第20話 ミランダの『大丈夫』はあてにならない
……どうしてこうなった。
私は右側に座っているミランダを上目遣いにチラッと見た。
現在、私の正面にはシャルル様が座っている。
ミランダは有言実行とばかりに、きっちりとシャルル様との食事会をセッティングしてくれたのだ。
バン侯爵家なうである。
口約束だけでも良かったのに……!!
私が恨みがましい視線をミランダに向けているというのに、当の本人は『大丈夫!』とでも言う様に私に片目を瞑って見せる。
……違う。そういう事じゃない!
今すぐに席を立ってミランダを連れて逃げ出したいが……この空間にいるのは私達三人だけではない。
まず、私の右隣にミランダがいる。ミランダとは逆の……私の左側にはミレーヌもいる。真っ正面にシャルル様がいるのはおいといて……。
ミレーヌの正面にカージナス様。ミランダの正面に知らない男性が座っているのだ。私達は三対三で向かい合って座っている状態である。
カージナス様の事は、この際どうだって良いだろう。
だってミレーヌがいるのだ。付いて来ても不思議はない。
……問題はミランダの正面に座るこの男性だ。
既視感があるが……誰だっけ?
焦げ茶色の瞳に、短く切り揃えられたブルネットの髪。
こちらを興味深そうに見つめるその瞳は、まるで私の右隣に座るミランダに似ていて…………って、まさか?
「ミレーヌ様は知っていらっしゃるかと思いますが、ローズは初めてよね?私の兄のラドクリフですわ」
ミランダは正面の男性に右手を向けながらニッコリ微笑んだ。
……やっぱり。好奇心いっぱいの瞳はバン家の血筋なのだろうか。
「初めまして、ラドクリフ様。私はローズ・ステファニーと申します。よろしくお願い致します」
既にテーブルに着いている為、軽く頭を下げて略式の挨拶に留める。
「うん。噂に違わず綺麗なお姫様だね。よろしく。僕はラドクリフ・バン。バン家の長男だ」
ニッと白い歯を覗かせながら爽やかに笑う青年ラドクリフ。
……胡散臭い。
私は直感的にそう思った。ラドクリフはカージナス様と似た様な匂いがするのだ。
「カージナス様はラドクリフ・バン様とは仲がよろしいのですか?」
「唐突だな。まあ、だがそうだな。仲は悪くないと思うよ」
「そうだね。悪くはない。ああ、僕の事は『ラドクリフ』で良いよ。ローズ姫?」
……胡散臭さが増した。『姫』って……。
それに、『仲が良い』で良いじゃないか。どうして『仲は悪くない』とわざわざ言い換えるのだ。意味が分からない。
だが……ここには深入りしない様にした方が良いだろう。
それよりも……。
私は、チラッと上目遣いにシャルル様を盗み見た。
……!?
驚きすぎて心臓が止まるかと思った。……シャルル様が私を見ていたのだ。
私の視線に気付いたシャルル様は、スッと瞳を細めて微笑んだ。
……!!
……また心臓が止まるかと思った。
前回、告白したくせに、そのままシャルル様の前から逃げ出した私には、もう微笑んでもらう資格がないと思っていた。なのに、あんなにも優しい表情をしてくれるなんて……。
嬉しくて少しだけ、瞳が潤んでしまった。
このままの流れで、シャルルに話し掛けようとしたが……
「カージナス殿下、オルフォード様。今回は、バン家の主宰の食事会にご参加頂きまして誠にありがとうございます」
ミレーヌと兄のラドクリフの話が始まってしまった。
シュンと眉を下げると、シャルル様の笑みが深まった気がした。
……シャルル様?
首を傾げながらシャルル様を見たが、シャルル様はもう私を見てはいなかった。
……私の気のせい?
「今日は残念ながら三番目の婚約者候補であるアイリス・マスール侯爵令嬢は欠席ですが、ここにいらっしゃった皆様で親睦を深められたら……と思います」
ミランダの兄のラドクリフがそう言った。
……アイリス様も誘ったんだ?
チラッとミランダを横目に見ると、ミランダは小さく頷いた。
確かに……アイリス様を誘わないのは逆に不自然だろう。
来る来ないは別としても、誘う意味は充分にある。
現にここには四人の婚約者候補の内の三人が揃っているのだから。
「あら。アイリス様はご都合が悪かったのね」
「その様ですわ。『出席出来ずに申し訳ありません』と伝言を承っております」
「……残念ね」
「ええ。本当に」
ミレーヌとミランダは言った。
……本当はアイリス様とも話してみたいんだよね。
私とミランダはカージナス殿下と婚約したいとは思っていない。
でも、アイリス様は違うとミランダは言っていた。
カージナス様に恋愛感情は持っていないそうだが……その本心をズバリ聞いてみたいのだ。
……好奇心とも言う。
この国の時期トップと結婚出来るなら、感情は二の次という令嬢もいるだろうが……。
私はミレーヌの友達なので、アイリス様が仮に『心からカージナス様の事が好き』だと言われても応援は出来ないと思う……。
「では、皆様。グラスを持って下さい」
考え事をしていた私は、今までの流れをきちんと聞いていなかった。
その為に、ミランダとミレーヌに促されるままにグラスを掲げ…………。
「では、今宵の良き日に……」
ラドクリフの乾杯の音頭に合わせ、皆とグラスをぶつけ合い……。
そのまま何も考えずに、グラスに入っていたシャンパーニュを一気に飲み干してしまった。
……自分でも馬鹿だと思う。
ミランダとラドクリフの策略にこうも簡単に乗せられてしまうだなんて………。
私って本当に学習能力が無いんだから……!
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