第20話 転ずる(5)

「あ、どーも・・」


夏希が倒れたことを知った斯波と萌香は自分たちの部屋に戻る前に、夏希の部屋に寄ってみた。



すると


エプロン姿の高宮が出てきて、二人は少し驚いた。


「彼女、超爆睡中ですけど。 どーぞ、」


部屋の主のように上げてくれた。


二人は


「おじゃまします・・」


ボソっと言って夏希の部屋に上がった。



そっと寝室を覗くと、本当に夏希は大の字になって軽くイビキをかいて寝ていた。




「やっぱり寝不足で貧血を起こしたようです。 2日くらい休んでれば良くなるって、病院で。」


高宮は洗い物をしながら言った。


「たいしたことなくて良かったわ。 倒れたって言うからどうしたのかって、」


萌香はドアを閉めながら言う。



「それにしても。 ここに戻ってきたら部屋が大変なことになってて、」



高宮はそうこぼした。


「え?」


「シンクには汚れた食器が放置されてるし、冷蔵庫には腐ったもんが入ってるし、洗濯機には洗濯物が入れっぱなしだし。 部屋も散らかってて、今片付け終わったトコで・・」


「しょうがねえなあ・・」


斯波はため息をついた。



「・・おれのところは、ほんっとカンペキにしててくれたのに。 どーしようもないなァって。 だけど、これが彼女の本当の姿だって、」


高宮は手を拭きながらクスっと笑う。



「かなり無理してたって・・この部屋を見た時、そう思って。 だから、一緒に棲むのはしばらくやめておきます。」



スッキリとした顔でそう言った。



「高宮、」



「ホントはね。 もっともっと自由に彼女に会えたらなって思っただけで。 なんかここ来ると・・斯波さんに監視されてるみたいで、」



「って! おれのせいかよ!」


斯波はちょっとムッとした。


「栗栖さんの言うとおり。 まだそういう段階じゃなかったのに。 何だか知らないけど一転して彼女が一緒に暮らすって意気込んで来て。ホントその通りだなって思ってしまって。 彼女はおれの世話を焼くよりも、まだまだ自分の世話を焼かないと。」


高宮はおかしそうに笑う。


萌香もつられて笑ってしまった。



「・・萌は、なんで1週間しかもたないってわかったの、」


斯波は疑問を口にした。



「え? うーん。 加瀬さん、すっごく楽しそうでしたけど。 まだまだ『奥さんごっこ』って感じかなって。」


「『奥さんごっこ』?」


「ええ。 そうやって高宮さんの世話を焼いている自分が楽しいって感じだったし。 まあ、倒れるのは予測できなかったけど。 そうやって無理してる自分に気づくんじゃないかって・・」



男二人は彼女の読みの深さに大いに感心してしまった。


「でもね。 そーゆーバカなトコが・・かわいいんですよね。」


高宮はふふっと笑った。


「・・恥ずかしげもなく・・」


斯波はちょっと呆れた。



「楽しいこといっぱいの彼女でいいって。 おれも思いますから。 あの子をひとりじめすることなんか、きっと一生できそうもないかなあ、」


寂しそうに言う彼が


斯波は少しだけ気の毒に思えたりもした。






「おっはよーございま~~す!」


2日後。


夏希はいつもの彼女に戻って、張り切って会社にやって来た。


「おはよう。 もう大丈夫?」


萌香が歩み寄る。


「はいっ、フル充電してきましたからっ、」


いつものひまわりのような笑顔が戻ってきた。


「そう、」


「隆ちゃんにめっちゃ世話されちゃって。 情けないですけど、」


と頭をかいた。


「いいんじゃない? 彼もそうしたかったみたいだし。 しょうがないなあって言いながら・・あなたの散らかった部屋を片付けるのも楽しそうだったわよ。」


萌香は微笑んだ。



「ほんっと・・隆ちゃんって気の毒ですよね、」


他人事のように言う彼女がまたおかしくて。


萌香は笑いが止まらなかった。



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My sweet home~恋のカタチ。5 --aquamarine-- 森野日菜 @Hina-green

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