第17話 過去と姉友

姉さんが俺のことを好きな理由が知りたい。

そんなことを思った。

まぁあんなことが起きたら嫌でも理由を知りたくなる。

だって…普通じゃないよね?

「なんで俺のこと好きなの?」

2人して家にいるある平日の夕方に意を決して聞いてみた。

『俺のこと好き』とか言った後になんて事を言ってしまったんだと後悔した。

まぁ良い答えが返ってこなくても良い。

「好きだなんて…もぅお姉ちゃんにそんなこと聞いちゃう?」

……。

「ごめんね。冗談よ。 うーんとね…ちょっと真面目な話になっけどオッケー?」

俺は無言で頷く。


「あたしがまだ小学生の頃なんだけどね。 好きな男の子がいたの。あっ、嫉妬しちゃダメよ? 勿論片想いでずっとその子を見てきて、仲良くしてしようと頑張った。けど、その子はあたしに冷たくしてきたの」

いつもの明るい姉さんとは違ってとても真面目に話してくれている。

そしてその表情は懐かしさと寂しさなどが交わっているようで時々コスモスの髪飾りをいじりながら話していた。

「そのことがトラウマになったみたいで、その子を含めて誰かを好きになることが無くなったの。 一方的にアタックしてるのがバカらしくなってね。次第に男の子嫌いになっていったの」

「そ、そうなんだ…」

「努力が報われないって辛いんだよ…」

弟が知らない姉さんの過去。

俺の口からはその言葉しか出せなかった。

嫌なことを思い出させてしまってないか心配になった。

俺が謝ろうとした時姉さんの口が開いた。

「でもね」

その言葉から表情が変わった。

「たった1人だけ。いつもあたしを優しくしてくれる人が居たの。それは誰でしょう?」

「え……、実家に遊びに来てた友達?」

「ちがーーう! 七海は前の高校で知り合ったの!」

「じゃあ。ぬいぐるみのくまくん?」

「そうなんだけど…違う!」

ちなみにくまくんとは姉さんが昔から大切にしている茶色いくまのぬいぐるみ。

俺が見てもカワイイと思う。

ちなみに俺の手元にくまくんが居る。

俺は恥ずかしさを誤魔化す為にテーブルに横たわっていたくまくんを動かしながら姉さんと話している。

「貴方よ!理稀くん♡」

「え? なんだくま?」

くまくんを使って誤魔化す。

「もぅ…さっきの答えよっ!」

「そ、そうなんだ」

「家にいる時はいつも『おねーちゃーん』って寄ってきて、このくまくんで一緒に遊んで、時々喧嘩して仲直りして…あの頃は一緒の部屋で寝て…。お風呂も一緒だったわね! あの時は誰といる時より理稀といる時が楽しかったし、理稀は誰よりも優しかった」

「いや、普通に生活してただけなんだけどな」

「もぅ、雰囲気ぶち壊さないでよね。てか、そんなことないもん!」

俺の中では世間一般の姉と弟と同じように過ごしてきたつもりだ。

しかし、俺と姉さんの中では捉え方が違ったらしい。

「そんな理稀も日が経つにつれてどんどんあたしから離れていったよね。お風呂別に入るようになって部屋が別になってきてあたしが高校に入学する頃には会話もあまり無くなっていた」

「それに関しては俺が話しかけてもあまり返事しなかったじゃん! 俺は悪くなかった!」

「えぇー、普通に言葉返してたよ?」

俺の中では無愛想な相槌されたのが印象に残ってる。

あの頃の姉さん本当に嫌い!!

「それはない!少なくともめっちゃ無愛想だった!」

「んー。そうなのかなぁ?」

『そうだよ』と言おうとした時姉さんが先に口を開いた。

「でもね。これだけは言えるんだけどね?」

思わず姉さんの方を見ると、姉さんはニコッと微笑んだ。

その笑顔に少しドキッとした。

「あなたのことずっと好きだった。勿論これからも……ね」

「あ、ありがとう…で良いのかな?」

「もぉ…そこは『俺も好きだよ』って言ってよね」

「は、はぁ? 言えるわけないだろ」

この時めっちゃ顔が熱かった。

恐らく赤面してたんだろうなぁ…

とりあえず話題を変えるべく昨日までの出来事を振り返る。

おっ、伝えなきゃ行けないことを思い出した!!!

「そういや、この前姉さんの友達の神田さんに会ったよ?」

「めぐみん?」

「いや、違うって! メグちゃんも神田だけど姉さんの前の学校で一緒だった……」

「あー。七海ね!」

「いや、生徒会長じゃなくて…」

「「えっ?」」

……。

……?

お互いに伝えたい人物と捉える人物が別人らしくてお互いに???状態…。

「神田七海。昔の友達よ。今もだけど」

「神田ってことはメグちゃんの親族なのかな?」

「さぁ? 住んでる地域別だし違うんじゃね」

「だよねー」

……。

「てか、なんで『七海』って聞いて生徒会長が出てくるのよ。苗字どころか名前知ってるのよ!!」

「色々ありまして…」

「浮気ねっ」

「俺は誰とも付き合ってません!!」

「あたしという恋人が居ながら酷い! 別れましょう」

「うん」

……。

「ごめーん。おねーちゃんを一人にしないでーー」


話が脱線したので軌道修正。

「まぁ、面白い人だったよ」

「最近会ってないんだよねぇ。元気だった? 何話した? 可愛いっしょ?」

「まぁ元気そうだったよ。『また会おうね』って言ってた」

「絶対あった方が良い!! んで、可愛いっしょ?」

「そうしようかな」

「うんうん。可愛いっしょ?」

「まぁ…ね」

本音を言うとめっちゃ美人でした。

「でしょー。モデルだから」

「うそっ!?」

「嘘よ」

「……」

人間不信に一歩近づいた気がする。


〜遡ること3日前〜


無性にフライドポテトが食べたくなったので駅前のハンバーガーショップに向かった。

家に持ち帰ると美味しさが損なわれるので店内で食べる事にした。

食べるならやっぱり揚げたてでしょ!!

店内飲食あまり好きじゃないんだけどね。

トレーにポテト(Lサイズ)とオレンジジュースを注文。

チキンナゲットも食べたかったけど今回は我慢…。

平日の夕方ということもあって店内は混雑していた。

見渡すと偶然にも空いている2人用の席を発見。

そこに座った。

1人なのでスマホを弄りながらポテト(Lサイズ)を摘んだ。

ポテトうめ〜〜。

内心感動してると前の方から声をかけられた気がする。

「おおっ。もしかして亜梨栖の弟くんじゃね?」

声のする方を見ると制服をいい感じに着崩したギャルっぽいけど黒髪で清楚さもあるセミロングの美人な女子高生が手を振っていた。

亜梨栖と言っていたので姉さんの友達だろう。

あの制服見覚えあるような…少なくともうちの高校ではない。

え、誰?

「『貴女誰ですか?』的な顔してるねぇ。亜梨栖の友達である……七海…あ、あぁ。苗字……えっと、神田……神田七海! 知ってるでしょ?」

この人一瞬自分の苗字忘れた?

大丈夫かなぁ。

その不安とこの人が誰であるかがわかった。

神田さん?は一緒に来ていた友達と分かれて俺の前に座る。

「前座って良い?」

「こちらが許可する前に座ってるじゃないですか!」

「えへへ…君ならダメって言わないと思って!」

白い歯を見せながらニヒヒと笑った。

トレーにあるチキンナゲットを開けながら言った。

「はい!1人の時間を邪魔しちゃったお詫び。食べな〜」

「ありがとうございます」

そう言ってナゲットを1つ貰った。

食べたかったチキンナゲットを思わぬ形でゲット!

「食べたからには〜教えてもらうよ〜」

お詫びと言ってナゲットをくれたのにあれは罠だったのか…ひどっ!

とは言わずにとりあえず内容を聞いてみる。

「なんでしょう?」

「亜梨栖元気? ちゃんとご飯食べてる? お友達と仲良くしてる?」

「心配性ですか」

「ん? まぁ…あの子可愛いから心配なのよ」

「ありがとうございます……」

なんで俺がお礼を言ったのか謎だわ。

まぁ身内を心配してくれて嬉しかったのかもね。

「まぁ、姉さんはいつも通りっすね。神田さんと一緒にいた頃と変わらないです」

「そかそか! てか、理稀くんの実家に遊びに行ってた事覚えてたんだね!」

「ま、まぁ…」

この人が一人暮らしを始める元凶になったんだ。

元凶って言っても今の生活めっちゃ楽しいし良いんだけどね。

あれが無ければ涼夜や愛依奈、ジョーカにメグちゃんなど色んな人と出会えなかった。

もしかしたら味気ない平凡だったり、ボッチ街道まっしぐらなを学生生活送ることになったかもしれない。

今思うとあれでよかったのかなとか思ってる。

もしかしたら感謝すべき人なのかもしれない。

昔は悪であっても後に善になることって本当にあるんだなと思った。

「そんでね。割と真面目な話になるんだけど、オッケー?」

俺は無言で頷く。

「理稀くんには悪いことしたなって思ってるんだ」

それまで手元のポテトを見ていたが、その言葉を聞いた瞬間、神田さんの方を見た。

「やっと、こっち向いたーー」

「す、すみません…」

「ううん。謝るのはこっちの方だよ」

あれ、めっちゃ良い人なのでは?

「あの時、夜まで煩かったでしょ? あれにはワケがあるんだよ」

「そうなんですか…」

「タメ口で良いよ! 堅苦しいの嫌いだし」

神田さんは飲み物をストローで吸ってからこっちを向いた。

「あの時の亜梨栖ってめっちゃさみしがってたんよ?」

「えっ?」

「一番大好きな弟に構ってもらえないってね。いつも学校でそう言ってた」

「……」

思わぬ発言に言葉が出ない。

「だから『うちに来て一緒に騒ごう』ってお願いされたんだ。そうすれば亜梨栖の部屋に来て文句を言いに来る理稀くんと話せる、そしてあたしと3人でワイワイ出来るってね」

「で、でも…休みの日に俺が作ったご飯を残したり、それを放置して遊びに行ったり……」

「それも帰ってから残さず食べてるし、その面でも叱って…いや、構って欲しかったんだよ。あの構って欲し子だからね」

「マジか…」

「意外でしょ?」

俺は再び無言で頷く。

「だから、理稀くんが家を出るって言った時、買ったばかりの高級ブランド物を落とした時みたいな顔してたよ? 夜な夜な電話かかってきて『止めるべきか便乗するべきか』聞かれたし。あの時寝不足になったなぁ…あはは」

知らないことが多すぎる。

俺はそれを知らずに冷たい態度を取って勝手に距離を置いて…

「俺…姉さんに顔向けできないなぁ…」

「そんなことないよ!こう言う時はね……」

いろいろ考えて下を向いた時にそう言ってくれた。

「良い案が?」

「うん!」

「どんなことをすれば?」

「『ギュッ』と抱きしめればいい!」

……。

はぁ?

「却下…」

「えぇー?」

「さすがに出来ません」

「『今までごめんね…おねーちゃん』って抱きしめれば大丈夫! まぁ、あの子なら気絶するかもだけど。あははー」

あははーじゃねーーよ!

とはさすがに言えずただ愕然と神田さんを見ていた。

「今までそんなことしたことないし、恥ずかしいし…」

まぁ…あんな出来事があったなんて言えないね。

「そっか…」

再び2人して考え込む……

「あっ!」

「何かありました?」

次こそナイスアイデアを…

「わたしで練習すればいいよ! 2回目なら緊張しないっしょ? 予行練習〜予行練習〜」

「えぇ…でも、嫌じゃありません?」

とは聞いたものの『うん、本当はイヤ』とか言われたら心折れる…

「イヤ」

ガーン…

俺のハートが粉々に砕けた。

「なーんて、嘘よ! 理稀くんなら全然オッケー。寧ろウェルカーム! ねねっ、これから人気のないところ行っちゃう?」

「じ、冗談はよくないと思います…」

この人怖い…。

「冗談じゃないよ? 亜梨栖が好きじゃなければ、この神田七海がアタックしちゃうんだから♡」

「でも、こんなに可愛いんですから好きな人やお付き合いしてる方いるんじゃないですか?」

俺は何を聞いてるんだ…

「それ聞いちゃう? 実は…」

そう言って手招きされたので身を乗り出す。

すると耳元へ神田さんが近づいた。

「だーーれも、いないよ? わたしどうかな?」

思わぬ言葉に咄嗟に身を引いた。

流石の俺もこの人について行ったら自分が自分でなくなる気がした。

「あー、そろそろ帰らないと姉さんに怒られる〜」

「そっかー。理稀くんを独り占めしてると亜梨栖が悲しむもんね。てか、殺されかける気がする…」

えぇ…。

すると神田さんのスマホに通知が。

「げっ…お姉ったらまたご飯作ってとか…まったく…ごめんね。わたしも用事できちゃった」

「いえいえ〜気にしないでください!」

「ありがとっ」

神田さんは姉さんのことを大切にしてくれている良い人なんだな。

そして心のどこかで残念そうにしている高校一年生男子がここにいます。

「それじゃ、また今度だね。そーだ! 今日話したことを亜梨栖に伝える時あたしも呼んで欲しいな。2人で誤解を解きたいし」

「是非!!」

「うんうん! そしたら連絡先教えてー」

「そうですね! これです」

「よし。連絡先ゲット! てか、最後まで敬語じゃん」

「あっ、すみ……ごめん」

「いいよー! じゃーねー」

こうして連絡先を交換して俺と神田さんは別れた。

今日一日で神田七海という人物の印象が180°変わった。

いや、それ以外か?

俺の姉さんを大切にしてくれる人。

こんな良い人と一緒に居るなんて…姉さんが少し羨ましい。

てか、嬉しい。

そんな事を考えながら家路についた。

するとスマホに通知が来た。

神田さんからウサギがハートを持ってるスタンプが送られてきた。

どう返信すれば良いかわかなかったのでとりあえず適当なスタンプを返した。


〜そして今日に戻る〜


「っていうことがあったんだよね」

上手く伝えられたかわからないけどあの日の出来事を姉さんに伝えた。

「ななみーーー、愛してるーー」

姉さんはそんなことを叫んだ。

てか、3日前の出来事をここまで覚えていた自分が怖い。

「んで、七海は?」

「一応連絡入れておいたんだよね」

「マジで? 七海と理稀が連絡を取り合うとかウケるーー」

ウケるーーとか言ってる割に目が笑ってないのは何故?

「こんばんはーー。な、な、みだ、よぉーーー」

玄関の方から叫び声が聞こえた気がする。

俺と姉さんは顔を見合わせた。

姉さんも不審がっているってことは幻聴ではないらしい。

女性の……聞き覚えのある声。

「七海?」

「えっ?」

「今の声さ…七海っぽかったんだよねー」

そう言って玄関に向かう姉さん。

一応俺も付いて行くことにした。

このマンションにはエントランスがあるしそこの自動ドアをどう通過したんだ!?

ドアを開けるとハンバーガーショップで会った姉さんのお友達がいた。

「ごめーん、遅れたわー。理稀くん、亜梨栖〜会いたかったよーー」

俺たちに気づいてこちらに走ってくる。

「ゔぇっ」

玄関で両手を広げたのでてっきり姉さんとハグするのかと思ったら俺だった。

完璧に油断していたので変な声出た…

「コラッ、あたしの弟に手を出すなー」

姉さんが必死に剥がそうとするも抵抗する神田さん。

「やっと会えたねー」

「こ、この前会ったばかりですよね」

「そーなんだ。あたしより理稀の方が好きなんだ。へぇーー」

おっ、姉さんが拗ねた。

「ごめーーん。ちょっとした冗談だよ」

そう言って玄関に上がった。

「大好きだよーーあーーりすー」

「も、もぅ…どこ触ってんのよ」

「えっ…言った方が良い?」

「言わんで結構」

弟の前でイチャつく姉とその友達。

これを見せられても嬉しくないんだけど…。

ホントだよ?

「なーに見てんのよ」

俺はその光景をつい見てしまったら神田さんに絡まれた。

「いや、別に?」

としか言えません。

「てか、どうやってここまで来たの?」

「えー、なんか開けっ放しになってたから入ってきちゃったー。あはは〜」

あはは〜じゃねーよ!

「え、うちのマンションセキュリティガバガバなの? 怖っ」

姉さんが割と心配そうに家の鍵を速攻閉めた。

俺も管理人に連絡しようかと思ったら下駄箱の上に『自動ドア更新のお知らせ』というものが置いてあった。

日付が今日と明日の2日間。

『工事期間は警備員を雇うのでご心配なく』と書いてあったんだが…。

まぁいいか。

てか、ここであまり騒ぐと何時ぞやの紫依奈事件のように月羽に迷惑をかけてしまうかも…

とりあえずリビングへ向かってもらおう。

「ここで話してもあれだから奥へどうぞー」

「ありがとー」

こうして俺と姉さんと神田さんが揃った。

リビングに戻ると俺はテーブルにお二人はベッドに座った。

「七海〜。あんたのおかげで理稀と和解したよ。ホントありがとう!」

「よかった、よかった」

姉さんは神田さんに抱きついた。

そして姉さんの頭を撫でてる。

……。

えっ…気まずっ。

とりあえずスマホを出して暇つぶし。

スマホにはこの前、生産終了したタペストリー再販するとメールが来ていた。

今俺が欲しいのが『この人が姉ですか』というタイトル。


違うんだ! たまたまこういうタイトルなだけで。

別に姉が好きって事ではない!

このキャラデザが好きなんだ。

まぁ、俺が好きなのは姉の友達である奈美だし。

姉の友達……ん?

いや、何も気付いてない…気付いてない。

そう自分に言い聞かせた。

うん、何回見ても可愛い!

そう思いながらタペストリーのデザインを眺めている。

スマホをニヤけないように注意しながら見ていると神田さんの声がした。

「2人が和解したってことはあたしの仕事は終わったわけね」

「そうかな。ホントありがとうね」

「もぅ。わたしは用無しってわけね〜」

「いや、そーゆんじゃなくて…」

姉さんとその友達が話してるのを流し聞きしながらスマホと睨めっこ。

「んー、どうしたの? 寂しいの?」

不意に神田さんから声をかけられた。

「あっ、いや、別に何も…」

「あー、そのスマホであたし達を撮ったんでしょ」

なんでやねん!

「え? 撮ってないですけど…」

だがスマホは姉さん達の方を向いている。

最近家で使う時は首の負担を軽減すべく前向きで使っているのだ。

それが仇となった。

「みせろー」

ベッドの方から神田さんが走ってくる。

「嫌ですっ!」

俺は必死に抵抗する。

冷静に考えればスマホをホーム画面に戻して『何も見てませーん。ドヤァァァ』にすれば良かったものの冷静でなくなっていた。

そのため必死に画面を見せないことだけに集中してしまったのだ。

そして不意に脇腹を突かれたのと同時にスマホを床に落としてしまった。

「ごめーーん、今拾うね」

そう言って神田さんがスマホを拾い画面を見て、その瞬間『あっ…』という声が聞こえた。

その後画面をスクロールして色々見ている。

そして表情が曇っていく。

ん、やばくね?

「ねねっ、理稀くん?」

「はい」

「これはいけませんね」

「すみません…」

俺よ……何故謝ったんだ。

そしてスマホを俺に返した。

「ここにいるじゃん。姉の友達で黒髪の女の子」

「えっ?」

「こういうの好きなんだね。そっか…そっかー。今日なら…いや、今日から好きにしていいよ? あーんなことや、こーんなこともオッケーよ♡」

そう言って俺をベッドの方へ連れて行く。

「ちょっ、あたしの弟に手を出すなー」

姉さん! 助けてくれるのか。

さすが弟思いのお姉様!!

「あたしもまぜろー」

なんだとこのやろー。

そして姉さんと神田さんに挟まれている状態。

ヤバイ…無駄に緊張して息が荒くなっている。

「何をして欲しいのかな」

俺の耳元で囁く。

「釈放してほしいです」

「ダーーーメッ」

そう言って俺の頬を突く。

「ねぇ…ここっ。触ってみる?」

そう言って神田さんは俺の腕を掴んだ。

……!!

そして俺の手を胸に押し付けた。

や、柔らかい……

決して表に出せない感想。

……しゅーーぅ。

俺の脳内回路がショートしました。

ナニモカンガエラレマセン…

「こらーー、セクハラだそーー。うちのピュアピュアな弟に何をするんじゃー!!」

「良いじゃん♡ 亜梨栖もこのくらいやってるでしょ?」

……!?

「べ、別にしてませんけどぉ?」

誰もがウソだとわかる否定。

「ほんとかなぁ? チューとかしたんじゃない? 高校生の男女がぁ、一緒に暮らしてるんだもんねぇ?」

「しゅ、てませんわ……痛ぁ」

姉さん噛みました。

「ふふっ…ねぇ。理稀くん。じ、か、に、触りたい?」

耳元でそう囁く。

「そうはさせるかぁーーー」

姉さんは俺の左腕を掴んだ。

そして何をするのかと思えば姉さんは夏用のジャージをめくり俺の手を胸に押し付けた。

「あ、あたしの方が大きいでしょ? こっちの方がいいわよーーほれほれーー」

「ちょっ…やめっ」

「ぐぬぬ…大きさでは亜梨栖には勝てんのよ…」

「こうなったらーー」

一度俺の右腕が解放された。

神田さんが上着を脱ごうとする手を止めた。

???

そして姉さんもそーーっと俺の左腕を解放した。

???

どうしたんだろうか。

……。

俺はひとつわかったことがあった。

後ろに誰かいる!!


恐る恐る後ろを振り向くと…

腕を組み仁王立ちするお隣さんの月羽様がいらっしゃいました。

アニメのように瞼をピクピクさせており、最上級にご立腹であることがわかる。

「あ、あのぉ…」

「ん?」

「これは…」

「なにか弁解はあるかしら?」

「弁解の余地もありません……」

「そっか…やっぱりヨシくんはお胸の大きなお姉さんが好みなのね!し、か、も、2人もっ。あーーそうですか。ごめんなさいね。胸が平野の同級生でっ!!!」

「これは…」

姉さんが何か言い訳をしようとしている。

「はいっ? なにか?」

「いぇ…なんでも……」

いつもは言い争いをする姉さんだが…

今日は蛇に睨まれた蛙のようだった。

「理稀くん…名前が分からんその子をギュッとしてあげれば?」

俺の耳元でそういう神田さん。

「いやいや、この状況でそんなことしたら殺されますよ!!」

「大丈夫!その時は…その時だよ!」

そう言って親指を立てる。

適当に思いついて言っただろーーー!

「こうなったら…『神田恵海先生』にご連絡ですね。教え子が変なことしてますって」

「え?」

神田さんの表情が変わった。

「ねぇ。今…『神田恵海』って言った?」

「えぇ。ヨシくんの担任ですけど?」

「それ、わたしのお姉ちゃん……かも?」

……。

「「「えええぇぇーーー」」」

部屋中に声が響き渡った。

ヤバい…お隣さんに迷惑が……あっ、お隣さん目の前に居ましたわ。

「メグちゃん…って七海のお姉ちゃんだったんだ」

「ちょっ…メグちゃんって」

あたふたする神田さん。

「どうしたのよ。焦って」

「あのお姉ちゃんにメグちゃんなんて呼べるの凄すぎるんですけど…」

神田さん以外『???』って感じになってる。

「わたしには到底無理だわ…」

「どゆこと?」

「あの真面目でしっかりしてて『冗談…は?』って言いそうな完璧人間に近いお姉ちゃんだよ?」

「それ…人違いじゃない?」

「うんうん。あたしもそう思う!」

いつの間にか月羽の怒りは消えていた。

たぶん…

ふと、昔メグちゃん邸に遊び行った時の事を思い出した。

「神田さんってメグちゃん邸に行ったことあります?…そのご飯作りに行ったりとか」

「あるよーー! 料理だけは苦手なのよねー。お小遣い稼ぎにたまにご飯作りに行ってるんだ」

「そうなんですね!」

「えー、てかなんで、それ知ってるの?」

「前にメグちゃんから『妹にご飯作ってもらってる』って聞いたんですよ。だからメグちゃんと神田さん…いや、七海さんは姉妹だ!!」

「『謎解けた』みたいに言ってるけど…全然カッコよくないよ…」

「ガーーン」

「うそだよ〜」

4人は笑った。

そして月羽は何かを思い出したように俺の方を向く。

「って!あたしはまだ怒ってるんだからねっ!!」

「あっ…ほれ、ギュッとしてやれって」

そう言って七海さんは横腹を突いてきた。

そして俺のことを押した。

油断していたので体が月羽に引き寄せられるように密着した。

「ちょ、ちょーー」

一気に月羽が茹でた蛸みたいに真っ赤になった。

「ごめんな…月羽。あんなところを見せてしまって。俺が悪かった」

内心俺は被害者だと思ったけどそれは口にしなかった。

「そ、そう。反省しているなら許す…でも、次はないからね!!」

「ありがとう」

そう言って月羽の頭を撫でた。

偶然見入ってしまったドラマのワンシーンを真似しました。

一か八かの賭けだったけど成功みたい。

よく頑張った……オレ!

「もぅ……」

「めでたし…めでたし〜。さて、七海ちゃんは今夜泊まることにしました〜」

なんで!?

「はぁ? ちょ、まだ電車走ってるでしょ?」

「ひどーい。親友を無理矢理帰そうとするなんてー。理稀くん拐って駆け落ちするぞー」

「はいはい…わかったわよ…着替えあるの?」

「ンフフ…あると思う?」

「無いわね…」

「せいかーい。亜梨栖の貸してね♡」

「嫌よ…『入らない』とか『こんな派手なのつけてるんだー』とか言われるし…」

「言わないって!」

そんな2人のやり取りを見てる俺と月羽。

「じゃ、お二人さん仲良くやって…俺は月羽のところにお邪魔しようかなー?」

絶対そっちの方が安全。

この2人に挟まれるとか寝られるわけがない。

「えぇ? ヨシくん来るの!?」

あれ、意外とダメな感じ?

「ダメかな?」

「そ、それは…良いんだけど、散らかってるし…片付けてからなら…」

「大丈夫!」

綺麗好きな月羽の『散らかっている』は一般人からすれば普通。

俺からするとどこが散らかってるのかわからないし。

「ねー、3人でイチャつこうぜー」

「そーだぞー。良いところだったんだから続きますしよ?♡」

年上のお姉様方々がそう言っている。

これは早急に逃げる必要がありそうだ。

誰でもわかる危険なやつ!

月羽は『どうしよ…ここでヨシくんが捕まったら…ヤバそう。でも片付けないとぉ』なとど赤面しながら呟いている。

そんな感じの部屋にインターホンの呼び出し音が鳴り響いた。

この『ピンポン』って音はエントランスホールへ入るための呼び出しではなくこの部屋に対する呼び出し音。

え、誰?

騒いだから上もしくは下の住人に迷惑をかけてしまったか…。

そしたら姉さんと2人で謝るしかないな。

恐る恐る玄関へ向かい扉を開けた。

「こんばんは」

そこに居たのは我が担任メグちゃん。

え……なんで!?

少しの間フリーズしてると『ちょ、来ちゃダメだったかな?』とソワソワし始めた。

「いえ、その…驚いてるだけです」

「サプラーイズ!!」

……。

……。

「無理しなくて良いですよ?」

「うっ…」

「まぁ、玄関で立ち話もあれなんで、どうぞ」

そう言ってメグちゃんを部屋に通すことにした。

とりあえずリビングが変なことになってないことを願うのみ。

月羽は心配ないけど他2人が心配でしかない。

メグちゃんの前を歩きリビングへ通した。

「お邪魔しまーす。誰もいない…わけないよね…」

少しガッカリしたように言ったのは何故なんだろう?

「来客が2人にお姉様がいますよ…」

俺も便乗してガッカリしてみた。

そしてリビングの扉を開けると月羽がテーブルに伏せながらスマホをいじって、姉さんと七海さんが何やら話していた。

「こんばんは〜」

その声に3人が一斉にこっちを向いた。

「「あー、メグちゃんだー」」

見事にシンクロ。

さすがにお互い驚いていた。

「あなた達息がピッタリね」

「ですねー」

月羽が笑った。

前に比べてあの2人仲良くなったよな。

うん、いい事だ。

関心していると、七海さんが立ち上がった。

『なんで、お姉ちゃん居るの?』的な感じかな。

それかもっと驚くか…

「なんでお姉ちゃん来たのおおぉぉ?」

マジで驚いているご様子。

「うわぁぁ、なんで七海ちゃんいるのおぉぉ?」

姉妹同じような驚き方。

真似たか?

……。

……。

お互い本気で驚いたらしくお互いに絶句している。

「わ、わたしは教師として家庭訪問しただけよ? 別に下心なんてないわよぉ?」

「ナナは亜梨栖に会いに来ただけだし…、そこにぐーぜん、弟くんがいたってわけ」

目が泳ぎまくってますよ。七海さん…

そしてトコトコこちらに向かって歩いて来た。

「んで、ナナの彼氏さんになるからよろしく〜」

そう言って腕を絡めてきた。

七海さんを見るとウインクしてきた。

え、なにこれ。

可愛すぎる…

惚れそう。

「「させるかーー」」

今度は月羽とメグちゃんがシンクロ。

姉さんはポカーンと思考停止中。

思ったけど、自分のこと『ナナ』って呼ぶの可愛くない?

てか、いきなりどうした。

「ナナこれから理稀くんと、愛を確かめてくるねっ」

「えぇ?」

なんてことを言うんだ…。

「お姉ちゃんが許しません。帰るわよ七海!」

「えぇ…お姉ちゃんと愛を確かめ合うのも悪くないけど…」

「ちょっ! ご、誤解よ、みんな!!」

俺含めた3人がドン引きしている。

いくら仲が良くてもそれは…ないわ。

え、人のこと言えないだろって?

はて? なんのことやら…

少し前の記憶がどこかに飛ばされたらしい。

最近風強い日が多いからだね!

……。

「なーんてね。少しからかってみましたー」

「七海ちゃん…洒落にならないから…」

「おねーちゃん。ごめんねっ」

明らかなキャラ崩壊。

さっきまでは姉さんの友達としてノリのいい女子高生だったが、今は姉に甘える妹って感じ。

その場その場でキャラを作り分けているのか。

こうして皆と仲良くやっていくんだな。

使えるかわからないけど『その話合わせたキャラ作りは大切』と脳内メモリに保存しておこう。

「とりあえず今日は帰るわよ! 姉妹2人でお邪魔するわけにはいかないでしょ?」

「いや別に…」

そう言いかけて止まった。

うちのマンション意外と広いから5、6人泊まっても全く問題ない。

しかし、寝床がない。

半分は床で寝ることになる。

それは嫌だな…

今度布団買うか。

「ううん。今日は帰るね。また出直してくるからっ」

そう言って七海さんの腕を掴んだ。

「ちょ、待って! バッグ持ってくるから」

そう言って姉さんのベッドの上には置いていたバッグを手に取りメグちゃんの所へ戻ってきた。

「またね。理稀くん♡」

「また来てください!」

「うん。ナナ…また会いにくるね」

そう言って俺だけに見えるように手を振りリビングを出て行った。

俺は頷いた。

なんか、それしか出来ませんでした。

一人称を名前(ナナ)にしたことで俺が少しだけドキッとしたことに気づいたのか!?

怖っ…

でも可愛かった…

玄関まで2人を見送ったあといつもの3人が取り残された。

月羽は『なんか色々疲れたから帰るわ』と神田姉妹が帰宅してからすぐに帰っていった。

家が平和になったので俺も寝る準備を始めた。

と言ってもまだ21時半を回ったところ。

特にやることもないし最近日の出を見るのが密かなマイブームなので早起きを頑張る。

そう言ってもまだ2回しか起床成功してないけどね。


ふとテーブルの上に置いてある卓上カレンダーを見ると明日の日付のところに花火のマーク。

そう。明日は待ちに待った花火大会。

わーい楽しみー!!

しかし…


"今のところ誰からも誘いが来ていない……。"


そこにいる我が姉からも特になし。

お隣さん月羽からも特になし。

けど、ここから見ることができる!!

一人で観る花火も乙なものだろう。

さ、寂しくなんか無いし……?

そんなことを思いながら寝支度を整えベッドに潜り込み瞼を閉じた。

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