒にいるのが少なかったのに、クリスマスはずーっとおうちでケーキ食べてたから、デートって私にとってはとっても新鮮な体験なのです!だから、こうして離れないでくださいね?王子様?」

「それが地味にはずいんすよ!!ほら、周りの人から2828されてるし!」

「みんな笑顔でいいじゃないですか!ほら、せんせーも笑って!」

「オレは先生じゃないからな!?貴女の彼氏ですよ!?・・・って何言わせてるんですか!?!」

「あ、ごめんなさい!つい、昔の家庭教師だと思って!」

「色々恥ずかしいからやめてくださいよ!!なんかこう・・・イケない気分になってしまいそうというか、なんか罪悪感がのしかかってくるみたいな・・・ともかく、一定の距離感というか、ね!」

「じゃあ・・・琉輝君は私と一緒にいると迷惑するんですか?私、せっかく張り切って準備までしたのに、私が邪魔なんですか・・・?」

「そうとは何も言ってないというか―――だー!!!泣きつかないでくださいよ!!!!あとそこ!!!オレを責めるような目線やめて!!!本気で悪いことしたみたいな気分になるからやめて!!!わかった、わかりました!今日はオレから離れないでくださいよ!」


ただでさえこのテンションのまま連れて行ったら、雰囲気を破壊してしまう上に、クリスマスデートどころじゃなくなるからな・・・^^;

頼むから泣きつくのだけは本気でやめてくれ。


あの夜にあんなことまでしたのに、それで笑って受け入れられてるのがホントに胸に沁みるからもうやめてくださいお願いします。


「お嬢様、ところでスケッチブックの方は?」

「あっ、忘れてました!ちょっと待っててくださいね!!」


そういうと、赫李さんはどこかに走り去っていった。


「スケッチブックか…」

「琉輝様。」

「あっ、はい。」

「お嬢様があんなに笑顔を見せるのは、幼少の頃以来でございます。」

「何しろ旦那様の教育は、効率重視のあまり愛情とは言い難いものばかりでしたので・・・」


愛情とは言い難い、か・・・

正直こんな殺風景なところで育てられたら、そりゃあまともとは言い難いよな。


「覚吏お嬢様と会えず、ただあの独房のような空間で勉強やら運動やらをしてきたので、本当にステキな出会いというのは一度もなかったのです。」

「私たちは、昔から旦那様の下で働く使用人ですが、貴方は特別な御方。」

「「どうか赫李お嬢様をよろしくお願いいたします。」」


そう言って頭を下げる使用人達。

何十年も見てきた人達が言うと、その言葉がいかに重量を伴ってくるのかが、心の底からひしひしと伝わってきた。


それはそうと、エコロさんのやり方って本当に正しいのか?

・・・まあ、ここに来たばっかなんで、なんも分からないけども。


それはさておき、今のオレが言えるのは一つだけだ。


「―――わかりました。オレが、オレが必ず赫李さんを幸せにしてみせます。」


そういうと、使用人達は揃って顔が明るくなった。


「ありがとうございます、ありがとうございます。」

「これで私たちも報われる・・・」


そんなに感謝されるほどか?

そうこうしてたら、赫李さんが戻ってきた。


「お待たせしてすみませーん!待ってました?」

「ああ、ちょうどいいところだったんだ。さあ行きましょう。」

「はーい!それじゃあ行ってきまーす!!!」


「行ってらっしゃいませ、お嬢様。」


そういうと、オレは赫李さんのリードで、玄関まで向かった。


「・・・ああ、お嬢様があんな笑顔を見せたのは何時ぶりですかね?」

「少なくとも、わしは覚えておらんのでな。お前さんの方は覚えてないのか?」

「いいえ、私もさっぱりでございます。お互い年を取りましたねぇ。」

「そうですなぁ・・・旦那様がお坊ちゃまだった頃からの付き合いでしたのでなぁ・・・」

「吉報があれば、私達もお暇を取りたいですね、じいさん。」

「まったくだな、後は孫に任せるとするかの。」


「「ほっほっほ・・・」」



「・・・そういや服装ってこのまんまでも大丈夫か?」

「安心してください!ちゃんと着換え部屋もありますよ!」

「じゃあ先にそっち行ってからにしようかな。」

「はい!私も久しぶりに来てみたい服があるので!!」


そう言うと二人して、二階の着換え部屋に入った。


「・・・ちゃんとあるな。」


オレはいつもの服を着て部屋を後にした。

すると、向かい側にいた人と出合わせた。


「琉輝君!どうかな、似合ってるかな!?」


そこにいたのは、まるで童話の中から出てきたかのような、素朴かつ清楚な少女(アラサー)だった。


飾らない赤のドレスにフリルのエプロン姿に、赤いネクタイを胸元に止めたその姿はまるで、シンデレラやアリスを彷彿させるものだった。


「凄く・・・可愛いです。」

「そうですか!?そうですよね!!結構可愛くて気に入ってるんですよこの服!色合いは分かりませんが、とっても可愛いってことだけは分かります!」

「・・・色合いが分からない?」


・・・ていうか、そもそもあの時言ってたな。

『生まれつき目が悪くて白黒にしか見えない』って。


確か本で読んだ気がするが、それってもしや・・・


「―――1色型色覚異常・・・?」

「それって、何ですか?」

「オレも本でしか読んだことがないんですが、1色型色覚異常・・・所謂全色盲は、赫李さんのように白黒にしか見えないそうです。」

「私以外にも、私と同じ見え方をする人がいるんですね…」

「・・・まあ、とにかく出かけましょう。」

「はい!クリスマスを楽しみましょう!!!」


そう言って、赫李さんは玄関に向かった。


―――赫李さんには伝えてなかったが、その本にはこう書いてあった。

【全色盲は、ほとんどの職業に就くことができないものである】と。


・・・それなら幾つか怪しい点がある。


まずは、【何故赫李さんが警察官になれたのか】だ。

色覚異常であれば、その時点で警察官への就職は不可能に近いとされている。

それなのに、何故赫李さんは警察官になれているんだ?

そしてそれを、警視総監であるエコロさんや、上司でもある景虎さんが知らないはずがない。


裏で何かが関わっているとしか思えない。


次に、【全色盲は、数十万人の一人しか発症しないものである】と。

特に、日本人の女性は約0.2%の割合だそうだ。

特に問題ないかと思うが、ここまで隠されるのは何か怪しげな思惑を感じる。


色覚異常は、遺伝子の組み合わせによって作られており、女性の場合はXX'で色覚異常になる。


―――考えたくはないが、もし意図的に『遺伝子操作』を行っていたとしたら…



―――嗚呼、なんでこんな簡単なことに気がつかなかったんだろう。

雛沢家は、こんなにも真っ黒なのに!


そうと決まれば誰でもいい、ギルドの皆と合流しなくては。

・・・その前に、赫李さんとのデートに付き合わなくては。


「琉輝くーん!琉輝君に会いたい人がいるって!!」

「なんですかー!?」


赫李さんの声に誘われて、オレは玄関を出て外に向かった。

そこにいたのは・・・


「―――久しぶりっスね、先輩。」

「―――――エリック…」


ギルドのメンバーであり、オレの後輩の星宙エリックがその場にいた。


「琉輝君、知り合いですか?」

「―――赫李さん、ちょっと話しがあるから玄関に戻ってください。」

「わかりました、琉輝君がそう言うのなら…」


赫李さんは雛沢家に戻った。


「―――エリック、話しがある。どこか遠い場所に行こう。」

「――――奇遇っスね。俺もちょうど同じ事考えてました。」


お互いに大空に飛び立つと、オレはスカイツリーで話しをしようと提案し、エリックもまたそれに賛成した。


「―――ここなら誰も来ないか。」

「流石にスカイツリーまで聞き耳を立てる奴はいないっすよ。」

「ところで話しのことだが、言いたいことは分かってるみたいだな。」

「…こんなとこで考えが一致するのは、逆に不気味ですけどね。」


オレ達は向かい合って、その言葉を同時に発した。


「「―――エコロさんの話しだろ?/―――エコロさんの話しっスよね?」」


「……」

「……」


同音異句とはまさにこのことか。

そこに異議を唱える必要すらなかった。


「・・・やっぱり黒だったか。」

「その様子は、何か分かったって事っスよね。」

「ああ。―――本当の事を話す。気付いてしまったんだ、雛沢家の暗黒面を。」


オレは、エリックに赫李さんにまつわる全てを話した。


「成程・・・社長に双子の姉がいて、そのお姉さんを助けて気を失った後に、ホワイトクリスマスを過ごしたものの、今になって矛盾に気付いた・・・と。」

「ホワイトクリスマスは置いといて、だいたいそんな感じだ。」

「意図的に隠される程の秘密を持っているかもしれないってことっスね、なら、今度は俺の話しを聞いてほしいっス。」


そしてオレはエリックから信じがたい事を聞いた。


覚吏がオレに対し憎しみを募らせていたこと。

エコロさんが覚吏を眠らせた後、渋谷に向かっていったこと。


―――そして、渋谷事件の後、学校の生徒及び教員全てが警視庁の監視下に置かれ、重要参考人としてギルドのメンバー、及び千尋さんが取り調べを受けているということを。


そしてエリックは壮絶な拷問同然の仕打ちを受け、逃げ出したことを。

何より、取り調べには景虎さんが現場に居合わせたこととなっていることを。

そして、オレは身元不明になっていたことを。


そんな話しを、オレは信じたくなかった。

だけど、これではっきりと分かったことがある。


「―――間違いなく、エコロさんは今回の件に深く関わっている。」

「ああ。そしてこれは、警視庁が裏で繋がっているかもしれない。」


「つまりは・・・」「そういう事っす・・・」


「「―――雛沢穢虚盧と、警視庁の所業を暴き立て、オレ達の平和を取り戻す!」」


ここに、新たな物語の頁が開かれた。


世界を守るため、天空と大海は、冥界に反旗を翻す物語が―――

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