第10話 隠された真実 Ⅲ
「お久しぶり。壱原厳壱朗海上保安庁総務部長。」
「久しぶりだな、鷲尾景虎警視正。それに、雛沢千尋区長。」
「お久しぶりですわ。厳壱朗さん。景虎さん。」
お互いがお互いを知っているかのような口調。
どことなく他人行儀な感じがするのは気のせいだろうか。
「・・・壱原の親父さん。今アタシのことを言おうとしているんですけど。」
木戸川凛は、景虎に指を向けてそう言い放った。
「ああ、ごめんごめん。じゃ、続けていいよ。」
ごめんね、と言わんばかりにその場から下がり、景虎に譲る。
「仕方ないわね・・・じゃあ手短に言うけど、「大川淳」って知っているかしら?」
景虎がそう言うと、稲志田は口を開いた。
「大川淳・・・たしか、刑事物のテレビドラマに多く出演した俳優ですよね?」
「そう。そしてその大川淳の二世タレントと言われていた「大川七海」はご存知かしら?」
「彗星の如く現れた、伝説の子役女優!わたしずっと前から好きだったの!」
「流石ねぇ~覚吏ちゃん。伊達に子役マニアはやってないわねぇ。」
そして彗星の如く口を挟む覚吏。
・・・それってただのロリコンショタコンなのでは?
「なんだぁ、おめぇ・・・」――覚吏、キレた!
イエ、ナンデモアリマセン。
「^^」 ――コイツ・・・・。
「それで、その大川七海がどうしたんすか?」
エリックがそう言うと、木戸川が口を開く。
「――その大川七海がアタシ。」
「は?」「二度も言わせんな、星屑。」
木戸川は、エリックの頭に嚙み付いた。
「ギャー!いてぇいてぇいてぇ!!嚙むな、離れろ!つか星屑ってどういうことだぁぁぁあ!!!!」
「・・・それで木戸川と景虎警視正ってどういう関係なんすか?」
オレはエリックと木戸川を無視して話を進める。
「そうねぇ・・・まあ、腐れ縁兼仕事付き合いね。」
「仕事付き合い?」
「わたしは警察兼メイクアップアーティストとしても活躍しているの。警察としては大葉啓二で。メイクの仕事ではミルフィーユ景虎として。二つの顔を使い分けて生きていたのよ。」
「へえ・・・・」
大変な生き方ってのは伝わってきた。
「芸能の仕事の時も、警備員として勤務することで、そこのところは大丈夫。」
「木戸川とはどこで知り合ったんですか?」
「淳ちゃんの専属メイクアップアーティストとして仕事してきて7年目ね。ウチの子供が芸能界に入ってきたからその子のメイクを頼むって言われてから付き合い始めたわ。」
「なるほど・・・・」
結構長いな。――オレと覚吏みたいなものか。
「んで、これは芸能界に入りたての3歳の時の凛ちゃんの写真。」
景虎がデジフォン(高性能携帯電話。店頭販売されたときはあまりの行列に営業中止が出たほど人気)をジャケットのポケットから取り出し、その中にある画像を見せた。
「これは・・・」
風環の時に近い見た目をしている。
景虎警視正の奇抜な格好は昔からか。
「まあ可愛いかったわぁ~。今もすっごく可愛いけど♡」
「痛い痛い痛い痛い!!余計なこと言わないでください、嚙み付きが強くなってる!!血が出る痛い痛い痛い!!」
木戸川に嚙み付かれてるエリックを横目に、話を続ける。
「・・・でも、大川七海は10歳で芸能界から姿を消したと言われています。なんでも、その翌日に大川淳の不倫騒動があって、ネット上では炎上を避けるため引退したとか言われていますが・・・」
「―――――――」
稲志田がそう言い放つと、周りに少しの沈黙が続いた。
「そうね。そこのところも、追って話していくわね。」
「――――」
そして、景虎は語りだした。
「あれはホントに、凛ちゃんが10歳のころね・・・・」
* * * * *
突然、彼に飲み会に誘われ、わたしは彼の元に向かった。
「おまたせ~!淳ちゃん。」
「おお、遅かったじゃないか、景虎。」
「ささ、一杯いきましょ?」
こうしてオフ飲みをするのはいつ以来だろうか。
高級フレンチ店でお互いにワインが周り始めた頃、彼の口が開く。
「いやぁ、景虎はホントに頼りになるなぁ!」
「淳ちゃんだって、奥さんや七海ちゃんがいるじゃない!パパってのは頼りになるわよぉ!」
2人で談笑していると、彼の口から信じられない言葉が飛び出す。
「――そのことなんだが、実のところ、来てもらったのはそのことなんだ。」
「なにかしらぁ!もしかしてぇ、そういう仕事とかぁ!?」
「―――もう別れたんだよ。俺達。」
「―――――え?」
信じられなかった。
別れた。あんなおしどり夫婦が別れるなんて、誰も予想はしないことだろう。
「―――――実を言うとさ、デキてしまったんだよ。」
「―――――誰と?」
「番組の女性ADとさ。」
「―――――」
絶句だった。
あんな愛妻家として有名な彼が、そのようなスキャンダルを起こしたなんて信じらたくはなかった。
「―――――冗談はほどほどにしてよ?あなた何言ってるのか分かってる?」
「―――――信じたくはないだろうけど、本当さ。」
その言葉はあまりにも、真実味は濃すぎた。
――現実なのだと。脳が認識されてしまったのだ。
「―――――いつからなの?」
真実を問いただす。
「ちょうど10ヶ月前さ。」
「―――――」
「仕事付き合い終わりでへとへとになって、当時の担当ADが宿泊先のホテルを予約していて、そこで床に就いて眠っていたら・・・」
「―――――」
「目が覚めた時、俺は一糸まとわぬ姿になっていて、シーツは大変なことになっていたんだよ。」
「―――――それって。」
「―――――襲われたのさ。ADに。」
生々しく、そして重苦しい空気が流れる。
「その子はその後、実家が大変とかで退社したって聞いたさ。それを聞いた時、『ああ、逃げられた』って思ったよ。」
「その子とは、連絡はついたの?」
「よりにもよって、3ヶ月前、『大川さん、貴方の子供を授かりました!今までありがとうございました。幸せにします!』ってメッセンジャーで伝えてきたものさ。しかも、わざわざ東京都内の病院で出産するとかいう、明らかに貶めようって感じだよね。」
酷過ぎる。
こんな酷い話が、あっていいはずがない。
「―――――出産はいつなの?」
「―――――明日さ。」
「―――――家族にはなんて伝えたの?」
「家内には本当の事を伝えたさ。俺に最後まで同情してくれたさ。ホント、いい女だよ。」
「七海――凛ちゃんには?」
「凛には芸能界を諦めるよう諭したよ。事務所の方にも話は通したさ。もう凛は芸能界とは一切関係ない。ただの一般人さ。」
「―――――そうじゃないわよ。説明したの?」
「―――――出来るわけないじゃないか。『パパはお仕事頑張るから、暫くお家には帰れない』『パパを信じて』としか言えないよ。だから、君に来てもらったんだ。」
「―――――何?」
「―――――時々でもいいから、顔を見せてやってくれ。きっと、家内も娘も喜ぶだろうさ。」
心からのお願いを、断れるわけないじゃない。
何せ、芸能人の親友からのお願いなんだから。
「――分かったわ。わたしにまかせなさい。」
「―――――ありがとう。景虎。」
淳はそのままわたしの分の支払いを済ませ、行方をくらませた。
* * * * *
「これが大川凛、いえ、母側苗字の木戸川凛引退の真実よ。」
「―――――」
空気が凍結した。
所謂、芸能界の闇が語られた瞬間でもある。
「それで風環・・・凛ちゃんは、どうなったのですか?」
稲志田が口を開く。
「―――――長い道のりだったわ。近所からは悪印象ばかりが付き惑い、凛ちゃんも、学校ではお父さんのことで虐められていたわ。」
――まるで、幼少期のオレをなぞるかの様な人生だ。
「リュウと凛・・・境遇がまるで同じだな。家族内の不幸、幼少期の虐め。それで・・・『母親を殺された』ところも。」
「―――――ッ!!」
「琉輝君と凛ちゃんが、母親を殺された・・・?」
よりにもよって特大サイズの地雷を踏みぬきやがってあのアマ・・・!(#^ω^)
「琉輝の話は俺がしよう。景虎。木戸川凛の話を。」
琉【ナイスコミュニケーションだ親父!(ハンドシグナルで)】
厳【伊達に修羅場を潜り抜けてきたからな(ハンドシグナルで)】( ´∀`)bグッ!
景【そういうところ大好きよ♡やっぱり親子ね♥(ハンドシグナルで)】
凛【いいから話を続けろ。アタシの事は構うな(ハンドシグナルで)】
琉・厳・景(コイツ・・・出来るッ!)
凛【早くしろ!!(エリックの頭ガブー)】
「痛い痛い痛い!!!本気で死ぬ!!本気で死ぬからッ!!いい加減離して!!」
「・・・・」
琉・エ・厳・景(あっ。離した。)
猛犬の牙は、エリックの頭から離れた。すぐさま
エ(あっ、癒されるー)
ティアが嚙み跡に手を触れ、そのまま撫でた。すぐさま傷痕なく回復した。
「これで大丈夫ですね。お大事に。」
「あ、ありがとう・・・・」
そして木戸川が口を開く。
「――話をしろ。」
「分かったわ。でも、大丈夫?」
「・・・正直言って嫌だ。つらい。」
「それなら無理しなくてm「――でもアタシだって!!!
――心からの
木戸川凛は、
自分は、
「分かったわ。話すわね・・・・・」
「――うん・・・・」
「―――――淳ちゃんと別れてから、ちょくちょく家庭に顔を出したわ。まあ奥さんは喜んでくれたわ。お茶請けも美味しかったし。凛ちゃんは浮かれない顔をして、『どうせアタシは浮気するから信用出来ない』って言ってたけど、その度に『つまらない。そんな事を言う奴らははなっから信用するな。どうせなら嚙み付くぐらいに恋愛は激しくやれ(大葉啓二ボイス)』ってアドバイスを送ってたの。」
「えっ!?ってことは、凛ちゃん、もしかして俺のこと・・・!?」「違う。好きなのは
くだらない会話だ。・・・・・って、は?
「
「「なんだソレ!?」」
変な理由だなぁ・・・・って違う。オレのことが好きだって!?
「い、一応硬度を調整してゴムみたいには出来るけど・・・」「ほんとか?」
そしてノーモーションでオレの手に嚙み付いた。
遠慮ってものはないのか。
「・・・・。」
口の中で転がすように嚙みつく。
切歯から発達した犬歯。そこから一気に臼歯まで咥え込む。
普通ならこんな事されたら怪我するだろう。
しかしゴムの手になったこの状況なら違う。
「・・・・気持ちいい・・・・」
凝りが溜まっている手がほぐされるようだった。
「・・・・・。」
そして心なしか、木戸川もご機嫌そうだった。
まるで尻尾を右に振るかのように。
・・・ん?尻尾?
そう思った時、木戸川のスカートから飛び出ている犬の尻尾が尾てい骨から生えているように見え、それを右から左へ、左から右に振っているのが見えた。
「ファッ!?」
ビックリして変な声が飛び出してしまった。
「あら、言わなかったかしら?この子の
――今明かされる衝撃の真実!!
「ていうか何でオレの
「ふぁぶぇふぉふぁふぁふぇいふぉうふぃふぉふふぉふぉふっふぇふぃあふぁあ。」
「すまん。日本語を話してくれ。つか離してくれないか?」
ずっと咥え続けている木戸川にオレはそう言った。
「no,no,no。無粋なマネはやめたまえ。」
そして出たな、女怪人ネタバレスキー。
「誰がネタバレスキーだ!―――そんなことより、読心能力による通訳はいらんかね?」
・・・通訳?
「リンはな?『話されると嫌な気持ちになるから、パパにどことなく似ている琉輝にくっつきたい』って理由から手を離さないんだぜ?ちなみにさっきのは『景虎が映像記録を送っていたから』だ。」
通訳乙。
「つか景虎さんがデータ渡してたのか・・・・権限的には不可能じゃないとしても・・・・」
「v」
嬉しそうだなぁ・・・
「でも、そんな幸せな日々は長くは続かなかったわ。そう。それは2年を過ぎた頃・・・・」
景虎は、再度語り始めた。
* * * * *
わたしはいつものように、木戸川家に向かっている。
でも、今日は違う。
「今日は再婚1周年おめでとデー!いいものプレミアムセット買っちゃったわ!奥さん喜ぶかしら!」
留美さんが再婚してはや一年。お相手は一般人って話だったけど・・・あいにくお邪魔する時に限って姿を見せないのよね・・・。
せっかくだし、一緒に挙がらせてもらおうかしら!
そう思った矢先…
【各員に緊急事態!品川区××丁○○にて、傷害事件発生!現場近くの警官諸君は大至急現場に迎え!繰り返す!…】
(品川区××丁○○って・・・凛ちゃん家!?急がないと危ないわ!)
急激に修羅場になった。
淳ちゃんのためにも、死に物狂いで家に向かった。
「『こちら鷲尾、今現場付近にて通報を受け急行中!急ぎ救援をお願いします!』」
連絡を済ませ駆け付ける。
階段を駆け、玄関の前に立つ。
扉は鍵がかかっていたが、拳銃で無理やりこじ開けた。
「動くな!警察だ!」
その場にいたのは恐怖で怯えている凛ちゃんだった。
「おじさん・・・ママをたすけて・・・・」
「待ってなさい、すぐに助けるから!」
火急の時とはこのことか。
どうやら、状況はかなり悪いようだ。
(頼む・・・間に合ってくれ!)
リビングルームに向かい、無事を祈る。
「!?」
――目にしたのは、留美さんの無惨な姿だった。
全身血まみれで、どうなってるか分からない状態だった。
「どけ!!」
刃物を持った男がこちらに向かってきた。
「―――――!」
バギュゥゥン・・・
拳銃は刃物を弾き、そのまま抑え込んだ。
「午後3時14分21秒!傷害、脅迫、殺人、銃刀法違反の容疑で現行犯逮捕する!」
こうして、事件は幕を下した。
「鷲尾警部補、司法解剖の結果ですが亡くなられたのは木戸川留美さん、32歳既婚者です。」
「そうか。」
「容疑者の橋本コウキとは、再婚相手の関係で、取り調べによりますと、娘をアダルト女優として売り出そうとした、あいつが邪魔だったから酒の勢いで殺した、カッとなったから娘も殺そうとしたと供述しているようです。」
「・・・・人間のクズめ・・・」
「身元を確認したところ、姉に元テレビ関係者がいて、そのコネで知り合ったといいます。」
「・・・名前は?」
「橋本ユウリ。年齢は36歳。なんでも、大川淳の子供を授かったと言っていましたが、去年にその子供は栄養失調で亡くなったそうです。」
(ざまあみろね。天罰が下ったのよ天罰。)
「・・・娘の様子は?」
「しばらく、顔を合わせません。心理学に詳しい同僚からは、元々別人が自分の義父親になって懐疑心が膨れ上がり、母親が殺されたことにより心を閉ざしてしまったとのことです。」
「そうか・・・・・」
「なんでも、警部補とは知り合いだったとか。・・・・お気の毒です。」
「・・・木戸川凛と面談してくる。」
「た、確かに面識のある警部補なら、面談は可能かもしれませんが・・・!どうか、頑張ってください。」
「ありがとう。」
凛ちゃんがいる待機所に向かった。
コンコン。とドアを叩く。
「凛ちゃん、いるかい?」
「・・・・だれ?」
「僕だよ、僕。」
「だからだれ?」
「景虎だよ、景虎。メイクの景虎だよ。」
「・・・けいさつの人だったんだね。てっきり、メイクのへんな人かと。」
「・・・まあ変なのは否定しないかな。入っていい?」
「・・・うん。」
扉を開けた。
そこには少女が座っている。小さな犬の耳と尻尾を付けた犬の
「どうかな。」
様子を伺う。
「もうだれも信じられない・・・ママもしんじゃったし、パパもしんじゃったし、もうあたしはだれも信じられない!!」
凛ちゃんは首を横に振る。
そうか・・・・・淳も・・・死んじゃったのか・・・・
信じたくはなかった。でも、ニュースで取り上げられた、航空機の事故で、大川淳は死んでしまった。
もう。この子は一人なのか・・・・・・?
「―違うよ。」
「・・・・えっ?」
「僕が・・・わたしがいる。」
「おじさん・・・・?」
「代わりにはなれないかもだけど、せめて、わたしの傍には要て。」
「それって・・・・?」
「僕/わたしが、凛ちゃんの親代わりになる。だから・・・僕/わたしだけは、信じて。」
* * * * *
「これが、凛ちゃんの全て。信じられなくなった子犬のお姫様に現れたのは、優しい魔法使いだったのです。」
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