第7話 裏表(2)

高宮が勢いよくドアを開けると、まさに目の前に斯波が立っていたので驚いた。



「・・高宮、」



彼も驚いたように斯波を見た。



「隆ちゃんってば!」


夏希が追いかけてくる。



高宮は斯波に何も言わずに、無視をするようにずんずんと一人エレベーターのボタンを押して行ってしまった。



夏希はエレベーターの前からもう


彼を追えずに、立ちすくんでしまった。



ただならぬ雰囲気に斯波も声をかけられない。



そのうち


夏希はそのままシクシクと泣き出してしまった。





どーしよ・・


今日は萌もまだ帰ってないし。




女性に泣かれるのが


非常に苦手な斯波はこの場をどう取り繕っていいのか


わからなかった。




そのままとぼとぼと斯波の存在さえも見えていないように自分の部屋に戻ろうとする夏希の背中を見て


たまらなくなり、



「あ・・これ、」



斯波は紙袋を差し出して声をかけた。


「え・・」


夏希は子供のように泣いたまま顔を上げた。



「あ・・昨日。 横浜に仕事に行って・・ここの中華まん、うまいって言ってたから。 萌がおまえに渡すの忘れたから持って行ってって・・今、電話があって・・」


しどろもどろになって言って、



「おまえ、肉まん好きだろ?」



と彼女に押し付けるように渡した。



「肉まん・・」


夏希はそうつぶやいた後、また堰を切ったように泣き出してしまった。



「肉まんつって・・泣くなよ・・」


斯波は困ってしまった。



「・・ケンカ、でもしたのか?」


思わず訊いてしまった。



夏希はうつむいたまま首をぶんぶんと振った。



肉まんの袋を抱きしめたまま、泣きじゃくる夏希を見ているだけで


胸が痛くなってくる。




こんな


泣かせやがって!




だんだんと高宮に対して腹立たしくなってきた。



「と、とにかく。 それ食って元気だせ。 な?」


もうそれしか言えなかった。





「ごめんなさい。 遅くなってしまって。」


志藤と接待の席があり、帰るのが遅くなった萌香はそう言いながら帰って来た。


斯波は何も言わずに、窓の外を見ながら椅子に腰掛けてタバコを吸っている。



「・・清四郎さん?」


萌香はその雰囲気に彼の異変を感じ、回り込んで彼の表情を伺う。



・・めっちゃ


怖い顔・・・



いつも怖い顔だが


いっそう怖い顔で、どこを見ているのかわからないような目でぼーっとタバコを吸っている。




何か


あったのかしら



とっても直接訊けない雰囲気であった。





「じゃあ、後は詳しいことをメールで送っておきますから。」


高宮は今日も忙しそうに仕事をしていた。


電話を置いた後、何だか殺気を感じてふと振り返る。



仁王様のような顔で


斯波が立っていた。



「ひっ・・」



その顔が


ものすごく怖くて、怖くて。


高宮はおののいてしまった。



「ちょっと、」



ドスの利いた声で言われて。


恐怖で声も出なかった。


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