四ページ目・選抜特待生
「入学式は終わったけど、漸く新しい仲間に会える……!」
「ま、待って、光太郎君………!」
光太郎達はエウレカ学園に続く階段を勢いよく駆け上がり、
個性豊かなクラスメイトが沢山いる、入学時の一つの楽しみと考えていた光太郎は満面の笑みで教室内を見渡すが………、
「お前以外、居ない?」
「ああ、私以外は欠席だとも。いや、彼女は来ているから私と彼女だけだね」
青を基調としたブレザーを生真面目に整えた男はエリスを指差し、仕方ないと曖昧な笑みを浮かべてパソコンと思わしき電子機器のキーボードに指を踊らせる。
形状はかなりパソコンに近いものだが、付属している部品は魔力で精製された動物がケーブルと接続していた。
「この動物……、何?」
「召喚獣、という名前の使い魔だよ。ランクはSからFまで存在するが、人間が使役出来るのはC。契約を結ぶ場合はその限りではないのさ」
「なるほどな………、こいつらは?」
「彼等は全員Aランクだ。そうでないと
「
聞けば聞くほど自分の知らない単語が頻出し、光太郎はふらふらしながら近くにあった机に腰掛ける。
「ま、君があまり知らなくても仕方あるまい。こんなのは使える人間が少ないからさ」
男はそう言って作業を中断し、ブレザーのポケットに仕舞っておいた学生証を光太郎に投げ渡す。
変わった風習としてエウレカ学園では学生証を見せ合うのが流儀、ということで光太郎とエリスはそれに倣って彼に学生証を見せて互いのクラスを確認していた。
だが、光太郎とエリスには記載されている氏名の欄には名前ではなく、二人が知らない文字が刻まれていることに気付く。
「あれ、名前が……」
「私はユリウス・フラングメル。
男は勢いよく立ち上がり、光太郎の疑問に答えることなく自分の名を告げた。
あたかも、解いてみろと言わんばかりの笑みを添えて。
* * * * * * * * * * * * * * * * * * *
「頼む、魔力のない俺に使えそうな武器を売ってる店を教えてくれ!」
三人が自己紹介を済ませてすぐ、光太郎はユリウスの両肩を掴み、勢いよく頭を下げる。
武器開発や魔術の開発などに携わっている彼ほどの適任者はそうそういないだろう。
しかも、
「ほう………、実に面白い。しかも、私に作って欲しいという訳ではなく、店を教えろときた」
笑いを堪え切れないのか、自己紹介からずっと回していたペンを軽く握り潰すと光太郎に向き合い、
「良いだろう、君専用の
「本当か!?」
「──ただ、アルカナカードは余り物を使わせて貰う
本来なら22人居たんだが、欠員が出てしまってね」
ユリウスは悲しそうに虚空を見つめ、大アルカナを丁寧にシャッフルしてから光太郎に一枚のアルカナを見せつけた。
「それは……」
「アルカナナンバー0、
常に逆位置を指す愚者を使用する際に何らかの代償を強いる反面、代償を支払うことで正位置になった愚者は使用者に無類の力を与えるらしい」
「代償、か………」
「代償は一定ではなくてね。
何を犠牲にするかは使用してみないと分からない」
光太郎が愚者のカードから目を離すとユリウスは愚者のカードをデッキに入れ、何度かシャッフルしてから机の上に置く。
シャッフルはやってもやらなくても良いのだが、ユリウス曰く偶に魔力が偏るから暇潰しを兼ねてやっているらしい。
「それでも、かなり強いんだろ」
「光太郎君………!」
エリスは静止するように小さな手で光太郎の手を掴み、ユリウスを強く睨みつける。
君は子犬か、というツッコミをグッと堪え、ユリウスは嬉しそうに深く頷いた。
「ああ、
ゼネフィア王国で唯一、アウゼール帝国のキマイラを殺せる可能性を秘めている」
「キマ、イラ………?」
「………それを知らないのは余程だな。
まぁ良い、私は解説を嫌ってはいないからね」
申し訳なさそうにした光太郎を見て苦笑し、バルパンとユリウスが呼んだパソコンのようなもので彼なりに分かり易く纏めたデータを示す。
インターネットとは違うものとは思うが、光太郎から見れば3Ⅾを生かしたプレゼンテーション用ソフトにしか見えなかった。
「キマイラ、というのはアウゼール帝国の切り札のことを指す。
奴はかなり面倒な敵で、物理、魔力、召喚獣といったあらゆる攻撃が通用しないのが特徴とされる。
しかも規模が大きく、豊作を帝国中に引き起こす法術の原料は人肉ときた」
「じゃあ、キマイラは………」
光太郎の不安を否定せず、ユリウスは大アルカナから死神のカードを見せて静かに笑った。
「──そう。帝国の豊穣神であり、王国の災厄だ」
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