第4話 提案(4)
「んでさあ、なんか知らないけど、おれまで『ヒッヒッフー』とか呼吸させられちゃって! みんな真剣にやってるし、笑っちゃって!」
八神がケラケラと笑いながら
美咲と一緒に行った、生まれてくる子供のための『両親学級』に参加したことを話していた。
「別におれが産むわけじゃないのにさあ。 って手え抜いてたら、美咲に『真面目にやってよ!』って怒られて、」
「おれも出産は付き添ったけど。 ほんっと大変なんだから。 翌日なんかおれまで筋肉痛。 全身に力入っちゃってさあ、」
玉田は笑う。
「もう何ヶ月?」
南も言った。
「えっと・・もうすぐ7ヶ月かな? 生まれるの11月の終わりだから。」
「もうすぐやん。 おなか大きくなってきたでしょ?」
「うん、けっこう。 この前の検診でね。 女の子かもって言われたんだって!」
八神は嬉しそうに話す。
「へえ。 女の子かあ。 八神、めっちゃかわいがるんやろな、」
そんな中
夏希だけがため息をついたりして暗かった。
「なに、負のオーラ丸出しで。」
南がそれに気づいた。
「えっ・・」
夏希はハッとした。
「また食いモンのこと考えてたな、」
八神がジロっと睨んだ。
「・・いえ。 し・・仕事しよ・・」
と、慌てて席に戻って行った。
3人はいつもの彼女とはあからさまに違う様子に顔を見合わせた。
思い悩んだ夏希は
「美味しそうな桃ね~。 実家から?」
萌香は夏希が持ってきた桃を見ながら言った。
「はあ。 いっぱい送ってきたんで。」
「ありがとう。 どうぞ。 上がって。」
萌香は自宅に彼女を招きいれた。
「・・斯波さんは・・」
「ああ、今日は遅くなるって言うてたし。 ゴハンは? 今日、加瀬さんの好きな炊き込みご飯。 あとで持って行ってあげようかなって思ってたの、」
情けないが
おなかが鳴ってしまった。
いつもより口数の少ない彼女に
「・・どしたの? なんか、あった?」
萌香は素早く気づいた。
夏希は箸を置いて、
「あの・。 栗栖さんは・・どうして斯波さんと一緒に暮らそうって思ったんですか?」
あまりにも
真っ直ぐな質問をした。
「は?」
萌香の箸も止まった。
「斯波さんから? 暮らそうって言われたんですか?」
怖いくらいの勢いで迫ってくる彼女に
「えっ・・ええ・・まあ・・」
タジタジになってそう答えた。
「そうかあ・・。」
夏希はため息をついた。
「どう、したの?」
萌香はおそるおそる彼女に突っ込んだ。
「え! 高宮さんが!?」
萌香はさすがに驚いた。
「もー、なんっか・・・どーしていいのやら。 そんなこと言われるなんて夢にも、」
夏希は素直に戸惑いを口にした。
「何か、あったのかしら。」
「わかんないですけど。 前から今のところは狭いから引っ越したいとは言ってたんですよ。 隆ちゃん、ほんっと本の量がハンパなくて。 そのときは、ああそうか、としか思ってなかったんですけど。 まさか・・一緒に暮らそうだなんて言われるとは、」
夏希はテーブルクロスを指でぐりぐりしながら言った。
萌香は高宮の真意が
図れなかった。
ようやく落ち着いて
いい付き合いができるようになったのに。
彼の方は
彼女との将来をきちんと考えているようだけど
今の加瀬さんは
まだまだ
そこまで精神的に成長しきれてないし。
それは
高宮さんだってわかってるはずなのに。
「もう、いろんなこと考えちゃって。 お母さんに怒られる、とか。 隆ちゃんのお父さんとお母さんのこともあるし。 いっくら・・もうお互い大人だって言っても・・そーゆーこと無視できないし、」
もじもじしながら言う夏希を見て
これは
実質的な
プロポーズ・・。
萌香は直感した。
高宮さんはそこまではまだできないと思い
一緒に暮らすことを考えた。
だけど
加瀬さんには
おそらくそこまでのこともわかってない。
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