第17話 転ずる(2)
高宮は開けたと思った弁当箱のフタをすごい勢いで閉めてしまった。
こっ・・
これは・・?
「なにしてんねん・・食わないの?」
志藤が怪しげに後ろから覗き込む。
「い・・いえ・・」
汗が一気に吹き出した。
「あれ? これ手作り弁当?」
志藤が素早く察して言う。
「は?」
もう目が泳いでしまった。
「って、自分で?」
「・・いえ・・」
「加瀬? あいつ弁当なんか作れんの?」
志藤はことさら大きな声で言った。
「・・・・」
激しく動揺している高宮に
「見せて。 どんなん作ったの? あいつ、」
とさらにしつこく言う志藤に、その弁当箱を隠すように
「・・い、いや・・」
何気に彼から遠ざけた。
そうされるとさらに見たくなり、
「え~~、見せて~。 加瀬の作った不思議な弁当!」
志藤は子供のように言って迫ってくる。
「・・も! いいじゃないですかっ、」
高宮は振り切ろうとしたが、隙を見て志藤はふたを開けてしまった。
「あっ!」
隠そうと思ったが、すでに遅し。
「は・・」
志藤も一瞬固まった。
そこには
おそらく
夏希が非常に頑張ったと思われる代物が。
弁当箱の中で
アンパンマンが満面の笑みで
そこにいた。
「きゃ・・キャラ弁??」
高宮は真っ赤になって
「よ・・幼稚園の弁当じゃないんだから。」
泣きそうになっていた。
志藤は唖然とした後、ぶーっと吹き出して、おなかをかかえて笑い出した。
「すっげー! アンパンマンとは!!」
そこまで笑われると、むっとして
「か、彼女が頑張って作ったんですからっ!」
と少し庇った。
「30男が、アンパンマンだって!」
「もうあっち行ってくださいっ!!」
この騒ぎに秘書課のみんなが寄って来てしまった。
「え? なに? 高宮さん、愛情弁当?」
「うっそー! アンパンマンだ! かわい~~!」
口々にからかわれ。
くっそお・・・
高宮は半ばヤケになってそれを食べつくした。
志藤は早速
事業部に行って
「加瀬~。 見事だったなァ、あのアンパンマン!」
と、彼女の業績を称えた。
「え? 見ました?」
夏希はむしろ嬉しそうに言った。
「見た見た。 あれ、大変やったろ~。 よく、ゆうこが子供らにせがまれて作ってるけど、めっちゃ時間かかるって言うてこぼしてたもん、」
「今朝5時に起きて作ったんですう~。 本見て!」
「おまえの分も?」
「あたしは隆ちゃんのお弁当作った残りもので。 二つも作ったら大変だし、」
「そうかあ。 ほんま尽くしてるなあ、」
志藤は夏希の頭を撫でた。
「うれし~、褒めてもらえるなんて! 明日はなんにしよっかな~。 キティちゃんもかわいかったんだけど~、」
夏希はひとりルンルン気分だった。
「あ・・ありがと。」
高宮は弁当箱を洗って彼女のところに持って行った。
「え、そのまんまで良かったのに。 で、どうだった?」
ワクワクしながら訊いてくる彼女に
30男に
アンパンマンのキャラ弁はやめろ!
とは
とても言えなかった。
「うん・・うまかった・・」
と言ってしまったばっかりに
「ほんと!? よかった~~。 明日はなんにしよっかな~~。」
もう
明日もキャラ弁を作る気満々になってしまったのだった。
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