第3話 ここはどこ?私は…………
エルザだけでなく、この世界の誰にも話してない私の秘密。
前世の記憶を思い出したのは、デビュタントの翌日の朝のことだった。
*********
「何これ……、二日酔い?……気持ち悪っ……!」
ズキズキと痛む頭を片手で押さえながら、もう片方の手をベッドに付いて起き上がろうとするものの、力が入らず上手く起き上がれなかった。
……うえ、まだお酒が残ってるのかな。
起き上がることを一旦諦めて、寝転がった状態のまま天井をボーッと眺めていた私は、段々と意識がはっきりしてくるにつれて違和感を覚え始めた。
私の部屋の天井って、……こんな柄……だったっけ?
室内灯は、こんな――――――って、違う!
私の部屋にシャンデリアなんて、あるわけがない。
二日酔いなのも忘れて、勢い良く飛び起きた私は、視界が真っ白になるほどの激しい痛みに耐え兼ねて、思わずギュッと瞳を閉じた。
そうして痛みをどうにかやり過ごしてから、そっと瞳を開ける。
……ここはどこなの……?
見回した室内には、見るからに高そうだと分かる調度品の数々が
口をあんぐりと開けた私は、何気なく視線を下げて、そのまま固まった。
この服……何!?
透けそうな位に薄くて、ヒラヒラした……ネグリジェ?
……え?……こ、怖っ!怖っ!!
こんなの私の趣味じゃない。
私は前ボタンの布パジャマ派ではなく、Тシャツに短パンや長ズボンといった、外にも出掛けられそうな実用的なホームウエア派だ。……って、それは今は関係ないか。
もう、意味が分からない!!
「うぎゃっ……!」
急いで立ち上がろうとした私は、着慣れないネグリジェの裾を踏み付け、ベッドの上に転がった。
我ながら、実に可愛げのない悲鳴である。
……馬鹿だ。私……もの凄く馬鹿だ。
仰向けの状態のまま、羞恥心で真っ赤に染まった顔を両手で覆う。
室内には私一人で、誰に見られたわけでもないのに、とてつもなく恥ずかしい。
今なら恥ずか死ねる気がする。
……それにしても。
全くさっぱり状況が分からない。
昨日の私は、どこで誰と飲んでた……?
酷い二日酔いもだけど、記憶がなくなるまで飲んだのは、二十歳になった私の誕生日以来の久し振りのことだった。
お酒好きの両親に『自分の適正酒量は知っておくべきだ』と言われ、次から次へと色んな種類のお酒を飲まされ――私は見事に潰された。
そのおかげと言うべきか、そのせいでと言うべきか、こんなことは今までなかったはずなのに……。
室内を見る限り、セレブにでもお持ち帰りされた?
それとも誘拐?……いや、まさかね。
私なんかを誘拐するメリットなんてどこにもない。
顔を覆っていた両手を退けると、いつの間にか指に白銀色の絹糸のような物がまとわり付いていた。
何これ、…………絹糸?
光に透かすと、キラキラしていてとても綺麗だった。
ふと魔が差した私は、白銀色の糸をえいっと思い切り引っ張ってみた。
「痛っ!」
その瞬間に、頭皮からブチブチという髪の毛の抜けた音と共に猛烈な痛みが走った。
は?! 何?!
これが私の髪の毛だとでもいうの!?
自慢でもなんでもないが、私の髪は生まれた時からずーっと焦げ茶色だ。
こんなに綺麗な白銀色ではない。
……何?何?何?! 怖いんですけど!?
ストレスとかで一晩で変わっちゃった……とか?
全身からサーッと血の気が引き、パニックになりかけたところで、コンコンと誰かが部屋の扉をノックした。
……誰!?
咄嗟に身体が硬直し、即座に警戒態勢になるものの……
「お嬢様。入りますよ」
開いた扉の外から現れたのは、紺色の無地のロングのお仕着せの上に、控え目なフリルの付いた白いエプロンを身に付けた綺麗なメイドさんだった。
アハハハ……コレハ、夢ダ。
キット、私ハ夢ヲ見テイルノダ。
「もしかして、まだ寝惚けていらっしゃるのですか?」
クスクスと笑いながら、私をベッドから起こした綺麗なメイドさんは、私の手を優しく引いて、大きな鏡の付いたドレッサーの前の置かれた背もたれ付きの椅子へと座らせた。
……え?
鏡の中には、目が眩むほどの可憐な美少女が座っていた。
白銀色のさらりとした長い髪。アメジスト色の綺麗な瞳は大きくて、長い睫毛はツケマ要らずだ。鼻は高く、小さな唇はぷるぷる。
おまけに肌は透けるように白くて、手足はほっそりと長い。胸元は少々控えめだが……それを差し置いても顔が良い。とにかく顔が良い。
私好みの美少女が鏡の中にいた。
……って。
ちょ、ちょ、ちょっと待って……!?
この美少女、見覚えしかないよ!?
鏡の中の美少女にうっとりと見惚れかけてハッとした。
しかも………………まさか。
驚愕しながら、ペタペタと自らの顔を触り続ける美少女。
背後に映るメイドさんが、突然始まった美少女の奇行にキョトンとしているが……それどころではない。
今一番重要なことは、私の考えている通りに、鏡の中の美少女が行動していることだ。
美少女による意味不明な奇行を本気で心配しだしたメイドさんが、額に手を当てて体温を確認していることは割愛する。
私はこの美少女をとてもよく知っていた。
「『ローズ・ステファニー』……」
ゴクリと唾を飲み込んで、その名前を口にした瞬間――――私は唐突に全てを思い出し、そして唐突に全てを理解したのだった。
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