第12話 生命と深淵 Ⅱ

「…琉輝。お前はアイツの能力を知っているな?」


「…生命操作ライヴ・コントロール、だろ。」「そうだ。」


生命操作ライヴ・コントロール?」


(いつのまにか)起き上がったエリックは首をかしげる。


「・・・たしか君は・・・」「はい!星宙エリックと言います!先輩とは切磋琢磨し、互いに尊敬しあう仲?みたいなものです!」


「星宙・・・。ひょっとして、星宙一等空尉の息子さんか?」


「!!父のこと、ご存知ですか!?」


「ああ。研修会の時に顔を合わせたからな。そういやぁイギリス人の女性と同棲してるって聞いてはいたが、まさかな・・・・。」


親父は懐かしんでるみたいだ。


「それより、生命操作ライヴ・コントロールってなんすか?」

「ああ、悪い。・・・生命操作ライヴ・コントロールというのは、ティアの異形能力(エネミースキル)のことだ。」


「どういう能力なんですか?」


エリックは親父に問う。


「単純に言えば、『生命力を異常なまでに活性化させる』能力だ。」

「それだけですか?」「・・・当然ながら、生命力というのは、生物の根本的な活動エネルギーである。―――それが『異常なまでに』高まったらどうなると思う?」


「・・・・・?」


オレ以外のメンバーが首をかしげる。


「―――――当然ながら、本来の規格以上の生物となる。雑草なら、たちまち大草原となり、ネズミなら猛獣と化すくらいだ。」


「!?」


全員、その『あまりにも規格外過ぎる』、天災レベルの能力を知り、啞然とした。


そう。何もかも『桁違い』なのである。


エ「なんだソレ…ぶっ飛んでやがる・・・」

凛「―――イカレてる。」

奈「こ…こんな人の手に余る能力を、今まで誰にも知られず隠し通すだなんて不可能だ!発現したてなら、何かしらの変化があるはずだ!ましてやそんな能力なら、確実に全国規模で報道されるはずだ!

―――どうして世間の目に触れることなく、今!私達の前に『ソイツ』はいる!?答えてくれ!壱原海上総務長!!」


・・・稲志田の訴えはもっともだった。

異常な生命力を操るコイツが、なぜ今の今まで世間一般にバレずに済んだのか。

・・・確かに、アイツと一緒に住んでた家は、作られたようにも見えた。

普通、能力が発現すれば、病院でデータは管理され、県や国の機密保持データとして扱われる。学校の個人教育にも反映されるからだ。


それがずっと隠し通されるという不可解な出来事が、あっていいはずがないのだ。


「・・・教えてくれ、親父。―――『何故』アイツは、ずっと隠された。

『何故』アイツが、オレの・・・―――いや、オレ達の家族という事を隠していた。

―――何でこのタイミングであんたが来た。・・・言えよ、親父。」


問い詰めよう。親父が口を割るまで。

このままではオレだけでなく、あんたらの信頼まで揺らいでしまうぞ?

言ってくれよ。親父。

・・・あんたは、一体何を考えているんだ?



「・・・・・」 「・・・・・・」


「ッフ。・・・ハーハッハッハ!!」 「何が可笑しい。」


「いや見事だ。俺が見ないところで、こんなにも成長してたんだな!父ちゃんは嬉しいよ!ハッハッハ!!(クシャクシャ)」 「ええい頭をなでるな!真面目に答えろ、ぼんくら!」


コイツ・・・まともに話す気があるのか・・・?


厳「おいおい・・・ぼんくらってのはちょっとそりゃねぇんじゃねえか?」 琉「うるさい!だいたい昔っからいちいち雑なんだよあんたは!一人暮らしが長いからって、炊事洗濯掃除までなにっもかも雑で粗い!毎晩代わりにやるオレの身にもなってみろ!」 厳「ティアがいるんじゃないのか?」 琉「あれはそもそものセンスが壊滅的過ぎる!飯炊かせりゃ炭酸飲料ぶち込んで米の味を徹底的にぶっ殺すし、洗濯掃除なんぞ水圧にもの言わせて品質をとことん壊して来る!極め付けはカレーの時だ!最初は良かったんだ!最初のほうは!!後はただ待てばいいものを、隠し味とか抜かして、水でふやかしてすらいない昆布に酢にコーヒー豆に味噌100%!これならまだ可愛いほうだ!食いかけのスナック菓子や消費期限オーバーの梅干しぶち込んだ時には、マジに正気疑ったからね!?おかげでストレスがマッハで狂いそうだったぞ!!」 帝「でも美味しかったですよ?二人で作ったカレーは。」 琉「おまけに味覚までアレときた!!なんなんだよアイツは!?高い生命力の副作用は、あんな感じに人格がぶっ壊れてるのか!?それとも元々か!?なんとか言えよ仕事馬鹿ああああああああああ!!!!!」 厳「よし、分かったから一回落ち着け。」


・・・いかんいかん。つい熱くなり過ぎた。

こういうところだ。オレの良くないところ。

ついつい不満を爆発させて当たりが強くなってしまう。

直さなきゃいけないとは分かっているんだが・・・これがどうして直せないんだか。

難儀なものだ。



「・・・まあ言いたいことは分かった。つまり君たちは、『真登河帝亜』という人間が何者か?そういいたいんだな。」


全員頷いた。


「心得た。それなりに長くはなるが、聞いていくかい?」


またまた全員頷いた。


「え~・・・時間って、大丈夫?覚吏ちゃん。」

「ああっ、はい!ちょうど1日目が終わる頃ですから、大丈夫です!」


「・・・ありがとう。それでは話すとしよう。―――真登河帝亜という少女について。」


「!!」


さあ、謎解きの始まりだ。



*  *  *  *  *



厳「・・・彼女は生まれ付きの能力者だった。」


「!?」


しょっぱなからとんでもないカミングアウト。


奈「生まれつきの・・・能力者!?」


厳「ああ。めったにない稀少な例だね。全世界で40~50人辺りとも聞いている。機関ではこの稀少例を、完全変態ワイルドと呼んでいるらしい。」


凛「ワイルド・・・・」


琉「ティアは、ワイルドで、目覚めた・・・というか、元々備えられていたのが・・・・」


生命操作。

強力な生命力を与えるだけでなく、自身にもその恩恵をもたらす。

それが生まれつき備わっていると分かった以上、聞くことは一つ。


琉「・・・被害は出なかったのか?」


その計り知れない能力なんだ。

ましてや生まれたて。制御なんかが出来るはずがない。


厳「流石に微小の被害は及んださ。出産二時間後にその影響は出たさ。」


琉「・・・分娩室でか。」


*  *  *  *  *  *




「・・・」


【仕事の都合で同僚・・・いや、元同僚の穢虚盧の家に預けてたお前に知らせるべきか悩んでいたころだ・・・】


【覚:ストーップ!パパと知り合いだったの!?】 【千:しーッ!静かに!】 【覚:ごめん・・・(´・ω・`)】


「壱原警視、処置室へご同行願います。」

「?・・・分かった。」


【警察の関係者の医者が、処置室への同行を頼み込んできた。】

【無論、これが意味していることがさっぱり分からない。入るまでは。】



「これは・・・!」


【目に飛び込んできたのは、バイタルサインが健全な幼児のものと類似した数値と、意気揚々と働く医者の姿だった。】


「分かりますか?『元気』なんですよ。本来では有り得ないくらいに。」

「どういうことだ・・・!?」

「我々にも分かりません。ただ、確実に言えることは、先程までにあった疲れや集中力、それに、通常の新生児なら40分で終わるはずの高度覚醒状態ですが、この子はまだ続いているんです!生物学的にもこんなのありえない!」

「・・・確信はないが、一つの仮説ならある。」

「それって何ですか!?教えてください!!」

「―――そういう能力を、生まれながらにして持っている。というものだ。」

「どういうことですか!?」

「因子の検査を行う。」

「しょ、正気ですか!?」

「きっと大丈夫だ。そんな気がする。」

「・・・あぁもう分かりました!上に取り掛かってみます!」

「・・・ありがとう。」


【検査は陽性。つまり、娘は異能者エネミーだということが判明した。ただ、問題もあった。】


「・・・もし彼女を世間に出すなら、貴方達のどちらかは、縁を切らなければなりません。」


【離婚。その理由は、娘が異常な影響力を持っており、どちらかに預けなければ、社会的に迫害されるということだ。】

【親として、それは避けたいところでもある。だが、そのために縁をなかったことにするというのは、男として、心苦しいところでもある。】


「それに関して、こちらに任せてもらえませんか?」


【俺が出した結論は、俺の実家である壱原家の援助のもと、妻の実家である真登河家に預けるというものだった。】

【幸いにも、それが最善の選択だったことは、知らなかった。親父が何とか世間から秘匿してくれた。】

【ただし、琉輝には存在そのものを黙っておく必要があり、アイツを世間に知らせてはいけないという条件付きでもあった。】


*  *  *  *  *  *



厳「これが、ティアが今まで世間から隠し通してこれた真実だ。」


真実の一つが、今語られた。

あまりにも未可解ではあるが、今語られた言葉には、嘘なんて一つもない。

それが、あまりにも現実味を帯びていたからだ。


琉「その後は?」


厳「成長速度もまあ早かった。生後半年で、2歳児ぐらいと変わらないくらいになった時は改めて恐ろしさってのを感じたな。^^;」


そのレベルだともはやエイリアンだろ。


厳「3歳になって中学生と同じぐらいの知能になったって聞いた時は腰を抜かしたぜ・・・^^;」


やっぱエイリアンか何かだろ。


エ「5歳児ってなると、それこそ高偏差値集団並みのアレになるんじゃねぇのか?」


厳「ぶっちゃけると、その歳になってドッキリを仕掛けるようになってな・・・あのいたずらは何度頭を抱えたことか・・・・」


琉「あのいたずら?」

厳「能力を使って出産してる振りっていうのを母親相手に提案してな?それで身近な人にドッキリを仕掛けるってものだ。」


出産してる振り?・・・・・!!??


琉「―――・・・おい、それってもしかして。」

厳「ん?」

琉「その偽赤子の名前、『日向』だったか?」

厳「良く知ってるな・・・―――あっ。」

琉「―――」

厳「あー・・・なんだ・・・―――すまん。本当にすまん。ほら、ティアも謝りなさい。」

帝「なんかよくわからないけど、ごめんなさい!もしかして、その日向ちゃんに期待していたんですか?それなら、わたしが日向ちゃんの代わりになります!」

琉「――――――」

帝「おにいちゃん?」

琉「てめえふざけんな!!!!!代わりだって!?よくもまあそんなぬけぬけとほざくな、核爆弾娘!!」

帝「おにいちゃん?」

琉「やっと!!!妹が!!!家族が増えたと思ったんだぞ!?!?それが流産で死んだって聞いて、喪失感でいじめすら感じなくなったってゆうのに、それがドッキリで仕組まれた嘘って分かって、挙句の果てに張本人から代わりになるだぁ!?ふざけるのも大概にしろ!!!」

帝「悲しくなかったのですか?悲しいって思えるはずですよ?」

琉「悲しみすら通り越して虚無だよ!!ガキだったオレにはよく分からねぇよ!穴が!!心に!!空いたんだよ!!!てめえには感情ってのが!!人の心ってのがねぇのかよ!!」

帝「わたしだって、嬉しいとか、楽しいとか、悲しいとか分かりますよ!みんなが嬉しいと嬉しくなるし、みんなが悲しんでると、悲しくてやりきれない気持ちにはなりますよ!?」

琉「だったら!!!なおさらオレに同情してくれよ!!!お前なら、オレが突然死んだって聞いたら、どう思うよ!?」

帝「・・・そんなの、耐えられません。きっと、生きる意味を失って、廃人のようになってたと思います。」

琉「―――オレは、それを二回も味わったんだ。日向に、母さんに。オレは先立たれたんだ。苦しいってもんじゃない。」

帝「おにいちゃん・・・」

琉「はっきりと言わせてもらう。

―――お前はオレの人生を狂わせた。心に孔を空けた。

―――お前に、オレの孔を埋められるのか?

―――お前に、今までの虚空を打ち消せる覚悟があるのか?」

帝「―――――」

琉「―――――」


沈黙が続く。

今まで暮らしてきた少女に、オレの心の孔の闇を埋める覚悟を問う。


「わたしは・・・・」

「?」


「わたしは・・・知らなかったとはいえ、おにいちゃんを・・・リューくんを傷つけていたんだね。

―――ごめんなさい。・・・本当に、ごめんなさい・・・・」

「ティア・・・・・」


涙が零れる。

今まで見せなかった、彼女の悲しみを。

心から、オレへの想いを。


「ごめんなさい・・・・!本当に・・・!ごめんなさい・・・!

貴方を傷つけるつもりはなかったの・・・!あのいたずらは・・・!!

貴方に・・・会いたかったから・・・!!会いたかったから、あんなことをしてしまったの・・・!!」

「ティア・・・!」

「でも、事情があって出られなかったから・・・!!!だから・・・あの時ママが本気で悲しんでいるとき、よく分からなかった・・・!!!

―――でも!!今ならはっきり分かる・・・!!きっと、ママだけじゃなくて、おにいちゃんがこわれちゃったから、わたしに、ごめんなさいってしたかったんだって思うの・・・!!

―――代わりにはきっとなれないけど、わたしが、おにいちゃんが好きだって気持ちは変わらない・・・」

「・・・・・」

「だから・・・ごめんなさい・・・・ごめんなさぁぁぁぁぁい・・・・・・」


ティアは泣き崩れた。

オレに抱きついて離れないほど、謝りたいって気持ちが伝わった。

やっと正直になれた、ただ一人の妹に会えたんだから。


「うん・・・オレのほうこそごめんな。今まで、ずっと気付いてやれなくて。」


ティアは首を横に振る。


「ま、仕方ないか。だれにもバラすなって言われてるもんな。けど、もう大丈夫だ。おにいちゃんがそばにいる。

―――ティア。お前は、オレが守る。」


もう二度と、失いたくない。

せめて、ティアだけは守り通してみせる。



「うう・・・(´;ω;`)感動の再会、泣ける・・・!実にいいよこれぇ!!」

「覚吏ちゃん。今はそっとしておいてあげましょ。ワタシ達が入っていいモノじゃないわ。」

「警視正・・・」



「あ~・・・お取込みの途中悪いが・・・

―――お前に、言いたいことがある。」


親父がしゃべりだした。



「―――母さん、生きてるぞ。」


「「「!?!?」」」



激しい衝撃が室内を包み込む。

それは波乱を呼ぶ波乱でもあった。

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