五ページ目・全ての発端
それからユリウスは光太郎が聞いていないのにも関わらず、多くの情報を光太郎に分かり易く説明していた。
内容は多岐に渡り、エウレカ学園のお得な情報や店での値切り方のような庶民的なものや生徒手帳の使い方、訓練所の使用許可を得る方法など一般生徒では一生知りえない情報を事細かに伝えていた。
光太郎は密かに学園一の情報通ではないかと勘繰るが、ユリウスは涼しい顔を崩さない。
「良いのか、こんなに教えてくれて………」
「君達は
力がないなら、少しは知識不足を改善しておくのが一番だ」
そう言ってユリウスは召喚獣に機械を収納させ、彼等を引き連れて教室を出て行った。
残された二人はというと、
「「エウレカグランドフルーツパフェ………!」」
ユリウスの話の中で一番印象に残ったのは皮肉にも、彼が余談として説明したエウレカ学園の至宝とも呼ばれる週に一度の食堂限定メニュー・エウレカグランドフルーツパフェだった。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「「──え、エウレカグランドフルーツパフェ下さい!」」
「エウレカグランドフルーツパフェ?
もう、そこの嬢ちゃんの胃袋の中さ」
「え?」
息を切らして食堂に辿り着いた二人は食堂でエウレカグランドフルーツパフェを注文するも、料理長を名乗るキジトラのミーシャが指差す方向、肉球が指す方向というべきだろう位置には、光太郎にとっては見間違うことのない少女がブラックホールの如くスプーンも使わずに下品にパフェにかぶりついていた。
「なひはよほ?」
「………相変わらずきったねぇな」
顔が生クリーム塗れになっても気にせずに食べ進めるアヴリルに光太郎は溜息を吐き、エリスは苦笑しながら邪魔にならない程度にタオルで丁寧に顔を拭いていく。
数分が経過し、漸くアヴリルの顔が綺麗になった頃にはエウレカグランドフルーツパフェが入っていた器は汚れひとつなく綺麗になっていた。
「ん、ご馳走様。
美味しかったわよ、ミーシャ」
「ウチの飯をマズいとほざくような奴に食わせる飯はねぇからよ。
当然、どのメニューも美味いに決まってらぁ」
アヴリルの賞賛に照れながらも大漁旗を振って閉店時間を告げるベルを足で蹴って鳴らし、食堂で勉強していた生徒達も次々と食堂から去っていった。
ユリウスが言うには、閉店時間を過ぎて食堂に居座るとミーシャの雷が落ちるとか落ちないとか。
「光太郎、エリスさん。
アタシの研究室で話があるわ」
「分かった」
「はい、分かりました」
そんなことを思い出しながらアヴリルの話を聞き、光太郎は迷惑そうに溜息を吐く。
アヴリルは光太郎の態度を不問とし、閉店作業を続けるミーシャを見ているうちに三人の姿は食堂から消えたのだった
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「悪いわね、放課後の時間を使っちゃって」
「お前にも悪びれる気持ちはあったんだな」
「──光太郎。学園内ではアヴリル教授と呼びなさい」
「呼ぶ、呼ぶから
無詠唱で容赦なく特殊魔法を発動させたアヴリルの魔弾を光太郎は間一髪で回避し、溶解した壁を見ながらエリスは恐怖から床にへたり込む。
万一エリスに当たっていた場合、アヴリルが解毒する前に骨すら溶かしていただろう。
「
「
消費魔力は基礎魔術以下でありながら、無詠唱で高火力の毒を撃ちだすの。
でも、毒が切れたら流石にどうしようもないわね」
自分が開発した魔法を嬉しそうに語るアヴリルと聞いていく内に蒼ざめて震え始めるエリス。
蚊帳の外となった光太郎はエリスの頭を撫でながらアヴリルの説明を静かに聞いていた。
「ま、アタシの魔法の話はこれくらいに。
用件っていうのは、偽物のアルカナナンバー12・
「偽物の
よく分からない、と苦虫を噛み潰したような顔でアヴリルを睨む光太郎にアヴリルは溜息を吐いて資料を突きつけた。
「読んでみなさい」
アヴリルの有無を言わせぬ口調に光太郎は仕方なく資料を捲り、読み終えたと同時に苛立たしげに机を強く叩く。
「そいつは……、捕まったのか?」
「いいえ、姿すらも捉えられていないのよ。
こうしてる今も、そいつは偽物のアルカナナンバーを売り付けているでしょうね」
「………」
「
「──他人の命を蔑ろにしたとしても、生徒達がその力を使い続けることに躊躇いなんてないわ」
珍しくアヴリルは悔しそうに小さく拳を震わせ、やり場のない怒りを机に叩きつける。
「命令よ。
偽物の
相手が抵抗してきた場合、殺してでも回収を」
これが、如月光太郎がアルカナナンバーを巡る大きな運命に呑み込まれる発端となった日の出来事であった。
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