第20話 気高き王と黄泉の王
「いよいよ運命の刻は近づいてきたよ・・・」
その人影は、ホルマリン漬けのようになっている女性の前に立ち、演説をするかのように語り出した。
「ああでも、彼女の目はその全てを見通してしまう。まるで天耳通でも持っているかのように!!!」
喜々とした表情で物事を語りながら、人影はカプセルの周りを徘徊し続けていた。
「赫李の力は君にも神通力を与えるような凄まじい力を有している。小さい頃から隔離しなければならない程に圧倒的な強さを秘めていた。僕はそれが本当に残念でならなかった…」
カプセルに手を当て、それはそれは悲しむばかりの人影。
・・・いや、カプセルに写ったその姿に敬意を示してこう言おう。
―――白亜の髪と真紅の瞳を持つ、外見その物は青年の翁。
名を、『
かの者は警視総監という役職でありながら、自らの欲望の赴くままに行動している。
その欲望が何なのかは、未だ不明である。
「でも、琉輝君が僕らのホームにやって来てくれたのは本当に嬉しかったよ。彼の能力は僕達にとっての希望だからね。···何?『その為に無関係の人間を巻き込んで誘拐同然に連れてくるのはないだろう』って?アッハハハハハ、これも仕方ないんだ。」
エコロはそうカプセルに向かって、事の顛末を説明した。
「彼は君にとって親しき幼馴染であり、憎しみを抱く仇敵だ。だからこそ僕は君の意識を一時的に抜き取り、こうして肉体にマナを送っている。渋谷で僕が起こした『キマイラ蠱毒事件』の被害者の怨念をね。そして彼に用無しの
カプセルに対し、まるで思い出話をするように嬉々として語るエコロ。
だがその内容は実に邪悪かつ不愉快なものだった。
「キマイラ・・・僕の
手から漆黒の泥を産み出すエコロ。
よく見れば微かに蠢いており、それは流動というより鼓動…又は『胎動』である。
果てしない生命エネルギーを秘めたその暗黒物質は、たちまちエコロの手に還っていった。
「それよりも今日は友人と会うんだ、お話しはまた今度だ。」
振り返り、支度をするエコロ。
すぐさま怪しげな部屋から出ていった。
「それじゃあパパは行ってくるよ。お留守番よろしくね、―――覚吏。」
カプセルに入った女性に向かってそう言った後、扉が閉まった。
「…………」
―――気まずいって空気じゃねえな、これ。
多分絶対バレてるだろあの事。
「^^」「^^」
「;^^」「^^;」
なんで向かい側の人間がこっちを向いて笑ってんだ?
つかそれ以前にこの席の位置はなんだ、オレを心労で殺す気か?
「えーと・・・・・・琉輝君。」
「・・・なんすか、赫李さん。」
「私達の食事だけ、何だか多くない?」
「はい、気持ち的に言えば多いですね。ちなみにオレはここで始めて朝食を摂るので分かりませんが。」
食堂に着いたらすぐさま連行されたかと思ったら、いつの間にか赫李さんが座っていて、そしたら大量の料理と赤飯が目の前に置かれてきた。
「てか赤飯って確か・・・」
「成人式や初潮に婚礼、所謂オメデタな瞬間に出す縁起物だね。」
「「―――だ、旦那様!?」」
突然向かい側の席に座っていた白髪の男性がいた。
―――いや、ここが雛沢家だとすればこの特徴に当てはまる人物はただ一人。
雛沢穢虚盧警視総監その人だ―――!
「旦那様、どうしてここに・・・!?」
「祝いに来ただけさ。大事な娘婿の顔を久しぶりに見たくてね。」
娘婿―――確かにエコロさんはそう言った。
小さい頃に、オレはエコロさん家に世話になってた。
でもその時は借家だったはずだ。
よもや家の事まで隠しているとは―――抜け目のなさには脱帽するしかない。
とか言ってる場合じゃない、何であの事知ってんだこの人達は!?
「なぁに、男でも言えない事の一つや二つってのもあるだろう?僕は嬉しいよ。大事な娘が信頼できる男の人を連れて来てくれて。」
「琉輝様、ようこそ雛沢家へ!!!」
「勝手に祝うな!!」
こんなノリじゃ一時間も持たんぞこの空気は!?
「その・・・先ほどはエスコートありがとうございました。」
「赫李さんも赫李さんで何言ってんの!?」
ここにはボケ担当しかいないのか!?
( ^ω^)・・・
よくよく考えたらあの覚吏の実家だからボケ担当が多いのは当たり前か。
今更ながらそんな初歩的なことも失念していたとはな、はっはっは―――
うん、笑えないやこんなの。
「さて、そろそろ僕は出かけてくるよ。」
「出かけるって、どこにですか?」
「羽田空港。僕の古い友人が待っているんだ。」
「へぇー友人ですか。」
そういや親父と景虎さん以外の友人って知らないなぁ。
まぁしばらく会ってなかった上に上司になってるんだもんなぁ・・・そりゃ聞けるわけないよ、うん。
「―――それじゃ、ちょっと裏技使ってくる。行ってくるよ。」
「は?」
「「行ってらっしゃいませ、旦那様。」」
そう言った瞬間、エコロさんは姿を消していた。
―――姿を消す瞬間に、あの時間が破壊された時の感覚が全身に走ったが、恐らく気のせいだろう。
「ささ琉輝様、テレビでも見ましょうか。」
「今日は旦那様の晴れ舞台ですからね、しっかりと見ておくのですよ。」
そうして使用人がテレビを付けた。
ニュース番組のようだ。
『はい、ここで臨時ニュースです。先程羽田空港に、DEMONインダストリアルCEOの【バルデルス=セフィーロ】氏が到着したようです。』
「バ・・・バルデルス=セフィーロ!?」
バルデルス=セフィーロCEO。
この世界で知らぬ者はいないほどの超有名な工学企業である【DEMONインダストリアル社】の代表取締役会長を務め、DEMON社の分社で、全世界の生体工学や電子工学のシェアの半分を占めるBionics Electronics Looping Lane社。―――通称【BELLコーポレーション】の創設者でもある。
世界の評価では、「バルデルス氏がその気になれば、世界のシェアを独立することが出来る」とまで言われるレベルの人物。
それがなぜ、わざわざ羽田空港まで来たんだ・・・!?
『現場からのリポートをお願いします。』
「はい、こちら羽田空港前!ただいまSPやSATによって進入制限がかけられており、敷地内も全面撮影禁止とのことです!」
当然警備は万全か・・・
SATまで出るほどの事態だ、特殊過ぎる状態なのは間違いないだろうな。
「また、一部の情報によりますと、バルデルスCEOを出迎えるのは、雛沢穢虚盧警視総監というものであり、現場では聞き込みをしていますが、これといった対応はありません!現場からは以上です!!!」
「!??!」
エコロさんがバルデルスCEOを直接出迎え!?
な、何があったらそうなるんだ?!
―――時は過ぎて夜。
遥かなる摩天楼が佇む街中、某所フレンチにて。
「ごゆっくりどうぞ。」
温かな雰囲気の中に、向かい合って座る人影が二つ。
一つは白亜の髪の男。一つは至高の雰囲気溢れる亜人の男。
二人の為に用意されたベルベットのシートが敷いているテーブルの上には、フレンチ一式が置いてあった。
「―――随分と用意のいいことだな、まさか日本でも高級フレンチが味わえるとは。」
「どうだいCEO、僕からのささやかなサプライズだ。」
「ふっ、貴様にしては配慮のいいことだ。よほどいいことがあったのだろうな。」
「ははは、僕の口からそれを言わせるのかい?」
「貴様のいいことというのは、得てしてろくでもないからな。おおかたキマイラ関連でやらかしたのだろう?」
「流石はCEO、話しが早い!この聖夜に僕らの祝福があらんことを!ってね。」
「貴様は当然地獄行きだ、馬鹿者。―――まぁ、その点で言えば拙もまた地獄行きだろうけどな。」
「いやいやぁ、世界的権威の貴方様が地獄行きとは到底考えもつきませんよ。」
「―――何時までその様な戯言を続ける気だ、道化よ。」
「―――――。」
白亜の男に対して、CEOと呼ばれた男はそう言った。
「我らはこうして人間として過ごしているが、元は同じ眷族。―――人類の天敵たる、
「――――やっぱりやめだ。こうして優雅な瞬間を送るのは僕ららしくない。悪魔らしく行くとしよう。」
そうしたあと、店内の雰囲気はおろか、一帯の空気そのものが崩れ去った。
二人の周りは銀河のような光景で構築され、足元は惑星の地表のような景観だ。
「本題に移ろうか。―――なぜわざわざ日本に来たんだい?
「知れたことを。貴様の行いを監視し、やがて来る
「ラグナロク・・・僕らサタンの一大イベントであり、世界終了のお知らせでもあるお祭りだね。」
「ラグナロクを経て、その終焉に残ったもので行われる世界継承の儀式―――
「はいはい。・・・んで?なんで僕を見張る訳?」
「貴様の所業を我が
「oh、それはそれは。てことはだいたいの予想はついてるってことね。」
「―――
「兵器としての運用なら、そちらの
「そもそもキマイラとゴーレムでは運用方法が異なる。そこらへんの自重をするように。」
「へいへい。んじゃあこれからは日本にいる感じ?」
「そうだ、しばらく世話になるぞ。―――
二つの神々は、これからどうなっていくのだろうか。
それは、この先の未来のみぞ知る。
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