三ページ目・出会いは必然的に
「ここが
どうせだからと光太郎はエウレカ学園の入学式に出席しようと考え、普段は歩かない通学路をゆっくりと見て回っていた。
アヴリルによれば、エウレカ学園の通学路は大手企業の本社が集うことから、
エウレカ学園に入学し、卒業後は重役ポスト入りは確実。
それどころか、一生遊んで暮らしていけるような富を卒業時に貰えるらしい。
ただ、そんなエウレカ学園の生徒にもランク分けがあり、最上級のキングス・上級のクイーン・中級のミドル・下級のセルウス・最下級のワーストの五つに分類される。
「色々取り扱っていることは知ってたけど、結構意外だな」
実際に此処を通ったことは一度もなく、アヴリルから話だけ聞かされた時には大したことないだろうと思っていたが、
「──ダメだ、東京が田舎に見えてくる」
あの規模では自分の住んでいた都市など矮小に見えて仕方ない。
建物はその規模だけで人をこれほど圧倒させるのかと感じたのは日本中で話題となっていた電波塔を生で見た時以来だろう。
高い場所が好きな光太郎にとって、無数に建立されている高層ビル群は否応なしに気分が昂ってしまうものだ。
「──あの」
「ん、俺に用か?」
不意に蚊の鳴くような声が頭の中に響くと光太郎は人々の喧騒の中から声の主を探そうとするが、それらしき人物は光太郎の視界には見当たらない。
単なる思い過ごしだと判断して一歩踏み出そうとした瞬間、
「あにょ!?」
「おわぁ……!?」
脹脛の辺りに触れた柔らかい感触が光太郎の行動を邪魔しにきた。
──この感触は間違いなく、そう。
「おっぱ──」
「いやぁあああああ!」
見知らぬ少女の悲鳴に振りかえる人、警備に大声で助けを求める人、野次馬根性で見守る人。
それぞれの対応は違ったが、光太郎にとってはどれも悪夢としか言えなかった。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
──少女が悲鳴を上げてから数時間後。
「割と本気で死ぬとこだったな……」
警備との殺伐とした鬼ごっこから何とか逃れ、体力には自信のある光太郎でも魔術を使用した警備との鬼ごっこでは体力が持たないことを痛感する。
この世界では、魔力の優劣こそが全て。
アヴリルが毎日口煩く言っていたことを漸く理解できたような気がした。
「す、凄いですね………」
光太郎の腕に抱かれたままエリスは破壊された
得体の知れない男ではあるが食事に使用する大きさの箸のみでありながら、無数の
「否、拙僧のように己を鍛えれば自然と体がつく。
後は心の境地に至るべし」
「心の境地、って言われてもなぁ……」
必死に光太郎なりに男の言葉を理解しようにも、男の声が小さくて言葉を聞き取るだけでも一苦労だった。
普段なら臆さずに文句の一つでも垂れるところだが、流石に恩人の神経を逆撫でてまで言うことはできない。
「魔術を持たぬ身であれ程の実力となれば、拙僧も感嘆せざるを得まいよ。
拙僧は魔力あっての心技体。
貴殿は魔術を持たずして、その基礎を為し得ている」
詳しく語らずとも分かると言わんばかりに口を閉ざすと、偶然なのかエウレカ学園の始業のベルが鳴り響く。
光太郎達は逃げることに夢中で気付いていなかったが、入学式はとっくに終了していた。
「に、入学式ぃいいい……!」
澄み切った青空に向けて叫ぶ光太郎とそれを見て苦笑する僧侶と少女。
今日はとても、とても長い一日になるのではと光太郎は力なく項垂れてしまうのだった。
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