第16話 転ずる(1)
ものすごいコゲくさい匂いで目が覚めた。
火事??
高宮は思わず飛び起きた。
「ど、どーしたの?」
リビングに顔を出すと、
「あ・・隆ちゃん・・ごめーん。 パン、焼きすぎちゃって。 炭になっちゃった、」
夏希は真っ黒な物体と化したパンを申し訳なさそうに彼に見せた。
「煙が。 災報知器に反応しそう・・」
高宮は慌てて換気扇を回した。
「今、洗濯してたら・・パンのこと忘れちゃって。」
しょぼんとする彼女に
「いいよ。 なんもなくてよかった。」
高宮は肩を叩いた。
だいたい
彼女は2つのことがいっぺんにできないタチなんだから。
朝食を作りながら洗濯なんて
無理なのに。
ちょっとおかしくなって笑ってしまった。
だけど
何だか部屋の中がキレイになっていた。
「そうじ、したの?」
朝食を採りながら言うと、
「そう! 気がついた? 朝5時に起きて!」
夏希は嬉しそうに言った。
「5時?」
「うん。 掃除機かけるとうるさいから、ぜんっぶ拭いたの! キレイになったでしょ?」
「う・・うん・・」
彼女の部屋のきたなさを考えると
ものすごい努力をしたのがわかる。
「あと、オフロも掃除して。 ゴミ出しして~~、」
「そんなのおれがやるのに、」
「え! 隆ちゃんは忙しくって疲れてるんだから。 そーゆーのはこれからあたしがやるから!」
張り切って言う夏希に
これから
高宮は彼女の方向性を彼なりに想像した。
いいんだろうか
このままで・・
考え込んでいると、
「あと!お弁当も作ったから!」
夏希は張り切って弁当箱を見せた。
「は? 弁当も?」
「隆ちゃんは忙しいから・・外で食べることもあるかもしれないけど。 でも、もし食べれたらでいいから、食べて。」
かわいいことを言われて
ホロっとくるが。
「ちゃんと本見て作ったから、大丈夫!」
彼女は自信たっぷりにそう言った。
「あら、お弁当?」
ランチから戻ってきた萌香は部屋に残っていた夏希に言った。
「はい。 ちょっと頑張っちゃって・・」
夏希は嬉しそうに頷く。
そして
「あの・・」
萌香の顔を覗き込む。
「え?」
「あたし・・隆ちゃんと一緒に棲んでみよっかなって、」
大いにテレながら嬉しそうにそう言った。
「は・・?」
これには萌香が驚いた。
「なんかね・・隆ちゃん、すっごい忙しいし。 そんな中でも時間見つけて、あたしのところ来てくれたりしてるんだなーとか。 ゴハンつれてってくれたり。 そんなん思ったら・・あたし、隆ちゃんに何もしてあげてないなって思って。 昨日から隆ちゃんのトコに泊めてもらってて・・。 一緒に棲もうって言ってくれたのに、あたしってば今の居心地のよさに浸っちゃって。 ダメだなあって。 少しは大人にならなくちゃって反省して・・」
夏希は顔を赤らめながら言った。
「で・・隆ちゃんが新しいトコに引っ越したら・・あたしも一緒に住まわせてもらおっかな~~とか、思うようになっちゃって・・」
「は・・」
萌香はまたも口が開きっぱなしになってしまった。
「まあ、まだまだこれからですけどね。 ほんっとがんばろーって、」
夏希はニコーっと笑った。
彼女の笑顔に
萌香は何も言えなくなってしまった。
高宮は1時過ぎにようやく社に戻ってこれて、夏希の作ってくれた弁当の存在を思い出し、それを取り出した。
「今ごろ、メシ?」
志藤が声をかけた。
「はあ・・なんっか長引いちゃって、」
と弁当箱のふたを開けて驚いた。
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