七ページ目・愚者《The Fool》の継承

あれから数時間が経過し、アヴリルは資料を貼り付けたホワイトボードを指し棒で叩きながら説明を始める。


「──で、本題に入るけど。

光太郎、ユリウス、エリスの三人で偽物の吊るThe されたHanged Manの売人と使用した生徒の確保、未使用の吊るThe されたHanged Manの回収をして欲しいの」


「それは分かったが………」


ユリウスは光太郎を見やり、


「彼は役に立つのか?

エリスはアルカナナンバーを所持しているからまだ理解出来るが、魔力を持たない彼に何が出来る?」


「──役立たず、って言いたいのかよ」


「それは丁寧な表現だね。

私なら、無様に早く死ねとしか言えないさ」


──刹那、肌を刺すような殺気が部屋中に充満し、アヴリルのひと睨みでその殺気は一分も経たずに消える。

一切引く気のなかったユリウスがすぐに引いたことから、エウレカ学園の教授というものはかなりの立場ということを光太郎は改めて知った。


「冗談だ、本気にするな。

ノーリスクではないが、君に使える武器があると言っただろう?」


「それって、アルカナナンバー0……」


「そう、愚者The Foolだけだ。

あれは魔力が少なければ少ないほど力を発揮する以上、光太郎ぐらいに魔力が少なければ間違いなく真価を発揮するだろうさ」


これはあくまでも推測だが、と付け加えながらユリウスは念入りにシャッフルした大アルカナを机の上に置き、光太郎は大アルカナに触れると迷わずに22枚ある中から逆位置の愚者The Foolを引き抜く。


「──俺は、躊躇わない」


「光太郎君は、本当にそれで……」


小さな手で光太郎の袖を掴むエリスの不安を吹き飛ばそうと笑みを浮かべ、黒地に金文字でKotaro・Kisaragiと記名された愚者The Foolのカードを手にして頷いた。


「ああ。俺は、人類の幸せの為に生きる男だ」


そんな光太郎を見て、ユリウスは誰にも聞こえないくらいの音量で呟く。


「──なるほど、愚者The Foolが選ぶのも納得がいく」


「ユリウス?」


「いや、何でもない。

それよりも、カードに記名された時点でキサラギは正式に愚者The Foolの継承者として認定された。

今なら、他の大アルカナの所持者の現在地が分かるだろう?」


「………?

いや、全く分からん」


得意げに尋ねるユリウスに光太郎は首を横に振って応え、ユリウスの表情は怪訝なものへと変わる。


愚者The Foolはそういった機能がないのか、それとも逆位置だと探知できないのか………」


「よく分からねぇけど、エリスの奴を使えば良いんじゃないか?」


馬鹿じゃないのか、と言わんばかりに煽る光太郎にユリウスは笑みを浮かべる。


「今回のようなパターンなら良いが、単独任務となればそうもいかないのでね。

特級武装アルティマ・ウェポンの不具合なら原因の調査に専念したい」


ユリウスの怒りを察した召喚獣達は慌てて機械を小さな箱から取り出し、肉球を駆使して丁寧に組み立てていく。

ユリウス曰く、作業スピードは人間よりも早く、精度も断然召喚獣の方が高いらしい。


「よし、準備は整った。

まずは、エリスとキサラギは私が作成したリストを元に生徒達を探してきてくれ。

私は愚者The Foolの調整を行う」


「分かった……、けどさ。

愚者The Foolのカードは俺が持っていて良いのか?」


素朴な質問をする光太郎に呆れながらユリウスは追い払うように手で扇ぐように振って、


「ああ、遠距離からの調整でも支障はない。

それよりも、生徒達を探し出す方が先決だよ」


「分かった。エリス、手伝ってくれ」


「は、はい!」


機械から目を逸らさずに光太郎に答え、目にも留まらぬ速さでキーボードにコードを入力するとディスプレイが拡張し、膨大な量のデータが反映されてことを示す完了の文字が表示される。

それを見たユリウスは作業を中断し、澄み切った青空に大アルカナをばら撒くように放り投げた。


「──大アルカナはこれで揃った。

さて、どうなるかな?」


勢いよくエウレカ学園に向かって飛び出した二人に、僅かな期待を込めて。

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