八ページ目・捜索開始
「……急いできたのは良いんだが、人が多はるかくねぇか?」
「多分、履修登録があるからですね。
一週間の猶予がありますが、入学前にカリキュラムを組んでいる方が多いので………」
エリスが指差す方向には、教務課と書かれた一室から玄関まで続く長い列が出来上がっていた。
因みに、光太郎とエリスは
「居ない可能性は低いけど、探すのも面倒だな」
ユリウスから渡されたリストには三人の男女の名前と顔写真が載っており、学園内に居るかさえも分からない状況では捜索は困難を極めていた。
「ま、探してれば見つかるだろ……」
「そうです……、あれ?」
エリスの視線の先にいた教務課に並ぶ列の近くで不審な動きをする男は何を思ったのか、光太郎を見て慌てて逃げるように階段を駆け上がっていった。
「おい、待てって!」
「彼はリスト外ですよ!?」
エリスから見ても確かに男は怪しいが、男を野放しにすることよりもリストに載っている人物をそのままにしては間違いなく被害が拡大する。
直感で突っ走ろうとした光太郎の手をエリスが引っ張るも、
「いや、リストは役にたたねぇ。
あいつを止めるぞ!」
「ひゃわ!?
待って下さい、光太郎君……!」
お姫様抱っこのように光太郎がエリスを抱き上げ、エリスの強化魔術を受けて男と付かず離れずの距離を保って追いかける。
これは光太郎の趣味ではなく、魔術を使ったエリスの速力や魔術を歩きながら使えないという点を踏まえてのことだ。
『──キサラギ。リストが役立たずとは言ってくれるねぇ』
「あっ、待てよ!?」
男を追い掛ける最中に突然脳に直接ユリウスの声が聞こえ、驚きのあまり男を見失ってしまう。
(こんなタイミングで話しかけてくんなよ……)
ユリウスに対して内心で舌打ちすると表情を強張らせながら誤魔化すように答えた。
「あ、いや、これは言葉の綾っていうか」
『50点。君は新たな犠牲者を見つけたが、そのリストにいる人物を確認もせずに捜査を中止した』
「……ロボットかよ」
『0点。次言ってみろ、灰すら残さない』
皮肉を小さく呟いたつもりが、ユリウスは激怒寸前といった声で最後通牒と口にした。
何があったのかは気掛かりだが、今の光太郎には原因を問う余裕はない。
「分かった、次は言わないようにする」
『それで良い。それと、現時点における君等の捜索能力を判断してこれを送っておく』
ユリウスが溜息を吐いた直後、突如光太郎の前に現れたユリウスの召喚獣達が巧みな体捌きを活かしてエリスの手に二つのカードデッキを投げ渡す。
「……これは?」
『探したい人物の現在地を確認出来る携行型マップ兼
アルカナナンバーと同じサイズのカードも収納出来る、自由に使いたまえ』
「50枚も入るんですね………!」
エリスの称賛に苦笑し、ユリウスの傍に待機していた人懐っこく擦り寄ってくる召喚獣の顎を優しく撫でる。
『拡張パーツを使えばもっと入るが……、今はアルカナナンバーを使用時以外はそこに仕舞ってくれ。
特にキサラギにとって、いずれ必ず必要になる』
「俺が………?」
ユリウスは光太郎の問いかけに答えず、受話器が置かれたような音が響いてユリウスの声は一切聞こえなくなった。
「……切りやがった」
「こ、これで探し易くなった訳だし、ね!?」
今すぐにでも八つ当たりしかねない状態の光太郎をエリスが落ち着かせようと頭を撫でようとしたが、光太郎とエリスの身長差ではエリスが兎のように跳ねるだけで手が光太郎の頭に届くことはなかった。
傍目には滑稽なものに見えるかもしれないとしても、怒りで頭に血が上っていた光太郎には有難い。
「ま、それもそうだな。とっとと見つけに行こうぜ」
その結果、光太郎の頭は冷えたのかエリスの頭を撫でながら普段の笑みを取り戻していた。
「ぼ、僕はもう………!
嫌なんだぁああ…!」
──突如、二人の微笑ましい光景をぶち壊すような叫びが学園中を伝播し、それと同時に男子生徒が天高く放り投げたカードが霧散して男子生徒を漆黒の光が包み込む。
「あいつ………!
確かリストに載ってた奴!」
顔を覚えていた光太郎はエリスを降ろすと電光石火の如く男子生徒に向かって駆け出し、漆黒の光に阻まれるように吹き飛ばされる。
そして、光が消えた頃には男子生徒の影もなく、首を縄で吊られた屍人へと変貌した。
「なんでそんな姿になったのかは知らねぇけどよ。
おい、 俺とタイマンしやがれ……!!」
「待って!
アルカナナンバーの力、私がレクチャーするから」
エリスはやる気満々な光太郎を呼び止め、カードデッキから取り出したアルカナナンバー2・女教皇を天高く放り投げると男子生徒のように光に包まれる。
同じ動作で同じアルカナナンバーだが、男子生徒は漆黒の光に対し、エリスは眩いばかりの白い光だった。
『
エリスを危険人物と認識したのだろう、屍人は先程突撃した光太郎を無視して一直線に腐臭の酷い紫色の弾丸をエリスに発射する。
「エリス………ッ!?」
──間に合わない。
全力を尽くしても、まだ足りない。
紫色の弾丸は減速することなくエリスへ飛んでいき………、
『
選定されし星の担い手と成りて、邪悪なる者への鉄槌を!』
詠唱が完了したと同時にアルカナナンバー2・The High Priestessが無数に複製され、弾丸がエリスに触れることを防ぐ。
「まさか、自動で………」
「みたい、ですね………?」
エリスの反応から特にエリスが意識して防御したのではなく、光太郎は
──そんな武器が、俺の手に。
思わず光太郎は自身のカードデッキに手を伸ばし、逆位置を向き続ける
あのような力があれば、何とかなるかもしれない。
だが、弾丸を防いだThe High Priestessは容赦なく光太郎とエリスの希望を打ち砕くように告げた。
『──
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます