第10話 裏表(5)
しょうがないわね・・
萌香は泣きながらも
むしゃむしゃとおにぎりを食べ続ける夏希が本当にかわいかった。
たくさん大事なものがありすぎて
どれが一番かなんて決められない
なんて
やっぱり
子供みたいなセリフ。
だけど
これが
ありのままの彼女で。
この子は
このままでいい。
ここへ来たばかりのころよりも
だいぶ大人になったし。
ゆっくりだけど
この子のスピードで
大人になってる。
「隆ちゃん・・怒っちゃって。 口もきいてくれないし。」
しゃくりあげながら言った。
口の周りについたゴハンつぶを萌香は取ってやりながら、
「大丈夫。 高宮さんは。 あなたの全部が好きなんだから。 ・・きっとわかってくれる。」
と言った。
「りゅ・・隆ちゃん・・早口で。 難しいこと一気にバーって言ってくるから・・なんも、言い返せなくって・・」
「うん・・うん、」
萌香は夏希の頭を撫でた。
二人のことに口を出すのは
もうやめようと思ったりもしたけど。
やっぱり
まだまだ
仲介は必要そうやな・・
萌香は小さなため息をついた。
「なに??」
萌香から資料室に呼ばれた時点で高宮はもう夏希のことだとわかっていて
あからさまに嫌な顔をした。
「加瀬さんのことに決まってるのに。」
「ほんっとねえ・・いちいちおれたちの間になんかあるたんびに。 斯波さんと栗栖さんが介入してきて。」
恨めしそうにそう言われ。
「あたしだってもう立派な大人なあなたたちのつきあいにあれこれ言いたくもないんだけど。 でも。 かわいそうで、」
「え?」
「加瀬さんが。 どうして急に一緒に暮らそうなんて言い出したの?」
そもそもの疑問をぶつけてみた。
「どうしてって。 どうせ広いところに引っ越すなら、彼女と一緒に棲みたいなあって・・」
斯波のところから彼女を引き離したいから、とはやっぱり言えなかった。
「なんでワンクッション置くの? 結婚じゃなくて、」
ドキっとした。
「け、結婚は・・まだ早いかなあって・・思ったりもする。 だから・・」
ちょっとうろたえてしまった。
「あの子は。 そんなに器用なことができる子じゃないってわかってるくせに。 どうせなら、きちんとプロポーズして結婚ってちゃんとした区切りをつけてあげないと。 それがまだ早いって思ってるなら・・今までどおりでよかったんじゃないかなって、」
萌香の言葉は心に突き刺さった。
「大事なものがありすぎて・・一番が決められないって。 そんなこと言うのよ。」
クスっと笑った。
「え・・」
高宮は彼女を見た。
「それ見てね。 なんってかわいいんだろって。 あの子は今までそうやって生きてきたのよ。 自分の大好きなことを好きなだけやって。 一生懸命に。 友達もいっぱいいて、お母さんのことも・・とても大事にしてて。 もちろん、あなたのこともね。」
高宮は黙り込んでしまった。
わかってる。
そんな彼女に
自分のことだけ
一番って思ってくれだなんて。
そんなことできないってこと。
本当に明るくて、全部が前向きで。
だけど
「・・斯波さんや・・きみに勝てないんじゃないかって、」
高宮はポツリと言った。
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