第18話 転ずる(3)

「はあ? 加瀬が? 高宮と?」


斯波は萌香の話を聞いて大いに驚いた。


「あたしも・・びっくりしたけど、」


「あいつ、どうなってんの?? ほんっとにもう泣くほど悩んでたくせに!」


斯波は相変わらず夏希の精神状態が読みきれなかった。



萌香はう~~んと考えた後、



「・・たぶん。 あたしの勘だと。 1週間くらいかなって、」



「は?」



「加瀬さんのチャレンジも。 まあ、結局元どおりになると思うし、」


萌香は笑った。



「どういうこと?」


「まあまあ。 ここは黙って見ていましょう。」


彼の背中を軽く叩いた。





なんか


不思議。


こうして買い物してるだけで


何となく『奥さん』になった気分~~。



夏希はカンペキに奥さま気分に浸っていた。



彼女も仕事が忙しくないわけではなく、8時ごろ会社を出てマンション近くの10時までやっているスーパーに駆け込んで買い物をする。


それでも高宮の方が早く帰れることはなく、お風呂を沸かして、ゴハンを作って、洗濯物を畳んで、彼を待つ。



「見て! 今日はね・・和食に挑戦しちゃった。 煮物とか。 本見てやったりしたから時間かかっちゃったけど、」


夏希は嬉しそうに彼を出迎えた。


「・・うん。」


「お風呂はゴハンの後にする?」


「うん、」





確かに


彼女は思った以上によくやっている。


こんなことこの子に期待してなかったのに。


ただ


一緒にいられればいいって思っていたのに。


キャラ弁はともかく


メシもまともに作ってくれるし。


きちんと掃除もして、洗濯もして。




「ほんと、夏希も疲れて帰ってくるんだから。 たまには外食しようよ、」


と言ったが、


「え~? やっぱあたしのゴハン・・おいしくないですか?」


「いや、そうじゃなくてさ。 掃除だって、毎日しなくても・・」


「え、そんなのダメ! 隆ちゃんが帰ってきたら、気持ちよく過ごしてもらえるように。」


夏希は嬉しそうに笑った。




しかし


高宮が夜中に起きると、隣で寝ているはずの夏希がいない。


どうしたのか、とリビングに出て行くと、


一生懸命キッチンの掃除をしていた。


「夏希、」


「あれ? 起こしちゃった? ごめんね、」


「・・もう2時だよ。 さっき一緒に寝たのにどうしたの・・」


「なんか汚れてたの思い出して。」


と笑う。



「もう寝ないと。 ほんと身体参っちゃうよ?」


「うん、もう少しだから。 隆ちゃんは寝てて。」



野球を続けていただけあって


根性は相当なもんだ。


負けず嫌いだし。



なんっか


嫌な予感するけど・・。



高宮は密かに心配していた。






「おいっ!! もうコピー終わってんぞ!」


八神の声でハッとした。



「は・・?」



「おまえ・・立ったままで寝てただろ、」


と指摘され、


「い、いえ・・寝てなんか・・」


慌てて終わったコピーを取り出した。


「紙切れのまんま・・止まってんぞ、」


と言われて、


「えっ!!」


慌ててコピーを見た。


「わ・・わかんなくなっちゃった・・どこまでやったか・・」



「アホ・・」




こうして


夏希の奥さん生活は


1週間ほど続いた。


夏希は志藤から会議室にお茶を運んでくるように言われ、トレイに6つ冷たい麦茶を淹れて給湯室から会議室に向かっていた。


そのとき


あれ??



目の前の光景がぐにゃっと曲がったような気がしたとたん


そのまま真っ暗になってしまった。


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