第9話 裏表(4)

「え・・高宮が、加瀬と?」


斯波は萌香から話を聞いてようやく、わからなかった部分が繋がった。


一方、萌香も


「でも。 まさか・・そんなことになってるなんて。 こじれてしまったのかしら、」


その後のいきさつを聞いてため息をついた。



『彼女がおれと暮らすことを選ばないのは、あなたが側にいるからだ!』




あの高宮の言葉が


ものすごく


ものすごく


気になる。



「おれって・・そんなに保護者面してる?」


思わず萌香に訊いてしまった。


「最近は別に。あいつらのことはなんも言わずに見守ってるけど、」


「まあ。 相変わらず高宮さんには無言の圧力みたいなの加えてるって感じやけど、」


萌香は少し笑った。



「無言の圧力って、」


「二人がつきあってること。 あんまりおもしろくない、みたいな。」


「そんなこと。」



確かに


あいつらがつきあうまでは


いろいろあって。



高宮なんかに加瀬がつきあえるわけないって


ずっと思っていた。


きっと傷つくのは加瀬の方だって思ってたし。



今はうまくいってるみたいだけど


『そのとき』


が来るのが少し怖かった気もする。




高宮は


間違いなく加瀬との結婚を考えている。


加瀬なんか


ほんっと子供だから


結婚なんて意味だってわかってなくて。


まあ、


25だし


いい加減わかれよって年だけど。


高宮のように


ややこしい家族がいる家に


加瀬なんかが入って


勤まるわけがない。



『そのとき』



が来たら


自分は絶対に反対するって


いつのころから思っていた。



確かに肉親でもない自分がそこまで二人のことに口出しすることは


やりすぎかもしれない。



だけど



斯波は夏希が事業部にやってきてからのことを思い出す。



「あなたが加瀬さんのこと・・ずうっと大事に思ってきた気持ちはわかるけど。」


萌香にそう言われて、


「えっ・・」


ぎょっとした。



「あたしもあの子のことは、ほんまに妹みたく思っていたし。 あの子が泣くところは見たくないけど。 でも、やっぱり幸せになって欲しいし。」


「・・高宮と一緒になって・・幸せなのかよ。」


斯波は思わず本音を言った。


「確かに。 ほんまに大変なことかもしれへん。 彼が一緒に棲もうって言ったことは・・結局、結婚への第一歩やし。 このままいったら結婚まではすぐかなって思うし。 今のあの子で、やっていけるのかなって思うし、」


「・・ん・・」


「加瀬さんね。 あたしに『ここにいたい』って泣いたの。」


「え?」



「嬉しいような。 ちょっと複雑。 高宮さんはそれを感じて・・あなたにそんな風に言ったのかも。」


萌香は静かにそう言った。




萌香はその後、夏希が気になって様子を見に行った。


夏希は夕飯も食べずに、明らかに憔悴しきっていた。


「・・おにぎり。 鮭とおかか。 加瀬さん、好きでしょう? たぶん何も食べてないかなァって。」


萌香はニッコリと笑った。


「すみません・・」


声にも全く張りがなく。


「高宮さんともう一度話し合ってみたら? 彼はあなたのことを一番わかってるやろし、」


そう言ってみたが、



「隆ちゃん・・夏希にはおれよりも大事なものがありすぎるって。」



夏希はボソっと言った。



「え?」



「そ、そうなのかなァって。 でも、あたしはいっぱい大事なものがあって。 何が一番とか・・決められないし。隆ちゃんのことも・・大事なのに・・」



夏希はまたポロポロと涙をこぼしながらも、萌香の持って来てくれたおにぎりを一気に食べ始めた。

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