第14話 棲む(4)

「一緒に棲まないって・・言ったこと。」


「・・う、うん・・」


夏希はゴクっとツバを飲み込んだ。


「あれ・・やっぱなかったことにしよ。」



あっさりと言われた。


「は・・」


「うん、やっぱりね。 無謀だったかなって、」


と高宮は笑うが


夏希は何となく身体が傾いでしまった。



「どしたの?」


高宮は彼女の顔を覗き込む。



「それって・・」


夏希は呆然としつつ言った。


「は?」


と思ったら、彼女がいきなり大粒の涙をぼろぼろとこぼし始めたので高宮は焦った。



「なっ・・なに??」


「ごっ・・ごめんなさい! あたしが・・あたしが悪かったから!!」


と高宮に縋って、夏希は必死に言った。


「・・は?」


「じ、自分勝手なことばっか・・考えちゃって! 自分が楽しいことばっか。 隆ちゃんの気持ちとか、ぜんっぜん考えてなくって!」


「夏希?」


「せっかく、隆ちゃんが一緒に棲もうって言ってくれたのに!! あたし・・もっともっと隆ちゃんの力になりたいのに! 自分のことばっかり~~~」


膝に突っ伏すように、大声で泣き出した夏希に高宮は周囲を気にして慌てた。


「おい・・、」


彼女の背中に手をかけると、ガバっと起き上がって



「あたしでよかったら!! 一緒に棲んでくださいっ!!!」



ものすごい必死の形相で言われた。



「は・・?」


今度は高宮がのけぞった。


「りょ・・料理も勉強するし!! 掃除だって週イチだったのを・・毎日するし!! せめて隆ちゃんが疲れて帰って来たときは・・ゴハンとか! なんなら一緒にお風呂とか入って、背中とかも流すし!!」


とんでもないことを言い出す彼女の口を思わず押さえてしまった。



「ちょ、ちょっと待てっ!」


「あたし! 甘えてたんです! いっつもいっつも栗栖さんと斯波さんに守ってもらって! なんか・・そっから出て行くのが怖くって! だけど・・もう25だし! いつまでもそんなこと言ってらんないし! お、お母さんにはあたしから説得しますから!」



高宮は


いつの間にか形勢が逆転しているこの状況に


面食らう。


「お、落ち着いて。 な、落ち着けって、」


もうそう言うだけで精一杯だった。


「今日の夜・・さっそくお母さんに電話しますから!」


夏希はスクっと立ち上がり、すごい勢いで走っていってしまった。



「夏希っ!! まてっ! 早まるなっ!」


慌てて追いかけようとしたが


彼女の脚の速さについていけなかった。




どうしよう・・


なんっか大変なことになってきた。


高宮は血の気が引いてしまった。




しかし、何とかしようにもそれからも忙しくて、とても落ち着いて彼女と話せる様な時間は取れなかった。



ああ


いろんな意味で


疲れた・・。



高宮は夏希の走り始めた方向が気になりながらも


夜10時ごろようやく帰宅した。


すると



「おっかえりなさーい!」



夏希が笑顔100%で出迎えた。


「あ・・?」


「ほんっとこんなに遅くまでお疲れさまっ! お風呂沸いてるし~。 ゴハンもね、1時間かけて作ったの! 見て!」


夏希は大きな鍋のフタを開けてみた。



そこには


おでんが


ぐつぐつと音を立てて煮込まれていた



おでん・・


今日も・・35℃の猛暑日だったのに・・



高宮は一気に疲れが出てきた。


「お・・お母さんには電話・・したの?」


一番気になることを訊いてみた。



「え? ああ・・なんかね。 もちょっと様子見てから話そうかなって。 まだ電話してないんですけど、」



よかった・・



高宮はものすごくホッとした。


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