第13話 棲む(3)

あ~~~


飲みすぎた・・


頭、おも・・


夏希は深酒をしてしまった自分に


大いに後悔した。




エレベーターを降りて、事業部に向かおうとしたが


角を曲がる時に


いきなり高宮と遭遇してしまった。



「わっ・・」


思わず驚いて、後ろに下がってしまった。


「あ・・」


高宮もちょっと驚いたが、


「あ、あのさ・・」


すかさず彼女に声をかけた。




「話、あるから。 昼休み・・ちょっと、いい?」



「え・・」



話・・


なんだろ・・


まさか


『別れよう』


とか??




夏希は想像だけ膨らんでしまい動揺した。



「・・は、話?」


「うん、今ちょっと忙しいから。」


そう言って彼は忙しそうに社長室に入って行ってしまった。




「じゃあ、あとは専務の都合を聞いて。 鈴木さん、想宝の会長との懇親会。 まだスケジュール出てませんでしたよ。 これは急ぎなんで、進めてください。」


春から秘書課のチーフとなった高宮は社長秘書のほかの仕事も忙しく、


前よりも二人で過ごすことも少なくなった気がしていた。



日曜の休みもなかなか取れずに、一日中二人で出かけることも、春からは一度もなかった。


夏希は秘書課の志藤のところに書類を届けた時に、忙しそうに仕事をする高宮を見ると


何だか胸が痛くなる。


英語にも堪能な彼は、海外との契約の通訳を一手に務め、海外出張も増えた。



「高宮・・いっそがしそうやな。 おれはこんなに暇なのに、」


志藤からそう言われて、夏希はドキンとした。


「え・・」


「また今月の終わりからNYやって。 ほら、ホクトエンターテイメント以外の北都グループの仕事もしてるやん? 社長が言うてたけど、普通に英語ができるだけじゃ、なかなか大事な契約なんかの通訳でけへんねんて。高宮くらいにならへんと。 あいつ、めっちゃ頭の回転も速いし。」


志藤は夏希が持ってきた書類を見てハンコを押しながら言った。



「・・すごいんですねえ・・」


夏希はポツリと言った。


「あいつ、けっこうすごい仕事してるねんで? 知らなかった?」


志藤は笑った。




昼休み、夏希は約束した屋上で先に待っていた。


しかし


高宮はなかなか来なかった。


あと昼休みが残り10分というところで彼は慌ててやってきた。


「ごめん、電話が終わらなくて・・」


「ううん。 あ、これ。」


夏希は彼にランチボックスを手渡した。


「え?」


「ゴハン・・食べてないかなあって。 ここのサンドイッチ、ボリュームがあってすっごい美味しいから。」


夏希はニッコリ笑った。


「買ってくれたの?」


「たまには。 あたしだって・・」


「そっか。 ありがと、」


高宮はニッコリ笑ってそれを食べ始めた。



「忙しいね、」


夏希は彼に声をかけた。


「んーー。 まあね。 でも、ようやく仕事してるって感じかな。 社長もおれのこと信頼してくれて、大事な仕事も任せてくれるし。 社長、すんごい忙しい人だから。 おれでできることなら一人でやりたいしね、」



とっても


あたしには


わかんない世界だけど。



夏希は寂しそうにうつむいた。




「あのさ・・」


高宮はサンドイッチを食べて、箱をたたみながら


「・・この前の話。」


「え・・」



夏希はドキっとして彼を見た。


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