My sweet home~恋のカタチ。5 --aquamarine--

森野日菜

第1話 提案(1)

夏希は目の前のタン塩が焼けるのを


今か今かと


待ちかねていた。




「よだれ、」




目の前に座った高宮に指摘され、


「えっ!」


慌てて口元を拭う。



「ウソだよ。 そんな顔してた、」


高宮は笑ってしまった。



「たまに油断するとホントによだれ垂れてるときがあるんですよ~~。」



この日は彼女の25歳の誕生日。


こうやって彼女の誕生日を祝ってあげるのは


3度目になった。




彼女は


洒落たレストランなんかが苦手で


誕生日に何食べたい?


って訊いた時に、0.1秒で




「焼肉!」




と即答だった。




特に


タン塩が大好物で。


タンはよく焼かないといけないよって、いつも注意しないと半生状態で食べようとするので大変だ。



まるで


「待て」


を飼い犬にしている飼い主のような気分だった。





「ほんっと・・美味しい! いつもありがと。 隆ちゃん、」


夏希の嬉しそうな顔が何よりも幸せで。





「うん、」


高宮は頷いた。




「なんか・・あたしばっかり食べちゃって。 どうかしたの? 元気ない・・・」


夏希はハッとして彼を見た。



「え? 元気? あるよ。 普通に。」


「そう?  なんか考え事してるみたい・・」



考え事・・・




確かにここんとこ


あることでよく考え込んでしまう。




「今のマンションがね。 来年の春に更新なんだ。」


高宮はタバコに火をつけた。


「あ、そっか。 もう2年だもんね・・」


夏希は肉をぱくつきながら言う。


「居心地はいいんだけど。 どーせなら引っ越そうかなあって。」


煙を吐きながら言った。



「え、どこに?」


さすがに箸を止めた。



「え? まあ場所は今の辺りでいいんだけど。 もちょっと広いところ。 あそこほぼワンルームだし。」



「家賃、けっこう高いですよ? あの辺は。」



「いちおう・・春から秘書課のチーフみたいなもんやることになって。 扱いは部課長クラスになって昇進して、給料も上がったし。」



「そうかあ・・隆ちゃん、偉くなったんだよね~~。」



他人事のように言ってから、また肉に興味がいってしまった。




本当に彼女は


お金にほぼ興味がない。


こうして焼肉なんかを奢ってやるだけで、もう満足で。


貴金属やブランドの服にも興味ゼロ。


いまだに部屋着はジャージで。


それで近所に買い物にも平気で行く。


一人暮らしをしてけっこう経つのに、いまだにお金の遣い方がわかってなくて


月末は相変わらず、乏しい食生活なんかをして


決して自分に集ってくることもない。




言ってくれればいいのに。



そう思ったりもするけれど。


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