第22話 火竜を載せた観覧船 /『海王の目覚め』

「・・・つってもどうするよこれから。」

「ここまで来た以上、後戻りも出来ないしなぁ…」

「なんかないのか?秘訣みたいな。」

「あるにはあるんだけど……―――ハァ…」

「なんでため息ついたし」

「いやぁ、とある場所に行かなきゃだし、それにアイツの事どうするかって思って。」

「アイツ・・・?」

「今度来る観覧船ありますよね。」

「あぁ、フランスから来るっていう船?」

「アソコには、ドラゴンがいるって話しは信じますか?」

「―――ごめん、なんだって?」

「ドラゴンっスよ、ドラゴン。あのおっきなトカゲみたいな・・・」

「そこは知ってるから大丈夫。」

「じゃあ早速で悪いんけど、その観覧船に乗り込んでもらいたいっス。」

「―――正気か?」

「それが先輩が現状出来る唯一の手段っス。まぁその能力があれば何とかなると思うし、後は任せるっス。」


てなわけで観覧船の航路に先回りしてみたわけなんだが…


『――――クッソさみぃ!!!!』


液体化して適合しなきゃ凍え死んでたぞ。

それにその観覧船っていつ来るんだ!?


『・・・それにしても、東京湾は綺麗だな。』


魚達は優雅に、自由に泳いでいる。

見ててとても心が豊かになる。


東京湾は、ずっと昔からあった。

12万年前には既にあって、常に歴史を見てきたんだ。


―――人間は愚かだ。


自分達が暮らす為に美しい海を埋め立て。

自分達の発展の為に美しい海を穢し、そこに住む生き物を無意味に殺し尽くした。


東京湾に限らず、多くの海岸は穢されて、生きる力を奪ってきた。


―――赦すものか。赦すものか。赦すものか。

大いなる海を穢す愚かな文化生命体にんげんどもを決して赦してなるものか。


海が、川が、天地がそう言ってる。

そして、遥かなる銀河ソラ海王星ポセイドンもこう言ってる。


『 今こそ人間を滅ぼし、新たな美しき世界を創り治すのだ 』


―――嗚呼、ならばそれに答えよう。

大いなる意志に従い我は大敵サタンとなりて、この世界うちゅうの再生を担おう!!


―――それが頭の中に駆け巡った瞬間、もうオレは自意識を保つことは出来なかった。


『 でも これでよかったかもしれない 』


オレは皆と殺し合いたくないし、皆が苦しむところなんて見たくない。

なんで分かるのかって?


―――勘かな。

ドラゴンを救い出したら、戦争になる気がする。


オレはただ真実を知りたかっただけなのに、なんでこうなったのかな?

・・・なんかもうバカバカしくなってきた。


―――次に生まれ変わる時は、ちゃんとした人間に生まれ変わりたいなぁ…

それこそ、異能力で苦しむ人間がいなくなる世界で、まともな警察官として一生を遂げたいなぁ…




―――そうして、かの者の意識は群青の海に消えた。






それからしばらくして、聖夜は過ぎ、箱舟はやってきた。


『 当船はまもなく、東京に到着します。お忘れ物のないようにして、よい旅をお過ごしください。 』


船の最下層にあるとある施設に、鎖で繋がれた凛々しくも逞しい、髭を付けた金髪の男がいる。


【codename=DrakeMars 火星の竜】と、彼を隔てるガラスにはそう書いてある。


「・・・・・・」

「お目覚めか?気分はどうだ。」

「・・・最悪だな。とても生きた心地じゃなかったぜ。」

「貴様が生きた心地など笑わせる。我々のエネルギー源だというのを知らんのか?」

「はっ、よく言うな。ここまで連れて来たのも、オレがベルゼブブに会いたいってのを聞いてのことだったんだろ?ネビロスの奴が許可しなければ、オレは研究室に閉じ込められっぱなしだろうに。」

妖精フェアリー崩れの貴様が、本来であればあの御方と会うこと事態が許されないのだ。それを大妖精オーベロンたるネビロス様が特別に会わせてやるというのだ。むしろ我々に感謝したまえ。」

「顔役のネビロスは、お前たちと違ってオレの話しが分かるんでな。そりゃあ道具として扱うお前らの方が崩れだと、オレは思うが?」

「こいつ・・・ドレイクのくせに、我ら妖精にたてつくか!!」


男は白衣の連中に殴られ、蹴られ、嬲られるの連続だった。

ただずっと堪え、それが当然かのように耐え続けた。


『 到着しました。ご利用ありがとうございます。 』


船は東京湾に入港した。


「―――タイムアップ、だな。」

「・・・なんだと?」

「船は着いたんだ。もうあんたらと関わってる時間はない。」


男は手首に付けられた手錠を力尽くで破壊し、自らの力で自由になった。


「んじゃまぁ・・・焼け死にな!!」


その余波で男は熱気を解き放ち、周囲の人影を焼き尽くした。


「東京に上陸、ファイアードレイクのお出ましってな!」


今、もう一つの物語が始まろうとしていた。

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