第12話 棲む(2)

「なんも。 考えてなかったし。 おれだって一人が長かったし・・誰かと一緒に棲むなんて、なかったし。 そんなおれが衝動的に彼女に一緒に棲もうって言っちゃって。 うまくやっていけるのかなって、あとからちょっと不安になったりして。 だけど・・そんなことよりも彼女と一緒にいたかった。 それだけだった、」



斯波はいつものようにウーロン茶だけで


酔ってもいないのに


萌香のことを饒舌に語った。



「一緒に・・」


夏希は手で涙を拭った。



「もう・・一人でいることが考えられなかったから。 同じ空間で同じ空気を吸って・・生きていきたかったから・・。」



夏希は別の意味で


涙が出てきてしまった。




「って・・またなんで泣く?」


斯波はそこに突っ込んだ。



斯波さんと栗栖さんの


ものすごく


ものすごく


強い愛情に比べたら


あたしは


隆ちゃんに何をしてあげたんだろうか。


好きだって気持ちだけで。


隆ちゃんはあたしに


いっぱいいろんなことしてくれるけど


あたしは


それを受けるばっかりで。


いつのまにか


そんなの当然みたいな感じで。




「あたしは・・・隆ちゃんに・・何一つしてあげられないのに、」


そう言って泣く彼女に


「愛情なんか。 どっちが多いとか少ないとか。 そういう問題じゃない。 その二人にしかわからない丁度いいところで・・つりあってうまくいってんだろ?」


斯波は優しくそう言った。



夏希は泣いていたかと思ったら、いきなり焼いていたタン塩にすごい勢いで箸をつけ始めた。


ぎょっとして彼女を見るだけの斯波・・



すると


「あ! いけない! まだ生焼けなのに食べちゃった・・。 隆ちゃんにいっつも怒られる、」


夏希は口にそれを入れて、


しまった、


と言う顔をして言った。




呆れた後


斯波はそんな夏希がおかしくて笑ってしまった。




ダメだ。


こんなヤツ。


結婚なんて大人のすること。


まだまだ


できねーって。





「おっ・・重い・・」


斯波が酔いつぶれた夏希をおぶって帰ってきたので萌香は驚いた。


「ど、どうしたの・・」


「一人で飲んで食って・・も~~~。 腰、いて・・」


斯波は夏希を玄関で寝転がらせて、腰を摩った。


「しょうがないわね・・今日はここに寝かせてあげましょう、 あたし空いてる部屋に布団を敷いてきますから。 何とかそこまで運んで、」


「ほんっと重いんだから、コイツ・・」


斯波はほとほとくたびれていた。




「罪のない顔して寝てますよ、」


夏希を寝かせた部屋からそっと出てきた萌香はクスっと笑って斯波に言った。


「ほんっと人騒がせだな、」


斯波はぐるりと首を回した。



「・・あたしも、今日会社で高宮さんと話をしたんです。」


「え?」


「彼もね。 ほんまはわかってる。 自分が無理を言ってしまったこと。 ちょっと素直になれなかっただけで。  たぶん、大丈夫。 きっとまた今までの二人に戻る、」


萌香はニッコリと微笑んだ。



「ん・・」


斯波はちょっと沈んだ顔だった。



「どうしたの?」



いつかは


おれたちの力なんか借りなくて


二人で何でも解決できるようになって


そうなったら


きっと


あいつが


ここを出て


高宮のところに行くときなんだろう。



『そのとき』


のことを想像して、


ちょっとセンチメンタルな気分になってしまった。




おれは


あいつのオヤジかよ!



自分に突っ込んでみたりもして。



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